『The Suicide of Rachel Foster』のあらすじと感想と考察
『The Suicide of Rachel Foster』は2020年2月20日発売のゲーム。当初は日本語に対応していなかったが、2022年5月31日に公式日本語化。
タイトルは直訳すると『レイチェル・フォスターの自殺』。80年代に起こったレイチェルという少女の自殺事件について探る。舞台となるのは事件から10年後の90年代、レイチェルに因縁のある廃ホテルの中。ジャンルとしてはミステリ、ホラー、ウォーキングシミュレーターといったところで、バトル・ステルスはない。
「あらすじ」は長いので、簡潔に知りたい人は下の方の「シンプルあらすじ」まで。
ネタバレのない登場人物紹介
・ニコール
本作の主人公。女性。かつて家族経営のホテルで暮らしたが、10年前にその地を離れた。高校時代はアイスホッケーで活躍し、名門パシフィック大学へ進学し文武両道。非常に気が強く、口ぶりは刺々しく皮肉が入りがち。よくファックファック言う。歩行速度が遅くプレイヤーを苦しめる。
・アーヴィン
孤独にホテルを探索するニコールの唯一の話し相手。男性。FEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の職員で、ニコールが記録的豪雪の中でホテルに来たことを心配して連絡してくれたというのがきっかけ。
・レイチェル
80年代に16歳で亡くなった少女。遺書を残し、雪山の尾根から飛び降りて自殺したという。牧師の娘。
・レナード
ニコールの父。ホテルオーナーであり、天体物理学の高名な学者。
・クレア
ニコールの母。ホテル経営についての実務は主に彼女がこなしていた。
・フォスター牧師
レイチェルの父。近隣で尊敬を集め、我が子への教育も厳格なものだった。ホテル併設の教会へも通う。
あらすじ(ものすごくネタバレ/長い)
※日付(特に年)は怪しいところもある。作中でもミスが。
※ゲーム本編では2階を1階、3階を2階と表記するイギリス式表記になっているが、ややこしいので日本式で表記。
プロローグ
1993年12月17日、ニコールはかつて両親と共に暮らしていた、家族経営のホテル「ティンバーライン」へと向かった。ホテルはアメリカ合衆国モンタナ州ヘレナの山中にあり、スキー客に愛用されていたが、今では廃業し無人。
つい先日に病気で亡くなった母は、ホテルを売って奨学金の返済にあてるよう遺書に残した。買い主が決まり、引き渡す前に弁護士立会いの上で一通り見る必要があった。また遺書には、余ったお金は「少女の遺族」に渡すようにとも書かれていた。
10年前、1983年12月29日、16歳の少女レイチェル・フォスターが飛び降り自殺した遺体で見つかった。数日間行方不明になった末のことだった。遺書が残されており、レイチェルはニコールの父レナード(当時49歳)との不倫関係が露見したことに悩んでいたようだ。
(モンタナ州では16歳との性交は合法。ただしモラルの面では10代と大人との関係は望ましいものではないという扱いで、ましてや不倫である)
レイチェルの遺体発見から数日前、不倫を知った母クレアに連れられてニコールはホテルを出て親戚の家へ移っていた。ニコールはその時不倫について知らず、わけがわからぬまま母に従い、遺体発見後に知らされた。不倫騒動が最悪の結果を迎えたことで両親は離婚し、ニコールの姓はマクグラスからウィルソンに変わった。それから交流の絶えていた父はホテル営業を続け、しかし1989年に閉業した。父は母よりも少し前に亡くなり、死後にホテルを母に託すよう遺言書を残していた。ニコールは父の葬儀には出なかった。
モンタナ州では記録的な雪が降っており嵐に気をつけるようアナウンスがあったが、ニコールは嵐の前にすぐに出ていくつもりだった
ホテルに着くと、落ち合うはずだった弁護士はまだおらず、2・3時間遅れるという留守電がホテルの電話に残っていた(この時代はまだ携帯電話普及前。割合は少ないが持っている人もいる)。
ニコールがかつて使っていた私室はほぼ昔のままで、父が掃除だけはしてくれていた。机上には電話の子機があり、突然鳴ったので出てみると、アーヴィン・クロフォードという少しどもりがちな男からだった。FEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の職員で、ホテルへの出入りを弁護士から聞かされ、もうじき嵐が来るので行き帰りが大丈夫か案じて連絡したという。
嵐は思いのほか早く訪れ、老朽化した雨戸が剥がれて飛んでいくほどだった。アーヴィンは危険だからホテルに留まるよう言うが、まだ間に合うだろうとニコールは車へ戻ることにした。しかし、無人だという慢心から座席に置いていた車の鍵がなくなっていた。誰かがホテルにいて盗んだ?
ホテル内に謎の誰かがいるかもしれない、だが車を動かせない以上、徒歩で雪山を下るのは自殺行為だった。ニコールはホテルに留まるしかなかった。雪嵐の中ではどんな装備でも救助にはこれない。
無線は元から届かない立地だが、(恐らくは嵐によって)電話も通じなくなった。だが、アーヴィンは緊急で直通の回路をつないでくれ、アーヴィンとのみ連絡を取り合えるようになった。
(感想の項目で後述するが、電話回線についての設定は矛盾めいたものがある。とりあえず、外部に連絡は取れないがアーヴィンとだけ話せるという特異な状況にある)
1日目
かつての私室で一晩をすごした翌日、ニコールはボイラーを動かして熱いシャワーを浴びられるようにした。10年ぶりでホテルの構造など忘れていたが、アーヴィンがボイラー室の場所を教えてくれた。ニコールは子機を持ち歩いてアーヴィンとよく話し、ふざけた話も二人でして親しくなっていった。
2日目
ニコールはホテルに着いてから食事をしていなかったらしい。缶詰なりがどこかに残っているだろうとあてはついていたが、食料庫では野菜が腐っていた。冷凍庫ならなにかあるかもしれないとアーヴィンが教える。恐らくは豆の缶詰があるはずだが、そんなの食べたくないとニコールは愚痴。
冷凍庫で豆スープの缶詰を見つけたところ、急に扉が閉まって閉じ込められてしまった。パニックになるも、建てつけが悪いだけでなんとか開けられた。
タイミングよく、アーヴィンは「冷凍庫のドアが壊れているのを言い忘れていたが気をつけて」と連絡してきた。もっと早くに言って欲しかったとニコールは怒る。
アーヴィンは弁護士からの言伝を話す。弁護士はホテルへ向かっていたが雪で立ち往生し、助けを求めて引き返した。こうなったらホテル内の点検はニコール一人に任せるので、残したいものがあれば記録しておくようにとのことだった。
ニコールの私室があるのは2階(First floor)東棟。3階(Second floor)西棟へ続く廊下は荒れており壁面にカビが生えている。割れた窓から雨雪が吹き込み汚したのだ。西棟への扉は閉ざされていた。西棟3階から通じる屋根裏部屋には父レナードの「隠れ家」がある。そこはニコールにとって忌まわしい場所で、行きたくもなかった。
アーヴィンと話すうちにニコールは疑問を持った。ボイラー室の場所、ボイラーの点け方、食料のある場所、冷凍庫のドアの故障、封じられた西棟、アーヴィンはそれらを知っていた。知りすぎている、と怪しんだが、レナード存命中に山奥の彼のもとへ物資を運ぶのもアーヴィンの仕事で、レナードとは親交がありそれで知っているのだという。
西棟への扉から踵を返し歩いていたところ、廊下の電話が鳴った。今はアーヴィン以外の外部と連絡が取れない状況のはずだった。出ると、電話の相手は声を不気味に機械加工しており、低い男声でアーヴィンとはまるで話し方が違った。
「レイチェルはまだそこにいる。ホテルは売るな」
謎の男は一方的に要求して電話を切った。外から電話をかけられないのなら、ホテル内から内線でかけた?
