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高校数学「複素数平面」についての思い付きをごちゃごちゃと

どうもこんにちは。はじめましての方ははじめまして。こんなすぐに2本目の記事を書くと思っていなかったガマです。

以前夕方に撮影した私の通う大学の風景です。綺麗……

諸事情で某大学を志望している某高校の高校〇年生に数学を教えているのですが、今の時代文系でも複素数平面を学ばねばならないご時世らしいです。共通テストに情報が加わったりとか、最近の高校生も大変ですね。

世の中には数学Ⅲ・Cの参考書は少なく、かくいうわたしも、出身高校の恩師の教材と浪人時代の予備校の授業で勉強していましたから、何とも勉強しづらいわけです。

余談ですが、大学で数学/物理学の参考書を自腹で買うようになり、受験産業の参考書がどれだけ安く提供されているのかを実感しました。大学の教科書は本当に高い、、、

教え子ちゃんに数学を教える中で、複素数平面に関しては高校の数学の教科書(※文部科学省の定めた教科書みたいなものがあるらしいですが、わたしは一度も開いたことがありませんし見覚えもありません)とか巷に出回る参考書とかよりもいい説明ができるんじゃないかと思って、この記事を書いてます。ただ、わたし自身がかなり癖の強い教え方をしている可能性は無きにしも非ずです。教え子ちゃんごめんね。

てなわけで、大学3年生の暇つぶし(嘘です、来週に控える某講義の中間試験からの現実逃避です。)にしばしお付き合いください。

P.S. 物理学に興味のある方は是非買ってください♡


複素数について

定義

まず、複素数についてです。平面上で議論する前にちゃんと復習しておきます。複素数 $${\alpha}$$ は、実部 $${x = \mathrm{Re}~\alpha}$$ と虚部 $${y = \mathrm{Im}~\alpha}$$ を用いて

$$
\alpha = x + iy
$$

と書けます。$${i}$$ は虚数単位です。 $${i^2 = -1}$$ ですね。

極形式

複素数には極形式という表示があります。複素数の絶対値は $${|\alpha| = \sqrt{\overline{\alpha}\alpha} = \sqrt{(\mathrm{Re}~\alpha)^2 + (\mathrm{Im~\alpha})^2}}$$ で与えられ、偏角は $${\arg\alpha}$$ などと書かれます。それぞれ $${r,\theta}$$ と書けば

$$
\alpha = r (\cos\theta + i\sin\theta)
$$

と書けるわけです。


複素数平面について

本題に入る前に

複素数平面の導入にあたり強調したいことがいくつか。

  • 複素数平面は全然難しくない

  • 複素数平面は回転拡大を追加で扱うだけで、扱う図形は円または直線(または多少の2次曲線)だけ。$${xy}$$平面より簡単。

  • 複素数平面の問題が難しく見えるのは、数学Ⅱ・B「軌跡と領域」の問題が解けないだけ(偏見)。

マジで「簡単」です。「簡単」は、「$${xy}$$平面の種々の問題が解けるならば何も難しくない」の意です。

それでは本題に入っていきましょう。


複素数平面上の移動操作

複素数平面は、複素数 $${\alpha}$$ の実部 $${x = \mathrm{Re}~\alpha}$$ と虚部 $${y = \mathrm{Im}~\alpha}$$ を直交座標の座標軸が張る2次元平面のことです。実部と虚部を指定することは

  • 複素数 $${\alpha}$$ を一意に指定すること

  • 複素数平面上の1点 $${\alpha}$$ を一意に指定すること

と同じです。複素数の集合 $${\mathbb{C}}$$ は体ですから、四則演算が定義されています。その中でも、加法と乗法は非常に重要でしょう。なぜならば、複素数の加法と乗法は複素数平面上の点の移動操作に対応するからです。

複素数 $${\alpha}$$ といったときには、2つのことを思い出さねばなりません。まず「複素数を1つ指定すれば、複素数平面上の点が1つ指定されている」こと、さらに「その点が指定された時点で、原点からその点に伸びるベクトルも1つ指定されている」ことです。このわたしの変な思想に基づき、

複素数の加法 = ベクトルの加法

と強調しておきます。$${\alpha = x_1 + iy_1, \beta = x_2 + iy_2}$$ という複素数に対し、加法によって新たに $${\alpha + \beta = (x_1 + x_2) + i(y_1 + y_2)}$$ という複素数を指定する操作は、まさにベクトルの加法と等価ですよね。

さらに、複素数平面の $${xy}$$平面と決定的に異なる点は、回転拡大操作を扱うところです。高校数学の課程で行列を扱う時期もあったようですが、回転拡大を扱えるようにするという点ではどちらも変わりません。

