渚にて
【お断り】「王子、岩、行為」の三題噺です。
(以下、本文)
流謫の王子が黙々と海に向かって岩を投げ続けている。
この追放された火の神は全身、垢と汗と泥にまみれ、二本の手首足首を重い鎖で縛(いまし)められ、鎖は掘り下げられた岸壁に打たれた鉄の杭に繋がっている。
この神の姿は私にしか見えない。
この神の遊びを私は人に告げない。言えば、もっと重い薬に変えられるだけだ。
私の先生は5年前に措置入院したきりだ。
仕方ないと思う。凶報ばかりもたらす予言者は殺されて当然だから。
「日本の神がやる事と言えば、性行為と暴力行為だけだ」と、ある日ある時ある場所で、ついうっかり口にしたらネットで叩かれた。
私はパソコンもスマホも持っていないが、遠い親戚や、とっくに付き合いの切れた友人たちから「見知らぬ男たちが来ては去り来ては去りで写真を撮って行く。ネットで個人情報を曝されている。人が遠ざかって仕事にも支障が出ている。どうしてくれる」と、こっぴどく叱られた。
私たちが生きている、この素晴らしい世界は黄泉の国みたいになったな。
いや、火宅か。これでも、まだ私のことを、生かしておいてくれてはいるのだから。
まあ、私も人の事は言えないか。
神がする事の意味が私には分からないからだ。
神の言葉は私には聞こえないからだ。
いや、神には意味も言葉も無いのかもしれない。
「神に祈りは通じません。良い事をしても悪い事をしても報いはありません。もちろん偶然でもありません」などと真実を口にしたら、私はまた敵を作る事になるだろう。
私はしぶきを上げて波の間に消えて行く岩を見続けるだけだった。
母が心配して私を探しに来たので一緒に帰った。
あの大津波が来る三日前の事だった。