レイチェルの自殺と、そこから判明した不倫はこの地域では知らぬ者はいない。レイチェルの父・フォスター牧師は近隣で尊敬されており有名で、レナードも著名な天体物理学者。二つの家庭の崩壊について、執着している何者かがいるのかもしれないとアーヴィンは言う。
3日目
アーヴィンは電話で開口一番「やあ、かわい子ちゃん」と言った。ちょっとふざけた言葉だったのかもしれないが、それは父がニコールを呼ぶ時の言葉だ。ニコールは一瞬、父に呼びかけられたのかと勘違いした。どうも昨晩は父の夢を見ていたらしい。
ホテル内の照明がおかしくなっていた。アーヴィンによれば嵐の影響であちこち停電しているという。建物内に予備電源があるので点けるようにと言われる。
薄暗闇の中、私室横の物置の中からポラロイドカメラを入手することができる(必須行動ではない)。フラッシュの光を頼りにして歩けるが、なくても少し暗い程度なので問題はない。
父の部屋には、アイスホッケー人形のついたオルゴールがある。かつてニコールにとって大切なものだった。オルゴールを鳴らすには鍵がいるが、どこにあるかわからなかった。
予備電源のある電気室はドアに鍵がかかっていたため、従業員用のものらしき隠し通路を通って隠し扉から入った。隠し扉の一つがあるスタッフエリアの物置には懐中電灯があり、回収して使うことができる。
電気は無事に点けられたが、電気室には奇妙なものがあった。口紅だ。ニコールが10代の頃に同級生の間で流行った若者向けブランドのもので、そのブランドがなくなってからもう10年ほど経つ。その口紅が何故か置かれており、しかも変質しておらず、つい最近開封したかのように瑞々しかった。
4日目
レイチェルがホテルにいるという謎の電話、そして10年前に10代の少女たちが使っていた口紅の存在、ニコールは「レイチェルは本当に死んだのか?」と思い始めた。
嵐はもう収まってきていた。深入りせずにホテルから出たらとアーヴィンはアドバイスするが、ニコールはレイチェル自殺事件を再調査することにした。思い悩んだ父が集めたらしき、事件にまつわる記事がいくつも見つかった。
記事を精査する本編イベント進行前にメイン階段のあたりへ行くと、アーヴィンとの会話が発生。アーヴィンが職場の同僚についてなど話す。アーヴィンはどんな姿をしているのだろうかとニコールは聞いたりした。
レイチェルの死後に彼女を見かけたという幽霊譚の記事があった。1991年に、レイチェルと同級生だったという女性が、ホテルの廊下で見かけたのだという。ただし掲載誌は信憑性の薄いゴシップ雑誌だ。
(別の場面で触れられるが、1989年の閉業後にホテルは肝試しの不法侵入がたびたびあった。レナードが居住したままにも関わらず)
また、レイチェルの遺体が発見された当日、1983年12月29日に書かれた地元新聞の記事もあった。レイチェルは山の尾根から山中湖へ飛び降り、その高さは90フィート(約27.5メートル)もあった。発見されたときには死後数日が経っていた。
レイチェルは失読症を抱え、その治療を請け負ったレナードのもとへ通ううちに関係を持ってしまったらしい。遺体からレイチェルは妊娠9週目とわかったが、レナードは彼女が死んでから初めて知った。
レイチェルは遺書を残していたが、筆跡鑑定によればレイチェルではなく別人が書いた可能性が高かった。
天体物理学が専門のレナードが何故失読症の治療を担当したのかは、レイチェルの父であるフォスター牧師がレナードと親しいためのようだ。柔和な学者と堅物な牧師は不思議と馬があい、宇宙について、神について、何時間でも楽しく討論していたという。
フォスター牧師は誰に対しても非常に厳しい人だったが、実の娘であるレイチェルに対しても態度は変わらず、娘に対して完璧さを求める態度は、傍で見ているニコールが異様さを感じたほどだった。
レナードが所有する詩集には、レナードによるメモ書きがあった。「今日レイチェルを見た」「レイチェルは悲しんでいる」「レイチェルは寂しがっている」と書かれており、一見するとレイチェル存命時の日記のようだが、詩集の発刊日は彼女の死から8年後だった。
レナードの気が狂っていたのか、レイチェルが実は生きていたのか、あるいは彼女が霊となって現れたのか。
5日目
ニコールは夢を見ていた。雪山の中、どこかから聞こえる優しい父の声を聞いていた。ニコールの声は今よりも幼い。
遠くで光るピンク色のなにかがあり、赤くけむっている。このピンク色の何かは、steamのタイトル画像にある、一見すると紅い蝶のように見えるモノと同一である。かつてニコールが見たことあるものだが、夢の中の彼女はそれがなにか思い出せないようだ。
父は天体について語りつつ、「やあ、かわい子ちゃん」「私がどれだけお前を愛しているかわかるかい」と呼びかける。ニコールは「私も愛してるわ」と叫ぶ。現実の大人のニコールは父について触れる際に冷たく愛想が尽きているかのように振る舞うが、本心では父の愛を渇望していたのだろう。だが、夢の中の父は「愛してるよ……レイチェル」と言う。彼が優しく語りかける相手はニコールではなくレイチェルだった。
6日目
幽霊ハンターと称するテレビ番組が、かつてティンバーラインも取り上げようとして泊まりに来ていた(まだ閉業する前らしい)。彼らは恐ろしい体験をして逃げ出し、撮影機材も置いていき結局テレビ放送はされなかった。アーヴィンはホテルのオフィスに出入りした際にそのビデオの一部を持ち帰っていたため、電話越しにニコールに聞かせた。
ビデオの中で番組スタッフらは、マイクに奇妙なノイズが混じってしまうと苛立っていた。また、鏡で反射させたような謎の光がどこかから時々照射され、画面焼けして上手く撮影ができなかった。彼らは117号室を使っていたという。そこに残されたものを調べれば、なにかわかるかもしれない。
117号室探索などの本編イベントを終える前に厨房のコンロを調べると、ニコールは料理の腕に自信があると話す。母から習ったのだ。いつか特製の七面鳥を食べてみない?とアーヴィンに話す。
本編イベントを進める前に1階女子トイレへ行くと、アーヴィンと会話が発生。会ったこともないお互いがどんな顔をしているか想像して話すが、実はアーヴィンはニコールの年の高校卒業アルバムを持っており、卒業写真でニコールの顔を知っていた。「この世のものとは思えない美しさだよ」という冗談交じりの誉め言葉はニコールにとって満更でもないようだった。
本編イベントを進める前にガレージへ行くと、父のバイクや母の車についての会話が発生する。
母とともにホテルを出た日、母は車を置いていった。叔父の車に乗って出ていったからだ。二人はその後、遠く離れたオレゴン州ポートランドで暮らすようになった(ホテルのあるモンタナ州ヘレナから飛行機4時間、車10時間以上の距離)。母は車の鍵は持って行ったため、ポートランドの家のどこかにあるはずだ。放置されたままの車は今では錆びてボロボロになっている。
本編イベントを進める前にオフィスへ行くと、財務記録書などが整理されず乱雑に積まれており、アーヴィンとの会話が発生する。かつてホテルの書類仕事は母がこなしていたので、母が去ってから父は苦労したようだ。
ニコールはパシフィック大学経済学部を出ていると話す。父を手伝いに戻ろうとは思わなかったのかとアーヴィンは聞くが、「彼は連絡してこようとさえしなかったわ。なぜ私が助けてあげなきゃいけないの?」と返す。つまりは父娘の交流が途絶えていたのは、ニコールのほうが拒絶していたというわけではなかった。もし父の方からの接触があれば、ニコールは応えていたのかもしれない。
オフィスから直通の倉庫へ行くと、隠し扉から隠し通路へ行くことができる(最初の数日は近くに行っても使えない)。展望室近くや、ニコールの私室隣の倉庫へとつながっている。私室横の倉庫は物が詰め込まれているため通り抜けできない。
通路の中には、子供が描いたような落書きがあり、あるものは壁に掲示されあるものは地面に落ちている。
上の落書きには教会、牧師姿の大人、手をつないだ子供二人が描かれる。髪を二つくくりにした女の子の方が、もう一人よりも大きい。小さな子供は不満そうな顔、女の子の顔は黒く塗りつぶされわからない。
下の落書きでは太陽の下、牧師が女の子の手をつないで歩いている。小さな子供の顔はやはり不満そう。
牧師と言えばフォスター牧師で、なら彼と手をつないでいる女の子はレイチェルだろう。それなら小さな子供は誰か?
