【連載小説】『極限遊戯戦記 ゲームウォーリアー』
・第1話
―――これはもはや、“遊び”の領域じゃない! 遊戯という名の世界ッ、そして時代を生きる者たちの闘いだッッ!!
『SYSTEMCODE・【GAME WORLD ONLINE】EXECUTION――!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆
―――これは近未来。即ち皆様が生きる時代より遠からずも、そう遠い未来ではない未知の物語です。
その時代は、インターネットを使った通信やコンピュータとを駆使する情報技術、“IT”が今よりも長けた技術を持った最先端の時代になっていたのです。
特筆すべきは、インターネットを司る電脳情報空間・サイバースペースと現実の世界を繋ぐ技術を得るまで、あともう少しまで来ているという所。
“VR”や“AR”の概念を超越した、人々の心身を電脳世界に完全転移させる技術。それを達成するために世界の科学者達はあらゆる知性を張り巡らせて、ようやくその二つの世界を繋ぐパイプとなる超容量の転送データ【トランスホール】の完成へと導いたのでした。
―――しかし、これらの『完全なる電脳世界への行き来を可能にした技術』とは聞こえが良いものの。
世界政府がこれを遂行する本来の目的は、独裁国家や過激派による暴挙から逃げるためのシェルターの役割に、電脳世界を逃げ道に使おうという保守的な考えあっての事だった。
………何だか夢がありませんね。自分達が築いた最先端技術を逃げ道に使う前に、自分達の力で目の前の揉め事を丸く収めれば良い話なのに。
それだけ発展された情報化社会の影響か、それに反比例するように人々の情が薄れてきたのでしょうか。
そんな世界行政の流れ、怠惰な世界観に嫌気を指した遊び人気質の科学者の一人がこう呟いた。
「―――人生はゲームなんだ」
最初は、誰しもがこの夢想な考えをまともに聞こうとする者など居なかった。
けれども、彼のゲームに掛ける想いは本物であり、彼は業務外やプライベートの時間を見つけては、毎日独自の研究開発に没頭した。
――――その開発の最終目標は、“地上最大の電脳ゲーム世界”を創る事。
初めは小さなフォルダ程度の容量でしかなかった一つのゲームデータは、修復と改善を繰り返して増幅し、苦節数十年の年月を積み重ねて、人口の殆どの人々を転移させられる程の巨大なネットワークを造り上げるまでに成長した。
残す課題は『ネットワークと現実世界を繋げる為の移動手段』のみ。そう、【トランスホール】の完成が待たれた。
―――ところが、トランスホールの完成直前まで来た所で、予想だにしない出来事が起こった。
“トランスホールに予期せぬエラーが発見された。”
本来開拓や避難のために使うはずだった拡大土地の電脳空間と、現実世界を結ぶパイプの役割を果たす筈だったトランスホールが、その道標となる電脳回路と通信機能との波長が合わずエラーを起こし、どうしても接続まで漕ぎ着けなかったのだ。
このままではプロジェクトは中断? 現実と電脳の世界を結ぶ唯一の管は撤去せざるを得ない!? …………冗談じゃない!!
そう指弾するように叫んだのは、例の電脳ゲーム世界を創り出している遊び人気質の科学者だった。
科学者の創造した電脳ゲーム世界の完成を直前に控えており、トランスホールの完成が同時に世界の創世を意味していたのだが……それが途絶える事が科学者にはどうしても我慢ならなかった。
こんな無機質で、怠惰な日々に耐えられなくなった科学者は、極秘ルームに隠していたトランスホールのデータを遂にその手で強奪してしまった!
最先端技術の予期せぬ出来事を恐れ、躊躇うのが一般的だった科学者勢の中では、彼は血迷っているか衝動性に駆られた行為にしか見られていなかった。だがゲームの魔力にとり憑かれた彼を、止められる者は誰もいなかった。
彼はただ無心に、意味深に、電脳ゲーム世界に込めた想いを喉が張り裂けるばかりに叫びながら使命を全うする……!
そして彼の手のみで出来上がった電脳ゲーム世界を繋ぐ巨大ネットワークに『トランスホール』データが組み込まれ、彼が制御する無数のコンピュータからコマンドプログラム・実行コード【GAME WORLD】が発動した!!
―――NOWLORDING……CONNECTED!▽
トランスホールと電脳ゲーム世界を繋ぐ回路に異常なエラーは出ず正常のまま保っている。
この奇跡の結論から、巨大ネットワークと現実世界が人類で初めて、完全に繋がった!
怠惰から抜け出した歓喜の極致から、子供のように喜ぶ彼は彼をなんとか止めようとする同僚をはね除け、無我夢中でゲームワールドに転送していった。
―――しかし!!
