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「ザ・ビートルズ:Get Back」感想文③

3回に分けて書きましたが、さすがにこれが最後にしようと思います。
2か月以上前に見たからもう記憶もぼんやりしてきてるし。
でも実は、これ1月にちょこちょこメモしてたものが元になってるのです。
まぁ感想文ですから。値段に関して色々あるみたいなソフト化も早速決まってますが、例の如くネタバレ的な記述を含みます。

所謂「Get Back Session」に対する僕の認識

「Get Back Session」のコンセプトは1960年代後半のロックにおけるトレンドを感じ取った(そこを狙ってのGlyn Johns起用はさすがだったと言って良い)のもあったとは思うけど、ポール的にはホワイトアルバムにジョンが持ち込んだハードにロックな路線を踏まえて、このコンセプトならジョンもやる気を出してくれると思ったんじゃないかな。ジョンが最初に持ち込んだのが「Don't Let Me Down」なのにはポールも手応え感じたのでは。結局形になったジョンの新曲はこれと「Dig A Pony」だけ、ってのもまたジョンのやる気が見えなくもないけど。

でも開始時期には最初から無理があった

曲に関しては、二ヶ月半前までホワイトアルバムのレコーディングをしていただけあって、特にセッション前半はジョンもポールもストックのなさで焦りが見える。この辺は事象としてわかっていたことでも、映像として見られると凄くリアルに感じられて良かった。そのような状況に助け舟を出したジョージ(って感じでもないけど)の曲というかジョージ本人に対しても流れる冷遇っぷりもリアルに感じられた。ただし、ジョージ脱退を見せる為にそこを強調する編集してる部分もあるとは思う。そんな中で、ポールがこんな曲書いたよ、みたいな軽いノリで披露するのが「The Back Seat Of My Car」なのは恐れ入る。

実は今回の作品で一番驚いた事

「Across The Universe」はダラダラしてる最中にジョンがなんとなく弾いたのが映画に残ったからサントラに入れることになったのかと思っていたら、レパートリー不足を埋めるためにすぐに使えそうな曲として引っ張り出してちゃんと取り組んでいたのは知らなかった。全くライブ向きの曲ではないこの曲を使おうとなったくらい切羽詰まってたのを感じさせるというかコンセプトが固まっていなかったというか。

よく考えたらそうなんだけどって話

更にプロジェクトの核となる「Get Back」も、「Get Back Session」なんて名称が定着しているから、この曲ありきで始まったプロジェクトなのかと思われがちだったけど、セッション前半で作られた曲であるのもちゃんと見せてくれる。この「眠いし休憩したいし何だったらもう帰りたいって雰囲気をビンビンに出してるジョージとリンゴの前で一心不乱に曲作りに励むポール」のシーンは名場面。そうした核になる曲が途中で生まれたってことは、いかにこのプロジェクトの出発点が曖昧な状態にあったかを物語っているように思う。だから、今となっては当然に思ってるストレートなロックにGet Backしようとしたってのも、この曲が途中で生まれなかったらもっとブレていったんだろうなと思う。

メンバーの様子

初日にはメンバー全員やる気があるように見えるのに、二日目にはダラダラし始めて三日目にはジョンの心底うんざりした表情が映し出される。空回りのポール、イライラするジョージ、傍観のリンゴというキャラを強調するような編集がされてるように思う。前半部分に関しては。そんな中、ジョンは波がありつつ想像以上に協力的に見えたのが意外だったかも。でもそこにポールが乗ってくると一気に萎える感じも今となっては微笑ましく見えたりもする。当然、今回の作品の売り文句である「仲睦まじい」様子もいっぱい見られます。ちょっとどうかと思うぐらい見せられます。後半は特に多いかな。Billy Prestonの存在や役割が大きいのは今も昔も語られている通りでした。

違和感の一つ

今回の作品、オノヨーコがとても無口に描かれていると思う。今まで見た資料だと結構色々口出していたらしいけど、実際そうした様子はジョージ宅での脱退回避ミーティングにおいてそうだったと語られるだけに止まってる。近年は「Beatles正史」に組み込まれている「ヨーコの存在は解散の原因には関係ない」を強調させる映像に仕上げた感じはした。でも仕事場のど真ん中に座って、興味なさそう(あの人の場合、そうでなくてもそう見えてしまうタイプの人だし、欧米人からはより一層そう見えるんじゃないか)に本読んだり編み物してたりしたら、誰でも「何だよ」とは思わないかねぇ。その反面、ジョン以外のメンバーのヨーコに対する歩み寄りはこちらが思ってた以上にあったんかなと思った。

前段の違和感はこのシーンの前振りなのかも

そんなヨーコの言動を直接的な言葉で批判するシーンで鼻息荒く語っているのがリンダ、というのも僕は笑ってしまった。解散後にジョンがポールを批判した「How Do You Sleep?」の歌詞の「母ちゃんになんか言われるたびにビクビクしちゃってさ」を思い出した。まぁヨーコだけじゃないってことなのね、って感じですかね。

そんな人間関係の中で

ポールの義理の娘になるヘザーがスタジオに現れるお馴染みのシーンは、不器用にコミュニケーションを取るジョンの姿に胸が熱くなってしまった。子供、苦手だったんだね。既に一児の父だったのに。ジュリアンが語る父親像はこういうことかと腑に落ちた。数年後に主夫となりショーンを育ててる時期に撮られた写真や映像の優しい眼差しを改めて思い返すと、名実共に父親となったジョンが作る歌をもっと聴きたかったなと思う。

ポールはいつでもポール

後半にはアラン・クラインと対面し説伏され興奮状態のジョンの姿が出てくるけど、その伏線として前半にエプスタイン亡き後のバラバラ具合にポールが愚痴をこぼすシーンがある。その際に「僕たちには父親のような存在が必要」って言葉が出てくるけど、正にその発言のわずか数日後にポールが推薦したのが義理の父親になる人なのは、さすがポールとしか言いようがない。とは言え、企業弁護士としてちゃんとした実績もあり、解散後のポールが大成功したのも義理の父親がビジネス面を見ていた部分もあるとは思う。ついでに、数年後に成田空港でポールのトランクから何かが飛び出してきた際もこの義父が日本の弁護士を手配して実はポールは罪には問われないようになったとのこと。

そんな感じですか

事前に書いてたメモはこんな感じですが。その他にも「ジョージが脱退中の上に、ジョンが明らかに普通の状態にない時にうっかり訪問してしまったピーター・セラーズがジョンの雰囲気に困惑してすごすごと帰る」シーンや、「雑談中にカメラに撮られていることに気付いたジョージがにっこり笑うという長年の訓練の賜物がつい出てしまう」シーンなど、印象に残るシーンは多いです。

結論

めちゃくちゃ面白かったです。いやほんとに。でも多分ビートルズにそれなりの興味がないと全部見るのはしんどいと思います。色々な前後の事情を把握しておかないと、1本目で挫折するんじゃないですかね。うーん、予備知識が多少ないと楽しめないんじゃないかなぁ。逆に本当にこの作品がビートルズ初体験です、みたいな人の意見が知りたいですね。でもお薦めですよ。

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