破り捨てられたように、裂けた2枚の落書きが地面に落ちている。
誰が描いたか、どんな意図で描いたか、どんな意図でここに絵を残したのか。不気味で謎が多いが、ニコールはその絵を見てもノーコメントで、心境は不明。
本編イベントを進める前に父レナードの私室のそばにあるバスルームへ行くと、彼の薬についての会話が発生。アーヴィンがたまに見かけたレナードは悲しみを滲ませつつも賢い人に見えたとのことだが、ニコールはレナードの正気を疑った。レイチェルを見たという記述も幻覚ではと推測した。
置かれている薬のラベルには「ブプロピオン徐放性」と書かれており、鬱病の薬だ。
父の部屋に中傷の手紙が置かれている。ニコールからのコメントは無し。
「これはほんの始まりに過ぎない
お粗末なペドフィリア
山の間にあるキモい巣穴に閉じこもって
山奥に閉じこもっていても、あなたを守ることはできない
自分のしたことの報いを受けることになる」
と、いった文である。レイチェルにまつわる事件で父がいかに世間から白い目で見られたかがわかる。
事件の後も父は一人でホテルを続けていたが、割れた窓ガラス、そこから劣化してカビだらけになった壁、修理のために業者に見積もりを出したがローンを組めず断念、ということから経営状況は悪くなる一方だったとわかる。遠方からのスキー客はオーナーの醜聞など気にしなかったかもしれないが、母が切り盛りして地域の人とのイベントも開いていたようなので、それが絶たれたのは痛手だっただろう。
窓ガラスが割れたのも自然物が当たったせいではなく、嫌がらせの投石かもしれない。故意に割られた後で届いた手紙なら「ほんの始まりにすぎない」という文は意味が通りやすくなる。
本編イベントを進める前にレナードの私室へ行くと、彼の所有する本についての会話が発生。幾つかの本の表紙を拡大して見ることができるが、怪しげなオカルト関連が多い。10年前にはなかったもので、妻子が去った後で傾倒したのだ。事件後にレナードは学者としても失墜したが、その理由はただ学会が醜聞を嫌ってではなかったようだ。
本編で行かなければいけない117号室へ到着。何故かブラケットで封じられており、ネジを抜く必要があった。そのためのドライバーを探すことに。電気室にあったことを思い出し回収。
部屋の中は、4つのベッドが寝乱れスーツケースは放置されたまま、電灯もついておりさっきまで使っていたかのよう。
置き残されたパラボラマイクを回収することができる。
部屋に残されたビデオは、映像にも音声にもノイズが混ざり、撮影するスタッフたちも何故だろうと不思議がっていた。
彼らによれば、父レナードは「ネジの抜けたような顔」をしており、引きこもった部屋からはブツブツと呟く声がして、女声もしたという。
画面には映らないが、彼らは動く奇妙な光を恐れ、パニックになって飛び出していった。
妙な動きをする光、それは本編中に時々現れる。ドライバーを持って117号室に到着する直前にもわかりやすく出てくる。窓の外の自然物が月の光を反射してたまたま差し込んだ、といったものではなく作為を感じさせる動きだ。それがホテルに潜む何者かなのか、幽霊か、あるいはニコールの複雑な心境が見せる幻なのか。ニコールは光に全く動じずにノーコメントでスタスタ歩いていくが……。
そんなニコールでもビデオの内容には恐れがわいたようで、視聴後にアーヴィンが急に話しかけてきたときには小さく悲鳴をあげた。
7日目
この日はクリスマスイブで、ニコールは私室横の倉庫からクリスマスツリーを引っ張り出して飾り付け、雰囲気に合うBGMも流した。これにより倉庫に空きができ、倉庫からの隠し通路を使えるようになった。
初めはアーヴィンに対し刺々しいところのあったニコールだが態度はすっかり丸くなっており、イヴの空気がそうさせるのかアーヴィンは口説くようなことも口走る。
ニコールにとってクリスマスは家族でお祝いする楽しい思い出がある一方で、苦い記憶もあった。ある年のクリスマスイブ、ニコールは母と共にモンタナ州ビリングスにある叔母のもとへ遊びに行った(ホテルのあるモンタナ州ヘレナからは車で4時間弱の距離)。父は同行しなかったが、後で思えばその時にはもうレイチェルと不倫していて二人の時間を楽しんでいたのかもしれない。そしてその1年後にレイチェルは自殺した。
会話中、「チリンチリン」と妙な音がしてニコールは不思議がる。どこか聞き覚えがあった。アーヴィンには聞こえていないらしい。117号室で入手したパラボラマイクを使い、音を増幅させて発生源を探すことにした。
音を追っている途中、アーヴィンはこの件が終わったら顔を会わせて一緒にお酒でも飲みたいと誘ってきた。ニコールは謎の音を恐れながら追うのに忙しく返事は曖昧。
マイクはチリンチリンだけでなく、言葉にならない女声のささやき声のようなものをたまに拾うが、たまたまそう聞こえるだけのノイズのようにも思える。
本編イベントを進める前に博物室(Museum)でインディアンの壺のあたりを調べると、会話が発生する。ニコールはアーヴィンの口説きに応じるつもりはあるらしく、アーヴィンが既婚者ではないか確認する。彼は独身であり、ニコールも同じ。
音を追ってボールルーム(舞踏室)へ辿り着いたニコールは、この不思議な音はボールルームのシャンデリアが揺れる音だと気づいた。だが豪奢なシャンデリアは何年も前に撤去されている。存在しないシャンデリアの音だけが聞こえる。
ボールルーム付近を探索しているうち、不思議な音は消えた。結局なんだったのかニコールにはわからない。彼女の精神が異変をきたしはじめているのか、あるいは怪奇現象が起こっているのか、アーヴィンは心配した。
ニコールは舞踏室のかつてのにぎわいを思い出す。毎年12月23日になると大勢集まってパーティを行い、フォスター牧師とレイチェルも来ていた。母は父を見つめ、そして父はレイチェルを見つめていた。レイチェルは大人びて優雅な完璧な美少女で、人目を引いた。実際には失読症など彼女なりの苦しみを抱えてはいたが、ニコールは不倫発覚よりも前からレイチェルに嫉妬し憎んでいたことを思い出した。
8日目
目覚めると、ホテル併設の教会にいた。行った覚えがなく、夢遊病かと疑う。手元に電話機はなく、アーヴィンと連絡を取ることもできない。私室へ戻って電話機を回収してアーヴィンにそれらのことを話した。話しているうち、そういえば子供の頃には夢遊病の傾向があり、気づけば野外にいたことさえあったと思い出す。昔の環境に戻ったことでぶり返したのかもしれない。
アーヴィンは親しげにニコールを「ニッキー」と呼ぶようになり、その愛称をニコールは心地よく思った。この日はクリスマスなので、お互いにそのことを祝いあった。
本編を進める前に私室(もしくはマスタースイートの他の部屋)の窓を見ると会話が発生。昨日にアーヴィンはいつか飲みに行きたいと誘ったが、ニコールは探索に忙しく話を打ち切ってしまっていた。その続きをする。
アーヴィンは「今まで生きてきて誰よりも君と多く話した」と言う。ニコールは飲みに行くことへ乗り気な様子を見せつつ、ホテルへ来るまでの道で見かけたハウザー湖が美しかったので、一緒に行きたいとほのめかした。
教会を不気味に感じつつも、調査のために再び訪問。置かれているオルガンに戯れに触れてみる。ニコールは弾けない。レイチェルは譜読みはできないが絶対音感がありオルガンを見事に演奏することができ、そんなところにもニコールは引け目を感じていた。
寝袋が数枚床に敷かれていた。昔勝手に侵入した者が使っていたようだ。だが普通は退却する時に寝袋を残していくはずがない。ビデオ撮影スタッフらと同じように、恐ろしい目に遭って荷物を持たずに逃げ帰ったのだろうか。
かつて母はホテル経営と教会絡みの慈善活動に忙しく、あまりかまってくれないのでニコールは父とばかりいてパパっ子だった。イベントごとがある時に母は教会を飾り付けていたが、普段その飾りをどこにしまっているかをニコールは知らず、どこなのだろうと疑問に思った。
