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混迷社会と日本語(2020)

ギリシャは税金がないので、大変に良い国だ、という話が流行ったことがある。

もちろん、冗談だが、ただの冗談ではなくて、実際にエーゲ海の島に移住する連合王国人が続出した。

どういうことかというと、ギリシャの税務署は、たいへんな非効率で、なにしろ、誰の書類がどこにあるのか、誰にも判らない。

マジメな人…話では日本の女の人ということになっている…が、あまりに何年も税金を支払えという挨拶がないので、ついに業を煮やして、税務署まで出かけていったら、数時間ごそごそやっていて、「申し訳ないが、どこを探しても資料が見あたらないので今日は勘弁してください」と詫びをいいにきたので、おもわず、大声で「今日は今日はって、いったい何年さぼるつもりですか!
あんたたち、それで公僕として恥ずかしくないのか」と怒鳴りつけたという。

あのギリシャ人やイタリア人の男たち特有の、女の人に怒鳴りつけられたときの、情けなさそうな表情が目に見えるようで、涙なしでは聴けない話であるとおもわれる。

あまりに話題になったので、そのうち、自分が生きていければいいやで、たいていは株取引の、年収が五、六千万円がとこの「小投資家」たちが、ぞろぞろギリシャに移住しはじめた。

ひとり、わし友も混ざっていたが、泳ぎくたびれてクロアチアでのヨット遊び生活に転じるまで、3年ほども無税生活を楽しんでいたはずです。

どんな国が自分に向いているかは、その人に訊いてみなければわからない。

いまは、すっかり有名になった若い女の人が十代の頃、ボーイフレンドだったJというカメラマンは、いちど「どんな国が理想だとおもうかね」と訊ねたら、「ラーメンがおいしい国!ニッポン!!」と、きっぱり応えていた。

この人は毎年フジロックに行ってラーメン店を数店まわってくるのが楽しみで1年の残りを稼ぐような人だったので、ラーメンがその国の全面的な価値だった。

ガールフレンドがツアーでアメリカへ仕事に行くと、絶え間もなく、30分に5人くらいの女の人にテキストメッセージを送るような、とんでもない料簡の人だったが、個人から見た国の価値について明瞭な認識を持っていたのは、あるいは中国系移民の両親の影響かもしれません。

見ていると、韓国の人と日本の人が国をランク付けして「民度」という概念が好きなのは、前にも書いた。

日本を知っている人間が周りには、わしくらいしかいないとかで、わしの顔をみると、ほとんど挨拶のようにして、「日本人は、このごろは、もうダメだな。アジアの国のなかでも5番目くらいに落ちぶれているのではないか」などと述べる。

10年ちょっとまえに、わし友のアイルランド人の夫と結婚したころは、「日本は、やっぱりアジアのなかでは別格です。民度が違う。わたしたち韓国人も、がんばって学んで追いつかなければ」と殊勝なことを述べていたが、それが、そのうちに「いまのアジアでは韓国が日本と並んでリーダーです。中国は図体がでかくてオカネモウケが上手なだけ。先進国とは到底いえないが、韓国と日本が手をつないでいけば、中国も、そうそうは手出しはできない」と言い出して、去年、コンテンポラリー韓国料理のレストランで、4人であったときには「日本はもうダメでしょう。もう先進国とも言えない状態なんです。ガメが知っている日本は、もう歴史ですね。これからは韓国と台湾の時代になる。いまのランキングでいえば、韓国がいちばんで、台湾、香港がそれに続いている」

シンガポールは、どうなんですか?
と訊いたら、「あそこは小国だから」と応えてから、自分でも可笑しさに気が付いたのか、ふきだしていた。

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