『WARNING! WARNING!!』
大きなパソコン画面から非常警告とアナウンスが鳴り響いた。これまでのエラーとはあまりにも深刻、かつ致命的なエラーが発生。
そして全てのコンピュータがブラックアウトした画面にくり抜かれた文字が、この末路を物語る。
【TRANSFER FAILURE】
………これを最期に彼はデジタル粒子の如く消滅し、そのまま還っては来なかった。科学者一同は、ゲーム世界で消滅してしまった彼を悼んだ。
極秘の装置を強奪することは政府への反逆に等しい行為であったが、それでも電脳世界と現実を繋げた成果と、世界規模を誇るゲームのネットワークを造り上げた事が、政府からは大いに評価された。
曖昧なルール、理不尽な上下関係、実力から比較され生まれた、格差社会の報われない日々……
一人一人感じた憂いが、知らぬうちにある願望を膨大させていく。
―――退屈な世の中を覆したい、と。
そんな情景が人々の好奇心を駆り立て、二つの世界を行き来する最先端のゲーム空間の誕生に、皆心踊らせた。
無限に広がるゲームの世界? クリアすれば豊富な報酬!? ゲームの実力次第じゃ金も、名声も、強大な力も手に入る!!
―――これは凄いッッ!!!
やがてゲームワールドの魅力の虜になった人々はゲームに取りつかれたかのように夢中になり、それが世界の情勢をも大きく変えてしまう程に、即ち“ゲームで世界が動く時代”と化していったのだった。
後にこの出来事は近未来の歴史を大きく変え、世界は【ゲーム超次元時代】を迎えた。
◇◇◇
―――しかし、これが人々の理想の幸せであったかどうかなど、我々には断定は出来なかった。
……何故って?
ゲームが全てを左右する“超次元ゲーム時代”を生き抜く者達が、そのゲームへの欲望を満たす為に、人間の極限から生み出された異能力を身に付ける事になるのです。
―――そんなゲームの為に、不思議な力を身に付けた者こそ、
極限の魂を宿したゲームプレイヤーにして戦士、【ゲーム・ウォーリアー】。
ゲームの熱意によってあらゆる異能力を生み出す者の存在が、新たな戦いを呼び起こすのですから……!!
・第2話
―――ゲームウォーリアーの読者の皆様、はじめまして!
私はこの物語を皆様にご案内します進行役、つまり小説の語り手を担当させて頂きます完全自立型AIナビゲーター・“Mr.G”と申します! 以後お見知りおきを。
シルクハットをヨコ長に被り、黒タキシード羽織って脚長ジェントルマンなMr.Gですが。いざ語りとなれば、携帯型釈台を首から肩に掛けて、張り扇の代わりにステッキ持ってカツンと調子合わせ! ……って、これじゃ明治時代の講談師みたいですね。
とまぁこんな感じで、このゲームウォーリアーのストーリーを面白く、時に迫力満載に盛り上げていきます!
さぁさぁ皆様お立ち会い、視線は字の方に寄せて寄せて。『極限遊戯戦記 ゲームウォーリアー』、最後までごゆっくり御一読の程を!!
―――参りましょう、
『オープン・ザ・ゲート』!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
【ゲーム超次元時代】を迎えてから約五十年の月日が過ぎた、超次元ゲーム西暦・0050年の頃。舞台は日本、関西の中核・大阪。
大阪は日本の中でトップクラスにプレイヤーの数が多いんだとか。
そんな大阪の中心・通天閣がトレードマークの浪速区の下町情緒溢れる住宅街。新生活の風吹く四月の朝の陽気から、女子高校生の元気な声が。
「行ってきま~す!!」
彼女の名前は河合みのり。
ここ浪速区の私立『天童学苑高等学校』の1年生で16歳。ミディアムヘアかつ純粋無垢が特徴的な、高基準で綺麗な女子高生。
父は幼い頃に離婚しており、今は母子家庭の肩身狭さがあるが、母があの話題のゲームワールドオンラインを管理する【ワールドゲームコーポレーション(通称・WGC)】の重役を任されている故に、生活面では何の苦難も無かった。
しかし親の多忙な仕事が原因で、みのりは今まで“親友”を作ることが出来なかった。度重なる転勤と住居の引っ越しが彼女の人間関係を犠牲にしていったのだ。
そして今度は、みのりが高校進学する同時に大阪府浪速区に移り住む事になった訳ですが、慣れない環境で友人作りどころではなく、家の近所にゲームセンターを見つけて、そこで時間を潰す以外やることが無かった。
でもあの管理機関で働く親の子ですから、さぞかしゲームの方は優れているだろうと思うでしょうが……実は彼女はあまりゲームが得意じゃないんですよ。
「何か言った?」
いえ、別に!? てか語り手の私に何を干渉してるんですか!
