見出し画像

あのこは貴族

骨髄移植をしてもう少しで2年と3か月。

先日の定期検査で、できること・できないことがはっきりしてきて、薄々分かっていたけれど、病気になる前に好きだったことのいくつかを諦めなくてはいけないことが決まり、さてこれから何を目標にして、何を楽しみに生きていこうかなと考えながら、近況報告を Facebook に上げました。


毎回結構な長文で報告を上げてしまうけれど、今回のをざっくり要約すると、「こうやって生きていることが奇跡と思って贅沢は言えないかな」という内容でした。


記事を公開してすぐ、友人の一人がコメントを入れてくれました。贅沢言って良いと思うと。

以前と変わったこと諦めたことがあるからこそ、限られたできることがはっきりしてくるはずだから、それについては思う存分やりたいこととして楽しもうよと。

この友人は、子供が2度の小児がんを経た、大変な経験をしています。
だからというわけではないけれど、僕には友人のその言葉がよく届き、とても腑に落ちました。

ということでこの身体でも出来るやりたいことのひとつ、『もっと映画館で映画を見る』を早速実践することにしました。

検査のご褒美ということで、月曜火曜と2日間にわたる検査の疲れが取れた、翌々日の3月4日木曜日に、地元の映画館Tジョイへ向かった。Tのつく日は少し安いのが嬉しい(Thursdayだから)。

選んだ映画は『あのこは貴族』。先月、『花束みたいな恋をした』を見た時に予告とフライヤーを見て、次はこれを観たいなぁと目星をつけていたもの。

 シスターフッドムービーという触れ込みだったので、てっきり門脇麦さんと水原希子さんがどこかで出会ってそこから始まって、ブックスマートのようにワイワイとした展開になる物語なのかと思っていた。

予想とは違って、二人の接点は小さくて、実際に交流がある機会も少なくて、それでもその少ない接触が物語の変化のポイントではあった。ワイワイすることもなく、たまに流れる落ち着いたBGMとともに静かに話が進んでいく感じだ。

描かれる全体は、今の日本の格差社会について、交わることがない階層の違いを示していて、それぞれが抱える悩みや住むセカイ(階層)が違うはずなのに、自分たちが生まれたそのセカイから出られないという分断の類似性に、見ている自分も同じように何かのセカイに囚われているということに気付く。

門脇麦さん演じる華子は、私が立ち入ることが無い階層の人間で、東京のあのあたりに住んでいる人たちは、そういう世界を生きていたのかと初めて知る。

水原希子さん演じる美紀が、地元富山で過ごすシーンは、一瞬私の地元かと思う似たような風景で、弟が話す方言が何となくこちらの方言に似ているし、アピタに寄る?とか、私の家でも普段の会話に出てくるから、雪の降る日本海側の地方都市は、どこも似たようなものなのかもしれないし、大多数が理解しやすく、感情移入しやすいのは美紀のほうだと思う。


内部生・外部生と言う言葉は、自分が大学時代に聞いたことがあった。地方出身上京学生の自分は、確かにそういう壁を見て、届かない向こう側にいる同じ年頃の人たちがいたことを思い出した。

その時眺めていた、少しだけ話す機会があった別の階層の人たちとは、今は一切の接点がなくなっていて、少なからず同じ場所同じ時間を過ごしたはずなのに、結局交わることはないまま今に至っている。

階層の違いだけをクローズアップするわけではなくて、性差のことや求められる「らしさ」についても触れられていて、女性の生きづらさ、求められがちな女らしさや女としての幸せについての悩みを、女性主人公の視点で主題の一つとして描きつつ、男らしさ問題についてもきちんと描かれていたので、全ての人が自分が抱える苦しみの何かに引っかかって、自分事として感じることができるんじゃないかと思った。

僕は病人と言う新しいカテゴライズを得てしまい、さすがに以前ほど長男たるもの、男とは?みたいなものは言われず、そういう機会は減ったけれど、それでもたまに親から受ける言葉にはプンプンとその匂い感じてしまうし、自分自身どこかで縛られていると思う。


始まってすぐの描写で、しばらく見ていなかった車窓に流れる東京中心部の夜の街並みの綺麗さに心奪われ、そこからは、静かに進行する映画の中の世界に一気に引き込まれた。

音楽は必要最小限で、台詞もあまり多くなく、密やかに物語が進むけれど、登場人物の心の動きをしっかり追うように、集中して観ていたからか、あっという間にエンディングを迎えた。

映画としては、そこが物語の終わりはずだけど、これからまた何かが始まるような予感をさせる最後の描写は、観た人がどのように捉えるかをそれぞれ感じてほしいという、小説で行間を読ませるような文学的な感じがした。

言葉で説明をしなくても、演じている人たちの表情やしぐさ、映像から伝わる温度感や音で、登場人物の心の葛藤をとても良く描いている作品だと思う。


少なくとも僕はとても好きな作品でした。

ソフト化されたら、購入してもう一度見たいけれど、まずは原作小説を読んで映画との違いを比べて楽しみたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!

g.m.design&art works  野本 昌宏 (がめちゃん)
お読みいただきありがとうございます。サポートもスキをぽちっとしていただくだけでも、どちらも療養生活での励みになります。よろしくお願いします!