教会を去ろうとしたところ、赤い蝶を見かけた。追っていき、階段の横に最後の隠し通路があることに気づいた。
隠し通路を歩いた先には、奇妙な子供部屋があった。本棚や窓やオルガンは本物ではなく壁にペイントされたもの。こんな部屋をニコールは知らなかった。
(恐らくは昔は教会の飾りなどを置く倉庫だったが、ニコールが去ってからの10年の間に誰かが飾りを撤去してこのような部屋に作り変えた)
部屋に置かれた黒板には「RETARD」と書かれていた。「遅い」という意味で、知的に遅れた者に対する罵倒のスラングでもある。識字障害を持つレイチェルが学校で周囲から向けられた言葉だ。
ニコールはレイチェルの私室になど行ったことがないが、この奇妙な部屋はレイチェルを連想させるものが多く、レイチェルの部屋を知る者が再現したかのようだった。もしくは、レイチェルが実は死んでいなくてここで暮らしていたのかもしれないとニコールは思う。
部屋の通気孔からは、機械の動く音がした。その特徴的な音は、祖父が残した大時計で、屋根裏部屋から響いていた。屋根裏部屋は、父がレイチェルに言語療法を施した場所で、いつしか二人の愛の巣になっていた。二人が関係を持っていた時、この部屋で耳を澄ませていればその声を聞くこともできただろう。恐らくは倉庫としてこの部屋を利用していた母が、いち早く不義の関係に気づけた理由かもしれない。
部屋のベッドの上にはピンク色のケースがあり、見覚えがあった。レイチェルの歯科矯正器具を入れるケースだ。上品なレイチェルだが、ある時見かけた矯正器具を着脱する瞬間はギョッとするような音を立てていたなとニコールは思い出す。ケースの中は空っぽ。死体は矯正器具をつけていなかったという。
ベッドそばの棚の上には鍵が置かれていた。父の私室にあった、ホッケーのオルゴールの鍵だ。そばには「Bread Crumb(パンくず)」とメモがあった。『ヘンゼルとグレーテル』の中でパンくずの道しるべを作ったことに由来し、「道しるべ」「手がかり」というスラングである。
嵐はもうすぎており、ホテルから出て保安官にでも頼るべきだとアーヴィンは言う。奇妙な部屋を作ったのは父であり、これ以上調べるのは危険だとアーヴィンは主張。ニコールは、あんな部屋を作ったのが父であるはずがないし引き下がることなどできないと譲らず、一方的に電話を切った。
ホッケーのオルゴールを解錠すると、音色が奏でられ、オルゴール下部の小物入れが開いた。中に入っているのはホッケーのメダルだ。ニコールはメダルをもらった日のことを思い出す。
1983年12月27日、ニコールは3時間に及ぶ激戦を勝ち抜いた。29日に遺体で見つかったレイチェルは、検死によればその試合当日に亡くなっていた。
ニコールは帰宅してメダルを両親に見せに行ったが、激怒した母が父を激しくなじっており、それどころではなかった。そのまま理由も教えずに母はニコールを連れてホテルを去った。
9日目
ニコールは封鎖された3階西棟のドアの前にいた。アーヴィンに連絡すると、ニコールはオルゴールを鳴らした後から連絡を絶っていたらしく、彼は安堵していた。
レイチェルが死亡した当日、ニコールが長い試合に拘束されていた裏で何が起こっていたかを探る必要があった。その日、母に「中二階のドアを閉めておいて」と言われたことを思い出す。メイン階段の途中にある物置についてだ。
この日まではアクティブしなかった、中二階横の物置に入る。中には異様な光景があった。赤い布で覆われた壁を反射して妙に赤く染まった部屋に何体ものマネキンが配置されていた。
奥には、赤ちゃん人形を抱いて横たわるマネキンと、ニコールのアイスホッケースティックを武器のように構えて立つマネキンがあった。ホテルを出た10代の時、急なことでニコールが置いていったアイスホッケースティックは今まで見当たらなかった。
このマネキンは何かを再現しているかのようだった。「身重のレイチェルをニコールが自分のスティックで殺害した」とでも主張しているのか。もちろんニコールにそんな覚えはない。
恐怖に駆られながらアーヴィンに連絡を取るが、彼は豹変していた。今までは朴訥で穏やかな青年風だったのに、感情を押し殺した低い声で話すようになった。
「一体いくつのドアを開けたんだ、ニコール? あといくつのドアが残ってるんだ?」
彼はもう愛称「ニッキー」とは呼んでこず、電話を一方的に切る。
3階西棟へ通じる扉が開放されていた。
西棟へ進むと、つい最近まで誰かのいた痕跡が。部屋を少し出れば割れた窓から雪が吹き込んでおり、カビだらけでまともな人間の暮らす場所ではなかったのに。
大量の機材が設置され、それらを守るように割れた窓や老朽化した天井にはシートが張られている。寝袋とストーブ、今までの侵入者たちを警戒して撮ったらしき写真、現像するための暗室、そしてニコールのことを調べ上げたのか高校の卒業写真や試合中の写真があった。
部屋の中には無線電話送受信機があり、稼働中だった。特別に回線をつないでくれて今まで連絡を取り合っていたアーヴィンは、FEMA職員だというのは嘘で、ずっとこの部屋から連絡を取ってきていたのだ。
「誰かがここに記憶のパズルの最後のピースを持って来なければならなかった。最も重要なピース、そう君だ」
アーヴィンはレイチェルの弟だ。ニコールが嫉妬の眼差しで彼女を見つめる時、光り輝くレイチェルのそばにいる陰のような少年は印象に残っていなかった。幼いアーヴィンは他の子供と同じように遊びたいと思っていたが、厳格な牧師の父は許してくれず、抑圧されて育った。当時の彼にはレイチェルは憧れの「星」であり、彼女が失読症のために学校で孤立している苦しみも、夜中に泣いている意味も正確には理解できないまま、ただ彼女を守りたいと思っていた。
「ある日、その美しく輝く生き物はある人に出会った。彼女を…本当の彼女を見抜いた人物に」
それがニコールの父のレナードで、アーヴィンは二人の関係を早い時期から知っていた。良くない関係だとわかっていたが、彼女から救いを取り上げることはできなかった。
彼がニコールに望むのは「進み続ける」ことだという。ニコールは部屋の先にある屋根裏部屋へ向かった。
レイチェル自殺事件の後、アーヴィンは西棟で長い時をレナードと共に暮らしていた。「真実」をニコールに伝えるのをレナードは厭っていたが、最後には協力を示してくれていたという。
屋根裏部屋には、大きな音を立てる時計、言語療法を行う机と黒板、かつてはレナードとフォスター牧師がここで対局したこともあるというチェス盤などが置かれていた。簡易的な寝床のそばには、レイチェルと思わしき裸婦画があり、レナードが描いたのだろう。
この時点で黒板を見ると、裏も表もなにも書かれていない。
屋根裏部屋には映写機があり、幼いニコールの思い出の写真と共に、レナードの音声が流れた。レナードはかなりオカルトにかぶれており、人の思念は死してもモノに宿り建物中に染み付いていると話す。
「愛は存在する、そして存在し続けるんだ。お前が今立っているこのホテルの床や、壁や、私たちが呼吸している空気中にも。
そして、時には憎む。許せなかった者を憎み、見捨てた者を憎み、それに気づかない者をも憎むのだ。
星は消滅しても光を放つ、そうだろう? ここにはたくさんの光がある、死の中に。私はこの暗闇から自分自身を解放したい。もう星も見えなくなってしまった」
ニコールは理解ができず、「何言ってるの?」とつぶやく。
「レイチェルが何を言ってるか解き明かすんだ、ニッキー。彼女はここにいる」
レナードが最後にそう言うと、背後から、黒板にチョークで文字を書くような音がした。
黒板がひとりでに回転し、「MURDERER(人殺し)」という文字を見せた。見えない誰か、レイチェルの霊が書いて見せたかのようだった。
チェスボードの上には、母クレアの車の鍵があった。引越し先へ持って行ったはずなのに。ニコールは鍵を持って、クレアの車へと向かう。
西棟を出ると、まるで意志を持ったかのように客室のドアが一斉に閉まった。霊現象だろうか。