「横でブツブツ言ってたら誰でも気にするもん! 失礼しちゃうな!」
……実はこの物語、語り手と登場人物を遮る“第四の壁”が無いんですよねぇ。言い方を変えるならこの作品は【メタフィクション】って事ですな。
◇◇◇
退屈な学業も終えた放課後。みのりは自ら見つけた行き付けのゲームセンターに立ち寄り、夕刻まで暇潰しタイムへ。新環境の中でも中学よりも時間の余裕が出来た為、みのりは下校時には毎日ここでゲームの練習をしていた。
「……あ、『RUI』さんが来週FPS部門でプロデビューするんだ! ずっと実況やってたし、上手かったもんね〜!」
みのりはスマートフォン片手に画面を見つめながらSNSのゲーム関連ニュースに感心しつつ、ゲームセンターへと足を赴く。 それと彼女の持っているスマホは、我々の持っているものとはちょっと違うのです。
超次元ゲーム時代では、ゲームの攻略や情報に欠かせない特別なスマートフォンが存在する。それがゲーム特化型万能スマートフォン【PLAY GEAR】である。
勿論プレイギアからソーシャルゲームも出来るし、スマホ同様にチャットや通話、アプリ利用も出来る。しかしもっと凄いのは、端末一台で100TBも容量が大きいこと。大発展したIT技術は携帯にも大きな進化を遂げたのだ。
しかしみのりさん、いつの時代でも歩きスマホならぬ歩きプレイギアは危ないですよ。と言ってる側から―――
――――ドンッ!
「きゃんっ!!」
ゲームセンターの入り口付近の歩道にて、反対側から来た男に気付かず、余所見したみのりは彼の右肩にぶつかっちゃった。
「あ……ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
尻餅を付いたみのりの目の前で背の高い男が、しかめっ面しながら彼女を見ていた。
「……あぁ、俺は平気。お前気ぃ付けぇや、狭い歩道で歩きプレイギアは不良にメンチ切られるで。ほんじゃな」
黒いショートウルフカットに175センチはありそうな長身、バリバリの関西弁からして大阪男子であるが、眼は死にかけている倦怠な高校生。一足先にゲームセンターに入店する彼に、みのりは一つ気になった事が。
(あの人、私と同じ天童学苑高校の制服……あんな男子居たのかしら?)
そんな男子に気になったか、みのりもつられてゲームセンターへ入店。喧しい程に騒ぎ立てるゲームのBGMが客を出迎えて、中では無数のゲーム筐体が立ち並んでいる。
(何処にいるんだろう……?)
最新のメダルゲームやアーケードが並ぶなかで、店内の左片隅にあるレトロアーケード筐体のコーナーにみのりは向かった。ちゃんとプレイヤーの嗜好を読み取ってる良い店だ。
(………あ、いた! ―――さっきのぶつかった男子! でも何でこんなレトロなゲームを……?)
みのりは不思議に思った。
『パック◯ン』やら『グラディ◯ス』など、80年代のアーケードが並ぶレトロゲームコーナーに、さっきの男子がたった一人でゲームに没頭しているではないか。
そんな彼がやっているゲームは、レトロゲームの基礎中の基礎。障害物のブロックを消しては、ラケットで跳ね返しての繰り返しラリー。【ブロック崩し】だ!!
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PLAY GAME No.1
【ブロック崩し―BREAK OUT―】
・ジャンル『ブロックゲーム』
・プレイヤーレベル:12
※プレイヤーレベルは幼児期に遊べるゲームをレベル1とする。
☆ルール
縦8列×横14列のブロックを左右動くラケットとボールでスカッシュの要領で崩すゲーム。持ち玉は5球まで。全てのブロックを消すと500点のスコア。
しかし5段目のブロックを消すと急速にボールスピードが早くなったり、打ち返すうちにラケットの幅も縮むため全消しは高難度。
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レトロだけどシビアな設定。さらにゲームに付きもののアイテム要素もない。ただひたすらブロックを消すだけの作業は相当な集中力を使う。
どんなプレイをこの男子は魅せるのでしょうか――?
・第3話
ブロック崩しのゲーム筐体。1プレイヤーと2プレイヤーを選ぶ二つのボタンと、中央にラケットを左右に動かすために使うダイヤル型のパドルコントローラー。これのみでレトロゲームは最大限まで稼働される。
そして操作するパドルの元には、事前に買ってあったのだろう黒いアルミ缶のエナジードリンク。それを男子はぐぐっと口いっぱいに含ませて一気に飲み干せば、倦怠だった眼もギラッと鋭く輝いているではないか。これぞゲームとカフェインの相対性理論だ!
