Life is Strange : Before the Storm
記憶をなくしてまたやり直したいゲームを挙げるとしたら、絶対にLIFE IS STRANGEも挙げるだろう。それほどにこのゲームシリーズは私にとって大きなものになってきている。
最近は仕事に追われてゲームにさえ手をつける余裕がなくなっていたけれど、何をするにもやる気が起きない退屈な日常から何とか脱却するべくps plusのゲームカタログを眺めていたらLIFE IS STRANGEの続編を発見。前作が素晴らしかったので、またプレイすれば退屈から逃れられるのではと縋るようにプレイをし始めた。(新すばらしきこの世界と迷ったがそれはまた今度の話で)
結論を言うと、想像以上に今作も最高だった。
続編やスピンオフというものはだいたいが1作目を超えられないし、もともとの期待が高かったはずなのにそれを悠々と超えてきたのである。恐ろしい。
私は前作が本当に好きなので登場人物や街に愛着が湧いているので、クロエが楽しそうに表情をくるくる変えてそこにいるだけですごく嬉しかった。でも、それだけじゃない。今回はマックスのように時を戻して物語を進めるのではなく、クロエが精一杯自分と周りと向き合って生きていくお話。なんだけれども、前作と同じように感情移入させられるし、同じように選択を迫られて悩んで選んでその選択は正しかったのかを考えさせられる。ここまで没入感のあるゲームはなかなかないんじゃないかな。
今回は前作で序盤から登場していないにも関わらず強い存在感を感じさせたレイチェルと深く繋がっていく。レイチェルは優等生だけど好奇心旺盛で勇敢で強くて聡明で周囲の人間が惹かれるような、圧倒されるような魅力があって、それが画面越しにも、クロエを介してこちらにすごく伝わってくる。そんなレイチェルに巻き込まれるような形で物語はスタートしていく。
父親は検事で愛妻家で、そんな夫を支える健気でやさしい母親がいて、円満な家庭で育ってきたはずのレイチェルは父親が公園で見知らぬ女性(サラ)との逢瀬を見てしまい、そこから家庭が壊れていく。同じように父親を交通事故で亡くし、新しく来た母親の恋人と家族としての関係を上手に築けないクロエは意気投合してアルカディア・ベイを抜け出そうとする。
しかし、真実を追っていくとサラはレイチェルの産みの母親で薬物中毒だった彼女を表沙汰にしたくない父親が大金を基に反社の人間を使って始末しようとしていた。レイチェルに懇願されてサラに会いに来たクロエはレイチェルが事実を知って傷つかず、今後も幸せな家庭で育っていくために真実を伝えないで欲しいと言われるが…
真実を伝えるか、伝えないか
前作はクロエの命と街の存命がかかっていたけど、今回もかなり難しい選択だった。特にサラに「大切な父親を亡くした貴女なら、父親を失う苦しみがわかるはずよ。」と言われてしまい、クロエがどんなに父親を亡くして苦しんできたかを知っている身としてはとても悩ましい選択だった。
でも、私は真実を伝える選択をした。
実は、大声では言えないがめちゃくちゃ攻略を見ながらやっていたので、レイチェルがサラと再会できる唯一の選択をした、というところだ。
もちろん、真実を知ったレイチェルの家族はぐちゃぐちゃになってしまい、またしても前作と同じように自分のした選択を後悔しそうになったけれど(攻略を見て選んだんだろう!と言われればそれまでだが)、その後でじゃれあう2人の幸せそうな笑顔を見たらクロエが傍にいるレイチェルなら乗り換えてまた新たな家族の絆を結べることができると思ったし、何より嘘をついて他人を、そして自分を偽ることが嫌いなクロエならきっと同じ選択をしただろうと思った。
あまり大々的に指し示されていないテーマを考察と大義名分として推し測る行為は得意じゃないのだが、今回はクロエが嘘または真実と向き合うことが一貫として本題だったように思う。序盤のレイチェルとの嘘当てゲーム、レイチェルと2人でブラックウェルの校長に呼び出されレイチェルのことを庇った嘘、レイチェルの父親がついた嘘、フランクから頼まれたお金をドリューから取り返せなかったという嘘、そして最後のサラから頼まれた嘘。LIFE IS STRANGEは心情の描写が秀逸なので今回はクロエの父親が夢として出てきたシーンが物語において重要な場面となってくるが、父親が「クロエが嘘をつくのが下手なのはパパ譲りだ。」と語るシーンがあるので恐らく本作において嘘がキーであることを示しているように思う。嘘をつけないクロエがやさしい嘘があることを知ってなお、真実を伝えるか真実から守る嘘をつくのか。
今作も没入感が高くてみるみるハマってしまったLIFE IS STRANGEだが、エリオットとのシーンが印象的だった。まず、エリオットとの会話は酷くくだらなかった。これは完全にクロエに感情移入しているからだろう。ここまで主人公に共感して、その会話に対する興味関心のなさ、退屈さがプレイヤーのこちらにまで窺えるゲームなんてあるだろうか。あともう一つは、クロエの様子を気にして尾けてきたエリオットが「君はレイチェルに騙されている、振り回されているのに気づかないなんておかしい」と罵るシーン。今までクロエに感情移入して物語を進めてきたからこそ初めて気づく違和感。確かに、クロエは父親を亡くして色のない世界を彷徨っていたから突如現れた強烈に輝くレイチェルに縋るようにレイチェルが望むことを何でもやってきた。それは普段自分を着飾るようなことをしないクロエがレイチェルの顔色を窺ってまでも。特に序盤の廃品置き場でのシーンがそうだ。急に機嫌を悪くしたレイチェルに対し、まだ知り合ったばかりなのに「友情以上の何かを感じているんだよ、だからまたいつもみたいにこれ壊したくない」と悲痛に叫ぶクロエはとても痛々しかった。そこまで妄信的にレイチェルと一緒にいようとする彼女の違和感がエリオットに言われて初めて露わになり、クロエが今まで嘘と真実の選択を迫られていたようにレイチェルももしかすると偽っている部分があるのかもしれないとまで考えさせられた。我々が思っているよりも遥かにレイチェルは傲慢で狡猾で危険な存在なのかもしれない。ただ、それでもなおクロエはクロエの前にいるレイチェルを信じてただ信じて進むだけなんだけどね。
今作も街のみんなが大好きで、このゲームが大好きなまま終わらせることが出来て本当に良かった。最後の最後のシーンでレイチェルがある人物に写真を撮られているシーンで終わったことと、コンプリした時のトロフィーが「そして嵐の中へ」という名前で何とも不穏な気持ちと前作との繋がりが見えてわくわくした気持ちと心が混ざり合っていたけれどサラッと3,000字は感想文書けるくらい今作もプレイして良かったと心から思える。レイチェルとクロエみたいな運命的な出逢いをして人生を狂わせるのもアリかもしれない。今作をプレイすると、前作の最後の選択でクロエだったらアルカディア・ベイじゃなくてマックス(レイチェル)のことを選んだだろうなと思うと自分の選択に苛まされそうになるけど、前作はクロエじゃなくてマックスの物語。前作のクロエとレイチェルの最期を思うとどうしようもなく悲しくなるけれど、やっぱりマックスだったら街を選んだんじゃないかな、と信じることにする。
「『世界は炎に焼かれて終わると言う者も、氷に覆われて終わると言う者もいる』とか書いてある詩でさ、炎は欲望、氷は憎悪の象徴なんて言うだろ?その両方にあたしの名前をかいておいてよ。」クロエの日記に書いてあったクロエらしくて大好きな文章。またどこかでみんなに会えたらいいな。