手術中のVR療法と麻酔薬使用量の関係性〜VR療法は麻酔の補助をできるか?~

要約

手術中のVR療法の使用は、患者の満足度を保ちつつ全身麻酔薬の使用量を有意に減少させることが示された。
手術中に限らず、腰椎穿刺や怪我による包帯の処置時・ワクチン接種時など、特にこどもが医療・病院に対して不安を感じる場面は多く、多くの医者が苦労している場面で患者の不安低下にVRを使用できる可能性はあるのではないのだろうか。

麻酔についての現状

外科手術を受ける際には疼痛管理や意識を取り除くために、麻酔を行うのが一般的である。
麻酔は、患者さんを眠らせる全身麻酔と、意識を保ったままの局所麻酔に大きく分けられる。

今回は局所麻酔において、VR療法を麻酔代用の有効な補助手段として利用を試みることをXRHealth社の研究を参考に考える。

参考論文:
Virtual reality immersion compared to monitored anesthesia care for hand surgery: A randomized controlled trial
Published: September 21, 2022 
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272030

この研究は、術中 VR の使用により、通常のコントロールと比較して、患者の満足度を損なうことなく、待機的な手の手術中の鎮静剤の投与量が削減されることを期待して行われた。

VRイメージ画像:

背景としては、手の外科の手術においては、一般的には2種類の麻酔方法(術前の局所麻酔と術中の麻酔)を用いるが、局所麻酔の使用量が適切にも関わらず、術中に麻酔薬を過剰に投与される可能性が存在していたためである。
この背景を踏まえ、VRを用いることで、患者の手術満足度に悪影響を与えることがなく、疼痛管理を適切に行いながら、麻酔薬の使用を最低限に抑えることができるのではないか?と考えた。

そこで、研究の主要評価項目としては、術中の時間当たりの全身麻酔薬の使用量(プロポフォール用量)を設定した。
また二次的なアウトカムとして、麻酔後治療室の入院期間、患者が報告した痛みと不安、全体的な満足度、機能の戻り具合を設定した。
研究方法は、術中麻酔管理に加えて術中 VR を受けるか、通常の麻酔を受けるかのいずれかに無作為に割り付けられた。(n=40)

結果としては、VRグループの患者は、対照グループの患者よりも1時間当たりプロポフォールの投与量が有意に少なかった。
また、VR グループの患者 17 人中 4 人だけが術中にプロポフォールを投与されたのに対し、対照患者は全員がプロポフォールを投与された。
その一方で、VR 群の方が有意に多くの患者が外科医による追加の局所麻酔を受けていた。

二次アウトカムに関しては、有意差が現れたものは手術室中でVRグループ群が自分がどの程度意識があったか覚えていた、という点だけであった。

結論としては、VR療法を行った群では、プロポフォールの投与量が有意に少なかったが、患者が報告した痛みや不安のコントロール、満足度には差がなかった。

以上の論文から考えられることは、以下である

  • VRを使用することで、従来のプロポフォールと変わらない満足度が得られたこと。

  • VRによる映像でも多少の鎮静効果や逃避効果が存在すること。

  • しかし、懸念としては、より多くの局所麻酔を必要としたこと。

  • そして、局所麻酔の多くの使用により中毒に繋がる可能性があがるのではという懸念がある。

  • 術中に急遽プロポフォールの使用が決定することで、人手が足りていない場合に麻酔科医のさらなる負荷になる可能性が上がる。

lenovoはこの他にも、子供向けの全身麻酔薬の代替品として仮想現実ヘッドセットのテストを行っており、重症の小児患者の注意を周囲で実際に起きていることからそらすことでパニックや痛みを軽減することを目指している。
また、手術中に限らず、腰椎穿刺や怪我による包帯の処置時・ワクチン接種時など、特にこどもが医療・病院に対して不安を感じる場面は多く、多くの医者が苦労している場面で患者の不安低下にVRを使用できる可能性はあるのではないのだろうか。
脳の注意を痛みや不安ではなく、VRに向ける。
VRという既存のテクノロジーを用いれば少しでも疼痛管理や薬使用量の低下をさせることができるかもしれない。

参考文献
XRHealth:https://www.xr.health/chronic-pain-treatment/
https://venturebeat.com/ai/harmonizing-human-potential-and-ai-the-evolution-of-work-in-the-digital-era/
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272030


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