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野球盤(1958) 最初の野球ゲームは南北戦争より早かった?

現在メジャーリーグの名前を関した唯一の野球ゲームシリーズ、MLB The Show。
その2022年版パッケージを飾るのは、やはり大谷翔平。
今シーズンもメジャーで、ゲームで、大きな活躍が期待されるが、野球ゲームの歴史はどこまで遡るのだろうか。


野球の起源


球を投げて、棒で打つ。
そのスポーツの起源ははっきりしない。

紀元前2400年頃の古代エジプト。
Seker-Hemat(ボールを打つ)は、春の祭典に行われた。
太陽神ラーに扮する王が、悪の化身アペプの邪眼であるボールを打つ。
それを神官がキャッチするという。

またリビア北西で行われたOm el mahagは、かなり現代のベースボールに似たスポーツ。
ゲルマン民族が紀元前3000~6000年、もしくは紀元前500~紀元500年の間にアフリカに伝えたという説がある。
その後ヨーロッパからイギリスへ渡り、アメリカへ伝わっていく。※1

19世紀初頭のニューヨークは、東海岸のいくつかある都市の一つに過ぎなかった。
しかし1825年に完成したエリー運河で、五大湖とニューヨーク港がつながり急速に発展。※2
ニューヨークは1840年頃までに、国内の他のすべての主要港を合わせたよりも多くの乗客と大量の貨物が到着する大都市となる。※3

当時ニューヨークで銀行員だったアレクサンダー・カートライトは、仕事が終わると空き地で仲間とボール遊びをするのが楽しみだった。
彼らはタウンボールと呼ばれていた遊びのルールを変更し、20の規則を定める。
そして1845年9月23日、ニッカーボッカー・ベースボールクラブと名付けたチームを作った。※4

これが現在のベースボール、野球の始まりと言われている。

とはいえ、現在とは違う部分も多かった。
例えば、野手はグローブをはめていない。
1870年にキャッチャーDoug Allisonがミットをはめるまでは、みんな素手でプレーしていた。※5
また、ピッチャーはソフトボールのように下から投げた。
それも打たれないようにするのではなく、バッティングピッチャーのように打ちやすい球を投げるのである。※6

この新しいスポーツ、ベースボールは、新しいジャーナリズム、タブロイド紙(Penny Press)やスポーツ紙の格好のネタになった。
1845年10月22日の試合は、早くもタブロイド紙New York Heraldに取り上げられている。

そして1854年にはクラブが3つになり、2年後にはその10倍と急速に人気が拡大。※7
当時話題となっていた新技術「写真」でも撮影され、カードとなって印刷される。
ベースボールカードはその後トレーディングカードとして大きな人気となり、のちのトレーディングカードゲームの下地となっていく。

その後南北戦争が始まるが、その間もベースボール人気は衰えず、1869年には最初のプロのベースボールチーム、シンシナティ・レッドストッキングスが登場する。※8
メジャーリーグが発足するのは、さらに30年以上経った1903年である。

ベースボールの人気は海を超え、日本にも渡った。
1872年、第一番中学校(後の一高、東京大学)にアメリカ人教師が伝えたのだ。
その一高では歌人の正岡子規や、ベースボールを「野球」と名付けた中馬庚らがプレーしている。※9


野球ゲームの始まり


ニューヨーク・エンパイアベースボールクラブのピッチャー、フランシス・セブリングはある日、野球でゲームを作ることを思いついた。
バネを使ってコインを「投げ」、投げられたコインを打ち返す。
野球盤(ピッチ&バット)の原型だ。
現存しているものは見つかっていないが、1866年の新聞広告と、図面入りの特許出願が残っている。

現存する最古の野球ゲームは1869年のものだが、こちらは野球盤スタイルではないボードゲーム。

1869 The New Parlor Game of Base Ball by M.B. Sumner
https://sports.ha.com/itm/baseball-collectibles/others/1869-the-new-parlor-game-of-base-ball-by-mb-sumner/a/7070-80049.s

野球盤タイプのものは、家庭用にとどまらずアーケードゲーム、当時のペニーアーケードでも人気が出た。
(ペニーアーケードについてはセガ・ベルの回で詳しく書いたので、そちらを見て頂きたい)

ペニーアーケードでの最初の野球ゲームは、1929年のAll American Automatic Baseball。
その頃にはベースボール人気は絶頂、ベーブ・ルースが'26~'31と6年連続本塁打王になる時代である。

このタイプのゲームはさまざまなものが作られたが、ピンボール作りの天才でもあるハリー・ウィリアムズが作成した、Rockola World Series Baseball 1937が決定版といえるだろう。※10

以後も多数のゲームが作られるが、‘70年代以降のアーケードゲームはビデオゲームへ姿を変えてゆくことになる。


統計ゲーム


野球は統計と相性がいい。
なぜなら試合が止まっている時間が長く、その間に記録をつけられるからだ。
野球ではピッチャーが投球動作を行う前に、必ずプレーが止まる。
では1試合あたり何球投げているのか?
下のページでは2015年のプロ野球の全試合の投球数から、1試合平均を両チーム合わせて298球と割り出している。