道中でアーヴィンがまた電話をかけてくる。彼は序盤でのニコールの言動をわりと根に持っていた。「豆の缶詰を食べることをこの世の終わりみたいに言い、やるべきこともやり終えずに逃げ出そうとし、また全てを忘れてしまうようなあのニコール」などと称する。
ニコールは泣きそうな声で、レイチェルの自殺で傷ついたのは自分やクレアも同じだと言う。
「この物語を終わらせられるのは、君だけなんだよ。最後のドアを開ける時だ」
母のボンネットを開けると、汚れた毛布が入っていた。
次にやるべき行動を示すTODO LISTが狂気を帯びる。洗濯室へ持っていき、貯めた水の中に毛布を突っ込む。
(突っ込んだ直後に画面が暗転するバグがあるが、マップを開くと直る)
毛布には大量の血液が染み込んでいた。そして毛布の中には、レイチェルの歯科矯正器具が包まれていた。
ニコールは1983年12月27日を思い出す。試合に出かける前、ホッケースティックが見当たらず、探し回っていた時にクレアと会った。彼女は今までに見たことのない「クリーチャー」のような表情で顔を真赤にしていた。だがクレアはすぐにいつも通りの優しい母の顔になり、ホッケースティックは洗っておいたと言う。確かにスティックは後部座席にあり、クレアの奇妙な表情は気にせずにそのまま試合へ出た。
ニコールは3時間以上に及ぶ長い試合の中、観覧席にいる母を時々見たが、彼女が見当たらない時間もあった。当時ニコールにはボーイフレンドがおり、クレアは関係を良く思っていなかった。ボーイフレンドの親と席が近く、それが嫌で抜けていた時間があっただけだと後にクレアは説明した。
ニコールは泣いた。彼女は真相に気づいた。
クレアは、ニコールのホッケースティックを使ってレイチェルを撲殺したのだ。そして死体を毛布にくるんでボンネットに積み込み、スティックを洗い、何も知らないニコールを乗せて試合へ行った。そして試合の途中で抜け出し、尾根から遺体を投げ落として始末し、偽の遺書を残した。
レイチェルの歯科矯正器具は殴られた拍子に緩み、運搬の中で抜け落ちて毛布に取り残された。これこそがタイトル画像に写された紅い蝶のようなもので、ニコールが父についての夢の中で見たものだ。
母の罪を突きつけることこそがアーヴィンの復讐なのだろうとニコールは思った。アーヴィンは、予想はしていたものの確信を持ちきれず、真相を解き明かす手伝いをしてほしかったのだという。
アーヴィンはレイチェルの霊など見たことないが、いつもそばで彼女が守ってくれているように思った。そしてレイチェルは、弟が真相に辿り着かないよう願っているようだともアーヴィンは感じた。
「彼女は今でも僕を守ってくれていると思う。でも、僕はもう大人なんだよ。これでやっと皆と再会できる」
アーヴィンは死ぬつもりだった。レイチェル、フォスター牧師、レナード、クレア、関係者の多くが亡くなった今、そちら側に行くつもりだった。
「私たちはまだ生きてる、生きてるのよ。私とあなた、私たちまだ何もしてないじゃない!」
「それがまさに僕たちの過ちなんだよ、ニコール。僕たちは何もしなかった」
アーヴィンは今、見渡す限りの雪の中にいて、このまま凍死するつもりだという。ニコールが思い直すよう説得し、飲みに行く約束をしたのにと言っても「君は僕を解放してくれた」と、アーヴィンに翻意する気はない。
「これは別れじゃないよ、強くて、現実的で、頑固なニッキー。また別の機会に会えるさ、この出来事の地平線を超えて、全てが…」
電話は途切れ、ニコールは独りにしないでと泣き、そして誰かの気配を感じる。「レイチェル?」と呼びかけ、暗転。
最後
日付の表示はされない。暗転直後の9日目だと解釈することもできるが、10日目で、「レイチェルの命日」の12月27日かもしれない。
ニコールは自分の車の中にいた。なくしていた車の鍵はアーヴィンが奪ったもので、彼は去る時に置き残してくれたのかもしれない。手元にはレイチェルの矯正器具と、電話機があった。
ホテルで落ち合うはずだった例の弁護士から電話がかかる。アーヴィンの工作による回線異常はもう直ったのだろう。言伝を託されたというのはアーヴィンの嘘で、弁護士はずっと連絡が取れないと心配していた。ニコールは「ホテルは売らない」と告げる。
「ここに残るつもりよ、永遠に」
電話を切り終えると、ニコールは狂気じみた明るい調子でクレアへ呼びかける。
「ママ、私湖に行こうと思ってたんだ」
アーヴィンと行きたいと思っていた湖だろう。そこに、両親、アーヴィン、レイチェル、フォスター牧師、死んでしまったみんなと行きたいという。
車内をよく見てみれば、排気管が引き込まれ、排気ガスが漏れないように窓がガムテープで封じられている。ニコールは排気ガスで自殺するつもりだ。
エンジンをまわそうとしたら、以前に聞こえた不思議な音が「チリンチリン」と聞こえてきた。ニコールは「あなたに頼まれたことは全てやったのよ」と誰かに向かって話し、エンジンをかけて排気ガスに包まれる。
<そのまま死ぬ場合>
ニコールは激しく咳き込み、視界が暗くなっていき、そのまま暗転しエンドロール。
<自殺を止める場合>
ニコールは死者たちに呼びかける。一緒にまたティンバーラインを元に戻しましょうと。
「みんな一緒にまた幸せになるのよ。そう、家族のように。もう怒りはない、ただ…愛だけ」
エンドロール。
シンプルあらすじ(比較的)
16歳の少女レイチェル・フォスターが自殺した。彼女は妊娠しており、子の父親は既婚者で30歳以上も年の離れたレナードだった。レナードの家庭は崩壊し、彼の妻と娘のニコールは家族経営で住んでいたホテルを去り、遠くの地へ移った。
10年後、相次いで両親を失ったニコールは、閉業したホテルを売却する前の確認のためホテルへ再訪。記録的な嵐が来る前に帰るつもりだったが、何者かに車の鍵を盗まれ帰れなくなり、嵐がすぎるまでは助けも呼べなくなった。無人のはずのホテルに鍵を盗むような者がいるかもしれない、恐怖するニコールの唯一の話し相手は、身を案じて連絡してくれたFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)のアーヴィンだった。
「ホテルを売るな。レイチェルはそこにいる」という謎の脅迫電話から、自殺事件に裏があるのかもしれないと調べるニコール。辿り着いた結論は、レイチェルは自殺したのではなく、ニコールの母クレアが嫉妬して撲殺し、飛び降り自殺に偽装するため死体を高所から投げ落としたというものだった。
そしてアーヴィンはFEMA職員ではなく、レイチェルの弟だった。彼は最愛の姉の死の真相を察し、より確信を得るため、鍵を盗んだり脅迫電話をかけるなどの工作をしてニコールを探偵役へと誘導した。真相をニコールにも知らしめたいという思いもあった。実はずっとホテル内に潜んでいたアーヴィンは今は極寒の屋外に出ており、思い残すことがないので凍死して自殺するという。
車の鍵を取り戻したニコールは車内にこもり、排気ガスを引き込んで自殺することにした。ホテルへ来るまでに既に抱えていた孤独感を会話の中でアーヴィンによって癒やされていたが、彼に突き放された上に自殺されたことが堪えていた。
自殺を完遂してしまうか未遂で終わらせるかは選択できる。未遂の場合、ホテルの売却をやめ、生涯ホテルに縛られ続けることになる。
年表(ネタバレ)
・年がわかってるところのみ太字
・一部の西暦の矛盾は勝手に解釈しゲーム内表記から修正
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レナードが失読症を抱えるレイチェルの言語治療を請け負うようになる。
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ある年の12月23日のクリスマスパーティ、レナードがレイチェルに見惚れ、そんなレナードをクレアが見ていた。
1982年12月24日
ニコールとクレアが親戚の家でクリスマスを祝う。レナードは居残り、既にレイチェルと不倫関係にあり二人の時間を楽しんでいた?
