![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/110766164/rectangle_large_type_2_12c86d87e186c48d71fda0450c3661e7.jpeg?width=1200)
ゲームで子供が1型糖尿病と戦う「Monster Manor」
一般的に、糖尿病と表現されるものは、2型糖尿病を指している。これは中年〜高齢者に多く、糖尿病の95%を占めている。また、2型糖尿病は生活習慣に関連し、インスリンは分泌されているものの、インスリン抵抗性(インスリンの効き具合)が増加してしまうという症状で、インスリンの相対的欠乏が生じるタイプである。
一方、そんな「糖尿病」の中でも、小児から発病してしまう糖尿病も存在する。それが1型糖尿病だ。1型糖尿病は自己免疫学的機序によって発病し、インスリンがそもそも分泌されない絶対的欠乏が生じる。日本では1 型糖尿病は極めてまれで、小児期発症患者は年間 10 万人当たり 1.5~2.5 人で糖尿病の5%を占める。
今回はそんな小児疾患である、1型糖尿病の治療にアプリで改善に取り組んだ「Monster Manor」と、1型糖尿病患者への自己管理を行ったゲームのメカニズムを検討したシステマティックレビューを紹介する。
Monster Manor とは?
「Monster Manor」は1型糖尿病の子供たちに、定期的な血糖値検査を通じて、より良い自己管理を促すためにイギリスで作られたアプリだ。
1型糖尿病の子供たちは、血糖値を自分で測定し、記録し、自己管理を行っていく必要があるが、血糖値の目標値を達成しているのはわずか15%である。
実際に、子供たちが1日2回注射を行い、血糖値をコントロールすることは、かなりの負担であり、医者や家族からその確認をされることもストレスに感じることが多いという。
「Monster Manor」を使用すると、そんな毎日の負担が楽しみに変わる。
子供たちは血糖値の情報を入力するたびに、アプリ内でピニャータというくす玉を叩くことができ、賞品を受け取ることができる。
また、アプリ内で情報を記録することによって、家族や医療専門家が血糖値の傾向を発見するためのツールにもなる。
糖尿病の自己管理を促すシリアスゲームへのスコーピングレビュー
では最後に、このようなゲームが実際にどのような効果を発揮するのか、2022年に投稿された J Nørlev らによるこちらの論文を見ていこう。
実際に過去に現場で使用されたゲームの要素、細かい内容等、長くなってはしまうが紹介する。
Game Mechanisms in Serious Games That Teach Children with Type 1 Diabetes How to Self-Manage: A Systematic Scoping Review
目的
1型糖尿病患者に自己管理方法を教えるシリアスゲームの内容を挙げ、自己管理の指導にどのように貢献しているか明らかにする。
方法
children,diabates,education/learning,(serious/video)game の4つの言葉を組み合わせ検索し、系統的スコーピングレビュー(関連する論文の概観を可視化する評価手法)を行った。
結果
800件の対象論文のうち、18件が抽出された。
ゲーム内容としては数が多かった順に以下の7つが挙げられたnarrative contexts
全てにストーリーが存在し、現実的な医療をテーマにしたもの、ファンタジーをテーマにしたものの両方が存在した。
半数以上で、1型糖尿病を自己管理するキャラクターを助ける内容が中心であった。
自己に対する理解の向上、参加意欲やモチベーションの向上にも影響した。
feedback
全ての論文に含まれていた。
ゲームの進行に対して、励ましやキャラクターの表情の変化、健康の変化等が含まれており、学習と内省に貢献した。
avatars
アバターを操作し、行動を模倣することで自己管理を学んだ。
また、アバター自体が医療専門家になり、1型糖尿病に関しての概念を理解しながら患者の世話を行った。
simulations
様々な自己管理状況を練習・体験することで、現実的な結果に到達する前に、自身の選択の結果を知ることができた。
その結果、実世界での選択に応用される可能性が高まった。
goals
1型糖尿病に関する目的が設定されており、目的を達成すると、子供たちは勝利を感じ、知識と自信を得ることができた。
目的のレベルは子供達の知識によって調整され、複雑なものは後回しになった。
また、目的そのものを達成していく喜びと楽しみによって、ゲームのプレイ時間が長くなった。
levels
レベルには、ゲームのステージやプレイヤーのスキルに関する情報が含まれている。
一つの論文ではゲーム時間の延長を目的とし、導入に反対であったが、他の論文では賛成であった。
知識によってクリアできるレベルが変わり、高くなるほど高度な知識が要求される様になった。
子供たちは、達成可能なレベルに到達するために、何度も同じステージをプレイするため、繰り返し学習が行われ、知識の定着に繋がった。
social interactions
他の患者や医療専門家、家族等、友人とのコミュニケーションのために使用された。
いじめや汚い言葉の使用を防ぐために、ある程度決められた内容で話すことが可能であった。
また、ゲーム自体に多人数で参加し、互いに競い合ったり、協力しての勝利を目指した。
友人との糖尿病に関する議論の活性化、治療へのアドヒアランスの向上などに繋がった。
考察
上にあげた複数の要素を組み合わせると、シリアスゲームでは最も効果が発揮される可能性があるものの、それぞれの相互作用については未だ不明である。
今回であれば、1型糖尿病とそのゲーム内容・自己管理がどれだけ結びついているか、が効果を発揮するためには重要である。
social interactions においては、多くの1型糖尿病の患者は同年代の他の患者と接する機会がほとんどなく、この様な形での交流の増加はさらなる自己管理、理解につながる。
feedback,narrative contexts,goalはやる気を起こさせ、プレイ時間の延長に繋がり、子供達がゲームから離れることを阻止することで、学習機会の増大をもたらした。
まとめ
今回はゲームを用いた医療への介入の中で、相性が良いと考えられる、小児疾患である1型糖尿病に関するゲームを紹介した。
今後は、1型糖尿病に限らず様々な疾患、主に慢性的疾患で、病気への理解・自己管理をメインとしたゲームが増加してくるであろう。
参考記事
https://wirelesswire.jp/2013/11/43502/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9445355/
https://www.pmlive.com/blogs/digital_intelligence/archive/2013/october/sanofi_launches_a_monster_mobile_diabetes_game_for_kids_511764