「……っしゃ」
男子は筐体の硬貨投入口に100円を入れ、即座に1プレイヤーボタンを押した時、画面には無数のブロックが現れた。パドルダイヤルを左右回して、滑らかなラケットの動きに調子も良し、後はサーブボタンを押せばボールが発射される!
――――ビッ
ゲームスタート、サーブ発射!
甲高い電子音のサーブと共にボールは右上に飛び、片隅のブロックを消しそしてラケットがそれを打ち返す。2打、3打とラケットは固定しつつ、右から着々とブロックを消していく。
「――――凄い。返ってくるボールの位置を事前に把握していてラケットにブレがない。しかも反射的に狙いにくい右端のブロックから当然のように消してる!」
みのりが呟く間もなく、8段の層からなるブロックの溝は5段目に入り―――ハイスピードリターン! それを角度が変動することなくラケットが素早く跳ね返す!!
右端から狙ったブロックは8段目を消してブロックの壁に穴を開けた。
「………よし、天井裏いただきッ!」
ブロックの隙間にボールが入り込んだ!
ビキキキキキキキッッ
ハイテンポな打楽器と化した8ビットの電子音と、小刻みにブロックを打ち消す動き、ブロック崩しの調和が出来上がっている。
これぞブロック崩しのオーソドックスな攻略技。ブロックの壁に隙間を作り、天井の空白を利用し一気にブロックを消す技だ。
天井の8段のブロックは高得点の大行列。この技無しに高得点は狙えない。みのりもその事は知っていたのだが、一発で成功したのは初めて見たようだ。
天井を狙い穴食い状態となったブロック層。ここから少なくなったブロックを消す事は、ラケットの稼働力を大きく揺るがす故に集中力の闘いとなる。しかし男子は乱れる事なくブロックを消す。
そして……残りブロック1個!
ボールがハイスピードな上、ラケットも縮んでいる。みのりも胸は縮こまってないが(?)、神経ピリピリになるのが伝わっている。
「―――決めたるか」
男子は右手を後方大きく身構えた。返ってくるボールのタイミングを計らい、テニスの素振りのように大きくダイヤルを回す!
――――シュッッ、ビキッ!!
その時、みのりは何かを見切った――!!
(あの人の右手が、【剣】に見えた……!?)
勢い良く回したダイヤルによって残像を残すように素早く右に移動するラケット、片や反対側から高速で返ってくるボールに、ジャストミートッッ!!
「ボールの角度が変わった!!」
ラケットのボールに当たる位置が端寄りになると60°から45°の角度でボールが跳ね返る! 高速左スライドで打ち返したラケットが中央のラストブロックに直撃!!
――――ブロック全消し! 500点達成・一面クリア!!
「凄ーーーーいッッ! 1発クリアだ!!」
みのりも思わず興奮の歓声が止まらない。
「うるせえっ! まだ終わってねぇ、静かにせぇや!!」
「あ、ごめんなさい」
このゲーム、全部ブロック消しても二面目があるのだった。みのり、反省。
(まだゲーム続くみたいだし、一人にしてあげよう)
みのりは一旦ブロック崩しの筐体から離れて店長の所へ向かった。
◇◇◇
「お、みのりちゃん! 今日も来てくれたんだね。どや、ゲームの様子は?」
みのりは毎日この店に来ているものだから、20代後半の若大将店長も、彼女は通として顔見知りである。
「ねぇ店長さん。あのレトロアーケードにいる男子、結構この店来てるの?」
「……あぁ、アイツね。週2くらいにうちに来ては、気まぐれにゲームやって高得点残してすぐ帰るんだよ。変わったヤツだ」
「あの男子の名前、聞きたいんだけど……」
「何や? みのりちゃんアイツに惚れたんか?」
笑いながら店長はからかう。
「ち、違いますッッ!! ――ただ気になったの。あの人の底知れない集中力と鋭い動きをしたプレイ、只者じゃないって思ったわ。なんかこう……剣を振るう騎士のようだった! 私、どうしてもあの人と友達になりたいの!!」
学校では殆ど友達が出来なかったみのり。大好きなゲームを通じて、自ら友達になりたいと思うその意志が、店長にしっかりと伝わった。
「………からかって悪かった。みのりちゃんの友達になるのなら、ちゃんと教えてあげないとな。
彼の名前は【桐山剣】! みのりちゃんと同じ天童学苑高等学校の1年だよ。ゲーム終わったら、改めて話しかけてみなよ」
(―――【桐山剣】……そうか、“剣《つるぎ》くん”か! 早く剣くんと話をしてみたい!! 仲良くなりたい!!!)
そう強く願ったみのりは、再びレトロコーナーに向かう―――その時だった。
「邪魔するぜ」
学ラン姿の数十名の群れを作った不良集団がゲームセンターへ来店した。
「―――え?」