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クレアが不倫に気づく(恐らくは1983年のクリスマスシーズン前の飾り付け準備中に気づく)
1983年12月27日
ホテル併設の教会で炊き出しをやるため、フォスター一家が訪問
クレアがホッケースティックでレイチェルを撲殺
夜から、ニコールが3時間以上に及ぶ高校最後のホッケー試合
試合の合間にクレアがレイチェルの遺体を遺棄
帰宅したニコールを連れてクレアがホテルを出る
1983年12月29日
レイチェルの遺体発見、妊娠9週だったと判明
1985年クリスマス
ニコールが高校からのボーイフレンドのダンカン・フォーブスとキス、後に破局
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「幽霊ハンター」が撮影にくる。
1989年
ホテル閉業。レナードはその後もホテルで暮らす。
1991年
レイチェルと同級生だった女性がホテルの廊下でレイチェルの姿を目撃
レナード、この年に発刊された詩集にレイチェルについてメモ書き
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レナード、死亡
1993年6月24日
クレア、病気で死期を悟り、ホテルを売るよう遺書を書く
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クレア、死亡
1993年12月17日
ニコール、ホテルへ帰還。
その後の作中での日数経過と合わせると、
1日目 12月18日 2日目 12月19日
3日目 12月20日 4日目 12月21日
5日目 12月22日 6日目 12月23日
7日目 12月24日 8日目 12月25日
9日目 12月26日
憶測だが最後の場面は10日目でレイチェルの命日である12月27日
感想や考察
終えた直後の素直な感想
ニコール!お前自殺するようなキャラじゃないだろ!なに死のうとしてんだよ!!!こんなホテル売って遊んで暮らせよ!!!!!
見逃していた会話を拾う二周目をやると、ニコールのツンツンは虚勢であり、失った家庭を取り戻したい弱々しさがかなりあるんだなというのはわかるのだが、一周目では理解が及んでおらず。いきなりの行動に置いてきぼりになった。もちろん一周目では生存エンドへ行ったが、そっちもハッピーエンドと思えない。
ニコールの弱さを理解した後でも、やっぱり自殺するほどじゃない。不倫したパパもレイチェルもどっちも悪いし、刑法的に一番悪いことしたママももう死んじゃってるし、ニコールは家族であろうとそいつらに対しなんの責任も罪もなく無関係だ。
「みんなクソだぜ!なに死んでんだよアーヴィン!もうクソホテルなんかとっとと売ってやんよバーカ!」ってなるところじゃないか?
steamフォーラムやレビューを見ると自殺展開についていけなかったという人は多いようだ。
途中、ニコールがレイチェルを殺したのではないかというミスリードがある。そっちの方が自殺展開は自然だったな。
殺人という重すぎる記憶に封をし、母は娘をかばうために死体の始末をした、父は妻子の行動に気づきつつ元凶は自分だからと沈黙を選んだ……そんなストーリーを浮かべながらプレイしていた。
あるいは、夢遊病の中で無意識に殺してしまっており最初から記憶にないとか。
「ニコール殺人犯説」、一応破綻なく成立するのではないか?
父母は娘をかばうために共謀した。そしてアーヴィンも気づいていた。
ならば、アーヴィンがまわりくどい仕掛けを多数施したのも納得がいく。いつか封印していた記憶を取り戻してしまうかもしれない姉と同世代の女性に、アーヴィンは生きていてほしいと思った。思い出す前に「殺したのはクレアだ」という偽の認識を植え付けた。で、てっきりツンツンニコールは「みんなクソだぜ!ホテル売るぜ!」となってくれると期待してたんだが、思いの外ニコールは弱くて自殺を選んでしまったという計算外……。
うーん、ニコール殺人犯説&父母共謀説はけっこういけると思うが、アーヴィンはちょっと違うかなー。マネキンを設置したのはアーヴィンのはずだが、あれは明らかにニコールをビビらせる&ニコールが犯人っぽく思わせるもののようで、そこまでニコールに対しての思いやりは感じない。話してるうちにほだされた部分はあるだろうが、準備段階ではなー。
後述するが、むしろアーヴィンについては「ニコールを自殺に追い込もうとしてる説」の方がしっくりくる。
色々妄想ではできるが、初回では「アーヴィンはただ真実を知りたかった&知ってほしかっただけで、知った瞬間にはもう死ぬことしか考えられなかった。知らしめた後でニコールがなにを選ぶかなんて考えてなかった」だと思った。
「アーヴィンは死んでない説」もあるが、本当に死んだのだと思った。
矛盾っぽいところ
・レイチェルは何年に死んだんだよ
『Daily News Helena』という地方新聞がレイチェルの死を報じたのは1981年12月29日。8日目にオルゴールを聞きながらニコールは、1983年12月27日の試合を思い出し、その日にはレイチェルはもう死んでいたのだろうと思いを馳せる。
1981年なのか1983年なのかどっちだ!!!!
これらの部分以外でも死んだ時期についてのセリフや文書は色々ある。特定一箇所だけを間違えたのではなく、設定が固まっていないまま制作が進んでしまったみたいだ。英語はわからないが数字を聞き取るぐらいはできたので、字幕ミスでもない
16歳のレイチェルと同級生だった子が1991年には29歳になっているという記述もある(廊下で幽霊を目撃した子)。でも同じ記事の中で、その証言は自殺事件から10年後のものとも書かれている。16歳の同級生が29歳になるには、13年もしくは誕生日の違いによっては12年かかるが……。
レイチェルの死亡時の年齢すら固まっていなかった?