ということは1試合あたり約300回は試合が止まり、その間記録を付けることができる。
バッターの打撃記録だけでなく、ピッチャーがどこに何の球を投げたか、全球記録することも可能だ。
これがサッカーとなるとそうはいかない。
全パスを誰が誰に出したか、フィールドのどこからどこへドリブルしたか記録するのは、コンピュータ導入前には不可能だった。
そういう意味では、野球は統計と非常に相性がいいといえるだろう。

1862年、DIME BASE-BALL PLAYERという本には、基本的なルールなどの他に各チームの選手のアウト、得点などの合計が書かれた。
いわば最初の選手名鑑である。

統計をベースにしたゲームはCadaco All-Star Baseball(1941)が最初だ。
それまでのベースボールのボードゲームは、サイコロを使いランダムに結果が決まっていた。
しかしこのゲームでは選手一人一人にカードが用意されており、成績に基づいてヒットやホームランの確率が決められている。

その後、同様のゲームは複数発売され、APBA(1951)や、Strat-O-Matic(1962)などはいまだに多くのファン(世界最大のゲーム会社エレクトロニック・アーツを創設したトリップ・ホーキンスもその一人)に愛されている。※11

また統計はコンピュータの得意分野だ。
1961年には史上初のコンピュータ上でのベースボールゲームが作られている。

その後、統計ベースのゲームは一時期日本でも運営されたファンタジーベースボール(1980)などに姿を変え、またビデオゲームでもその内容は活かされている。


日本の野球盤


日本でも早くから野球ゲームは作られているが、昔のボードゲームに関する情報は残念ながら少ない。
筆者がWebで探せたもので最も古いものは、1907年の広告。

しかし日本で野球ゲームといえば、やはりエポックの野球盤(1958)だろう。
野球盤を作った前田竹虎は、野球盤のためにエポック社を創立。※12
当時の大学初任給の1割という高額な玩具にも関わらず、長嶋茂雄のプロデビューと同年に発売された初代野球盤は大ヒットする。

以後も消える魔球や、球が宙に浮くホームランなど様々なアイディアを開発していき、シリーズ累計は1000万台を超えた。

またエポックは、魚雷戦ゲームや、ワールドウォーゲーム、EWEシリーズなどのゲームを開発。
さらには日本初の家庭用ゲーム機テレビテニス、カセットビジョンなど、多くのゲームを世に送り出していくことになる。



次回はエレメカ、ミニドライブのルーツです。

※1 佐伯泰樹, ベースボール進化論: 旧石器時代から大リーグまで, 22世紀アート, 2019

※2 ERIE CANALWAY, History and Culture, 2022, https://eriecanalway.org/learn/history-culture

※3 Kiddle, New York Harbor facts for kids, 2022, https://kids.kiddle.co/New_York_Harbor#19th_century

※4 Monica Nucciarone, SOCIETY FOR AMERICAN BASEBALL RESEARCH, Alexander Cartwright, 2022, https://sabr.org/bioproj/person/alexander-cartwright/

※5 Charles F. Faber, SOCIETY FOR AMERICAN BASEBALL RESEARCH, Doug Allison, 2022, https://sabr.org/bioproj/person/doug-allison/

※6 John Thorn, Published in Our Game, "Origins of the New York Game, Part 2", 2018, https://ourgame.mlblogs.com/origins-of-the-new-york-game-part-2-adf3f5b2ec14

※7 John Thorn, Published in Our Game, "Nine Innings, Nine Players, Ninety Feet, and Other Changes: The Recodification of Base Ball Rules in 1857", 2012, https://ourgame.mlblogs.com/nine-innings-nine-players-ninety-feet-and-other-changes-the-recodification-of-base-ball-rules-in-39684873f818

※8 John Thorn, Published in Our Game, "Base Ball in Brooklyn, 1845 to 1870: The Best There Was", 2012, https://ourgame.mlblogs.com/base-ball-in-brooklyn-1845-to-1870-the-best-there-was-89848ac1de40

※9 小関順二, 文庫 「野球」の誕生: 球場・球跡でたどる日本野球の歴史, 草思社, 2017

※10 Routledge, Andrew Williams, History of Digital Games: Developments in Art, Design and Interaction, 2017, 

※11 Blake Hester, Polygon, Trip Hawkins has been playing the same strategy game for 50 years, 2017, https://www.polygon.com/features/2017/8/30/16180144/trip-hawkins-has-been-playing-the-same-strategy-game-for-50-years

※12 NTTコムウェアCOMZINE, ニッポン・ロングセラー考Vol. 44 野球盤, 2007, https://www.nttcom.co.jp/comzine/no044/long_seller/index.html

参考文献
BASEBALL GAMES, https://baseballgames.dreamhosters.com/

タイトル画像
"The American National Game of Baseball - Grand Match for the Championship", Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で


2022/2/9 ver.1.0

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