学校制度が日本ほど厳しくない場所だったら、「同級生」の年齢がバラけていることも考えられるが。
レイチェルの年齢については共通して16歳表記だが、19歳設定を考えていた時期もあったのかもなあ。モンタナ州では性交同意年齢は16歳、成人年齢は18歳。「違法ではないが年の差がありすぎ・片方が若すぎで、ただの不倫を超えて許しがたい関係としてバッシングを受ける恋愛」を描く上で、一応成人をすぎている19歳にしようか、より若く禁断さの増す16歳にするか悩んでいたのか?
・電話回線の謎
電話回線が通ったままなのか否かがよくわからなくてずっと引っかかっていた。
ホテルへついてすぐ、弁護士からの電話が鳴っていたが、受け取りそこねて留守電を聞く。弁護士メッセージの一件前には電話会社からの連絡があり、滞納しているので回線を切るとの報告だった。でも弁護士からの電話は入っている。つまり、もうすぐ切るけど今はまだつながっている、ということだ。
その後、「レイチェルはホテルにまだいる」という謎の電話が入る。その際にニコールは「電話は滞納しているからもう通じないはずなのに」と恐れる。
弁護士からの電話は入っていたのにどういうことなんだ? そして最後にもまた弁護士から電話が入る。
謎の電話が入った廊下にある客用の回線は滞納で切れているが、弁護士から連絡のあったオフィスの電話(と子機)は別回線でまだつながっているということか?
で、その回線すらも嵐で途絶えてアーヴィンとしか連絡が取れなかった(とアーヴィンは嘘をついた)と考えれば辻褄はあうかな。
・レイチェル死亡前から不倫が周囲にバレていたのかどうか
新聞記事には「一週間前にバレて騒ぎになった。バラしたのはクレア」みたいなことが書いてある。
だが、ニコールは不倫のことを知らなかった。
生臭い醜聞など子供には知らせず大人たちだけが知っていた、と仮定してもおかしい。
そんな状態なのに、12月27日の貧者への炊き出しに両家が集まるものだろうか?
フォスター牧師の立場としては、炊き出し自体はやめられないとしても、娘に手を出した男なんかに関わらせたくなくてレイチェルに自宅待機を命じるところでは? 不倫相手がオーナーやってるホテルの教会に娘を連れて行くか?
フォスター牧師抜きの大人たちで騒ぎになったのか?
ホテルは全盛期は厨房の広さを見るに、従業員だけでも十数人とか数十人とかいそうだし、フォスター家抜きでホテルの人間たちの間に広まってたのかな? クレアがブチギレながら「あいつガキと不倫してやがる!知ってた奴おるかー!?」と従業員らに暴露したとか?
もしくは、西暦が間違っている問題もあるし、あの新聞記事は設定を詰めきる前に制作したものでミスの塊なのかなと思う。
考察というか妄想
・アーヴィンは自殺なんかしておらず全部黒幕説
steamのフォーラムでそういう説を唱えている方がいて、納得した。
テレビ番組スタッフは「ノイズがやたら入ること」「意思を持ったかのように差し込んでくる謎の光」を霊現象かと思い恐怖していた。これは素直に霊現象と思うよりも、アーヴィンの仕業だろう。
アーヴィンは電話回線いじったりと機械に詳しいらしく、その他にも謎の機器を並べていた。撮影機器に干渉する電波を出したりしていたんじゃ?
光は「鏡の反射みたい」と言われていたが、そのものかもしれない。もしくはもっと別の何らかの機器を使った。
ニコールが聞いたチリンチリン音も、「人殺し」と書かれた黒板も、なにかトリックがあって、全部アーヴィンの仕業。
アーヴィンの目的は、姉を奪った一家への復讐。復讐劇に横槍を入れられたくないので、撮影スタッフや肝試しの者などを怖がらせて追い出した。
レナードがなぜ死んだのかよくわからないのだが、恐らくはアーヴィンの工作で追い詰められての自殺。レイチェルの霊がいるかのように思い込まされたのだ。
そしてアーヴィンは、ニコールも自殺に追い込もうとした。
本当ならクレアにもそうしたかったかもしれないが、彼女は病気ですでに死亡。マネキン部屋は、殺人者であるクレアにこそ本当なら効くものだった。
老朽化の進むホテルは実はアーヴィンの手によるハイテク技術があちこちに搭載され、密かに設置されたスピーカーはチリンチリン音やその他の不気味な音を奏で、ニコールの正気を少しずつ奪っていったのである。
雪の中にいて死ぬつもりだというのはアーヴィンの自己申告にすぎない。本当はどこか安全なところに待機し、盗撮カメラでも仕掛けて自殺を図ろうとするニコールをニヤニヤ眺めているのかもしれない。
彼の電話はタイミングが良すぎることが多かった。電話機自体か、あるいは建物のあちこちに盗聴器やカメラが仕掛けられていたのかもしれない。
あるいは、ニコールを自殺に追い込むことに成功できそうだと満足しながら本当に命を絶っていたかもしれない。
・アーヴィンってクレアも殺してないか?
幽霊が存在しない、もしくはほぼ影響してない場合。全てはアーヴィンが仕掛けたことになる。それなら、遠く離れた地にあるはずのクレアの鍵も、アーヴィンが侵入して手に入れたことになる。そこまで深くクレアの生活に入り込んでいたなら、クレアの死も怪しくないか?
レナードの死亡時期はよくわからない。レイチェルの死から8年後発刊の詩集にメモ書きができるなら、少なくとも1991年までは生きてる。そしてクレアが遺書を書いた1993年6月23日までには亡くなった。
・レナードの死 1991~1993/6/23
・クレアの死 1993/6/23~1993/12/16
・ニコールの死 1993/12/27頃
一家の死ぬ時期が偏りすぎてないか?
誰かが「準備完了したし一気にターゲットを狩るぞー」と始動したかのよう。
レナードとニコールの自殺がアーヴィンの工作によって追い詰められた結果だとしたら、クレアの死にも関与していそうだ。
ただ、病死に偽装した殺人ってどうやるんだ? この時代だったら致死性の農薬など売ってただろうけど、病気偽装は難しそう。発がん剤仕込むとか?自殺追い込み陰湿野郎のやり方としてはアグレッシブすぎる気がする。
「クレアこそが自殺に追い込みたい本丸だったけど、もう既に死にかけだから天罰だろと思いながら諦め、鍵だけ盗んで場を去った」とか?
・アーヴィンも幽霊だよ説
結局姿が出て来ないし、無線部屋でテレビ局スタッフ妨害などは過去にやっていたかもしれないが、ニコールがホテルに着いたときにはもうとっくに故人なんじゃ。電話も霊界通信。
黒板に書いてひっくり返すトリックとかどうやるのかわからない。幽霊の仕業。扉バタバタも幽霊の仕業。
そう妄想してはみるが、アーヴィンは生きて存在していたよと考えたほうが話として面白いかな。アーヴィン幽霊説はひねくれすぎている気がする。
解釈が分かれそうなのは、レイチェルの幽霊は存在したか否か。
ニコールが自殺しようとした時のチリンチリン音は、レイチェルの霊かなーと思った。だとしたら何を伝えようとしたのか「はよ死んでこっちおいで」なのか「死ぬなよ」なのか。後者だと思った。
黒板ひっくり返しや扉バタバタはビビらせトリックでないとしたら霊の仕業だが、霊の行動だとしてもニコールをビビらせるためのものだ。レイチェルの行動っぽくないような。レイチェルという人は中心的人物なのに、読めない部分が多い。筆記する能力が極めて低かった彼女はなんの手記も残せない。この手のゲームでは「やたら詳しく説明してくれる日記や手紙」で過去に何があったかを知ることができるパターンが多いのだが、レイチェルはそれができない。レイチェルはニコールを憎んでいたのか?
あるいは「ビビらせる行動」としても「自殺に追い込むためのもの」ではなく「さっさとホラーホテルから出ていって忘れちゃいなよ」という優しさからくるビビらせ説。
・レナードとアーヴィンBL説
逃げ帰ったテレビ局スタッフは「レナードが屋根裏部屋で一人でしゃべってる」「女の声もしなかった?」と話していた。
この時点で想像できるレナードの会話相手は「実は生きているレイチェル」「幽霊のレイチェル」「気の狂ったレナードが一人二役で女声を出していた」。
プレイを終えて色々想像していたら「会話相手はアーヴィン」と思えてきた。材料不足だが、破綻はないかなーと。
アーヴィンは事件後ずっとなのかレナードが死ぬまでの数年間かは不明だが、長期間レナードと共にいたらしい。レイチェルを愛するあまりにレイチェルのような装いをして、レナードのもとでレイチェルの代わりとして扱われていたのではないか。つまりは倒錯を重ねた果てに恋愛関係のようなものがあった。
レイチェルの同級生が目撃した「廊下にいるレイチェル」は女装したアーヴィンなのかもしれない。レナードが詩集にメモ書きした「レイチェル」も幽霊ではなく、狂気の中で本物だと信じ込むに至った女装したアーヴィンなのかもしれない。
アーヴィンのレナードへの感情は「10代の姉貴をたぶらかした糞スケベ野郎!」ってテンションではない。恨みや怒りはあっただろうが、妙に感傷的というか情がある。なんでだか長く一緒に暮らせてる。狂気に陥らせて自殺に追い込むための臥薪嘗胆にすぎないのかもしれないが、妖しさがある。
普通に考えれば、レナードは姉の死の原因を作った人であると同時に、孤独な姉の救いでもあったから憎みきれなかったのだろうけど、「謎の会話相手」「謎の幽霊目撃談」を霊的なものではなく現実的に回収するにはBL説はけっこういけるのではないか。
BLは行きすぎかもしれないが、女装して徘徊ぐらいはしてそう。
見えてこないレイチェルの感情
先述したが、レイチェルは失読症のため彼女自身の記述をなにも残していない。レイチェルが様々な出来事の中でなにを思い感じていたのかまるでわからない。
偽レイチェル部屋から換気口越しに盗聴したカセットテープとかあれば、生前の彼女のキャラクター像に厚みを出せたのかもしれないが、「敢えて本人は出さない」がコンセプトだったのかも。
「生き残り」であるニコールもアーヴィンも、死んだ者たちについてただ思い出のツギハギで想像して語るしかない。
・レイチェルの設定
牧師の娘で父から異常に厳しい教育を受けている。
美人で大人びて上品でピアノが上手い。
失読症を学校で軽んじられ、深夜に泣いていた。
言語治療をしてくれる30歳以上年上のレナードと不倫して16歳で妊娠。
二人の関係にリアルタイムで気づいていたアーヴィンが「愛」だと形容しているので、レナードとの関係はレイプされたわけではなく、本当に恋愛だったのだろう。彼女とフォスター牧師との関係は普通の父子よりも、厳しい宗教指導者と信徒の関係に近く、「優しいお父さん」に惹かれるのは理解できる。最大のコンプレックスであろう失読症をどうにかしようと尽力してくれる救世主でもある。
レナードの方が彼女に惹かれるのもわかる。美少女というのももちろんだが、「頼られる」のに弱い男だったのではないか。
クレアがワーカーホリックだったのは「頼られる」のが好きで、本当はレナードにこそ頼られなかったみたいな描写があった。この夫妻はどちらも「頼られる」方が好きで、SMで喩えれば両方Sで噛み合わなかった。頼ってきてくれるレイチェルこそレナードの求めていた属性だったのかもしれない。
ニコールはレイチェルに嫉妬していたが、総合スペックとしてはニコールのほうが上ではないか。アイスホッケーなんて集団競技だからコミュ力なくて友達ゼロみたいな子はなかなか続くものではない。失読症で孤独だったレイチェルにはできないし、死ななかったとしてもニコールのように名門大学に行くことなど叶わない。なによりニコールは優しい父親を持っている。
黒板バーンや扉バーンの攻撃的な行動は、殺人についての責任を負わないニコールにぶつけるものとしてはおかしく、実行者がレイチェルの霊とは考えにくいと思った。だが、殺人に関係なく生前からレイチェルはニコールに嫉妬し、憎んでいた可能性もあるか。
不倫関係を持ったのですら、ニコールから奪い取ってやりたいという気持ちがあったのかもしれない。
色々妄想はできるが、作中で彼女の感情が読めないため、「感情表現に乏しい大人しい子」みたいなイメージを抱き、扉バーンとレイチェルはやはり結びつきにくい。
感想
重要事件の起こった年の致命的な矛盾があるものの、その他の粗さは妄想がはかどるのでむしろ良いと思った。
ググっても1981年1983年問題について触れている人が見当たらないので重箱の隅かもしれない。もしかしたらこちらが盛大な勘違いをしているのか?
ハッピーエンド厨なので、過去の事件を乗り越えてアーヴィンと飲みに行くエンドがほしかった。特製の七面鳥食べてほしかった。
本編進行に関係のない会話が発生する箇所がいくつかあるが、そちらでアーヴィンと親交を深めるような会話が多かった。全ての会話を回収してアーヴィンの好感度がMAXになっていたらハッピーエンド行けるとか、そういうのほしかった。
制作陣は「他人事の自殺を調べていたら、自分まで自殺することに」というギョッとする展開をやりたかったのかもしれない。あの自殺疑似体験の流れは、展開としては唐突だが生々しさがありショッキングだった。
排気管が引き込まれていることに気づかなかったので、ホテルを出るぞーと思いながらエンジンかけたら車内が煙り出して、自殺しかけていたことに気づいた瞬間の衝撃。
自殺orホテルに縛られる、どっちを向いてもほぼバッドエンド。
あー飲みにいってほしかった。口座聞いて、ホテル売った代金を後日振り込んでほしかった。
あんな呪いのホテルみたいになってても、新しいオーナーがリメイクしてピカピカにしてホテル名も変えてまた再興したら、かつて住んでたニコールにとってもいいことだろう。ニコールはスキーできないと言ってたしアーヴィンも多分ほぼ引きこもりで出来ないだろうから、リニューアルオープンしたホテルに二人で泊まりに来てスキーの練習すればいいんだよ。
実際に顔を会わせたら全然好みじゃなくてロマンス発展とかはしないかもしれないが、お互いに何の罪もないけどやたらと重いものを背負ってしまった同士として一緒に酒飲むぐらいはやって、一回こっきりでもう二度と会わずに終わるかもしれないがその一回は果たしてほしかった。
レイチェル殺人事件についてニコールは無謬かもしれないが、アーヴィンはちょっとは悪いところあったかな。彼は早期から不倫関係に気づいていた。殺人や妊娠に発展する前に、弟の彼が不倫なんて良くないと必死で姉を止めてれば事件は防げたかもしれない。
ニコールは楽しく大学生活送ったりボーイフレンド作ったりしたこともあったが、アーヴィンは恐らくずっとレイチェルのことを考えて生きていた。それはアーヴィンに罪の意識があったんだろうな。
敵が出てくる系ゲームなのか調べないまま始めたので、ここ敵来そうだな!と警戒しながら進むのが楽しかったな。
終盤になってから急に出現するゲームもあるので、最後まで気が抜けなかった。アーヴィンが豹変してからは、こいつ絶対襲いにくるぞ!と思った。自殺されるぐらいならアーヴィン、お前と戦いたかった。