さて、先ほどと同様の言い方をしましょう。複素数が $${\alpha = r(\cos\theta + i\sin\theta)}$$ と極形式で与えられたときには、2つのことを思い出さねばなりません。まず「複素数平面上の1点が動径$${r(\geqq0)}$$と偏角$${\theta(\in[0,2\pi))}$$で指定されている」こと、さらに「その点が指定された時点で、原点中心半径$${r}$$の円周を指定し、その円周上で実軸から角度$${\theta}$$回転させた点も1つ指定している」ことです。この思想に基づき、

複素数の乗法 = ベクトルの回転拡大操作

と強調しておきます。三角関数の加法定理から従う

$$
r_1(\cos\theta_1 + i\sin\theta_1) \times r_2(\cos\theta_2 + i\sin\theta_2) = r_1r_2(\cos(\theta_1+\theta_2) + i\sin(\theta_1 + \theta_2))
$$

を考慮すれば当然です。つまり、$${\alpha = r_1(\cos\theta_1 + i\sin\theta_1), \beta = r_2(\cos\theta_2 + i\sin\theta_2)}$$ という複素数に対し、乗法により新たに複素数 $${\alpha\beta = r_1r_2(\cos(\theta_1+\theta_2) + i\sin(\theta_1 + \theta_2))}$$ を指定する操作は、原点から長さ$${r_1}$$ で実軸から角度 $${\theta_1}$$ だけ傾いたベクトルを原点中心に $${r_2}$$ 倍にスケーリングし $${\theta_2}$$ 回転する操作です。


複素数平面上のベクトルの平行と直交

わたしが数学を教える際の思想として、「分数を嫌がれ!!!」というものがあります。真意は

  • 整数問題で分数を扱うな、両辺に分母の最小公倍数を掛けて式を書きなおせ。

  • 分数の分母が0になったら分数は定義できん。0になるところは場合分けの対象になるやろ。

  • 分数関数の微分の公式ややこしいやん。計算ミスの元やし。気を付けて計算せなあかんなぁ(というリマインドを試験中の自分にする)

などがあります。何が言いたいかというと、巷の参考書での「平行条件/直交条件」は嫌いです。なぜなら分数が出てくるから。ということで、次のように書きなおします。

  • ベクトル $${z,w}$$ が直交: $${\overline{z}w + z\overline{w} = 0}$$

  • ベクトル $${z,w}$$ が平行: $${\overline{z}w - z\overline{w} = 0}$$

実部と虚部に分解してやれば、$${xy}$$平面及びベクトルの範囲で学ぶ内容から明らかです。覚え方は「直交条件は内積は掛けて足したら0、平行条件は符号逆転」です。簡単ですね。


複素数平面上の図形と方程式

この節では、円と図形の方程式について紹介します。先に強調しておきますが、

$${xy}$$平面上で出来ることは複素数平面上でもできるし、複素数平面上で出来ることは$${xy}$$平面上でもできる

ことはもっと知れ渡るべきです。早速円の方程式について見てみましょう。

円は「ある点から等距離にある点の集まり」という定義です。図形を点の集まりと見る見方は重要ですので、覚えておきましょう。三平方の定理から、$${xy}$$平面上では2点間の距離は

$$
\sqrt{(x_1-x_2)^2 + (y_1 - y_2)^2}
$$

という式で与えられます。これが一定値 $${r}$$ をとるのが円周ですから、円周上の点 $${(x,y)}$$ と中心 $${(x_0,y_0)}$$ を用いて

$$
(x_1-x_2)^2 + (y_1 - y_2)^2 = r^2
$$

が$${xy}$$平面上の円の方程式です。これと同じ操作を複素数平面上でやってやると、絶対値を用いて

$$
|z-\alpha| = r
$$

になるわけです。この式を

点 $${\alpha}$$ から一定の距離 $${r}$$ にある点 $${z}$$ の集まり = 点 $${\alpha}$$ 中心で半径 $${r}$$ の円周

と解釈するわけです。これはどの参考書にも書いてある内容のはずです。


次に直線です。複素数平面上の直線の方程式には2つの立式パターンがありますので、それを紹介しましょう。(そもそも複素数平面で直線の方程式なんて扱わんやんけ、と思っている人は甘い!)

直線の定義として「ある2つの点から等距離にある点の集まり」を採用します。すなわち、垂直二等分線として直線の方程式を考えるのです。先程と同様に、ある点からの距離は絶対値で表せますから、2点 $${\alpha,\beta}$$ から等距離にある点 $${z}$$ の満たすべき方程式は

$$
|z-\alpha| = |z-\beta|
$$

です。これはよく複素数平面の問題でも見かける式ですよね。

さて、別の見方をしましょう。直線は、方向ベクトルまたは法線ベクトルと通る1点を指定すれば一意に定まります。これはベクトルの範囲で「ベクトル方程式」のように教わるでしょう。これを複素数平面にも応用します。すなわち、「ベクトルの平行条件/直交条件をそのまま利用して直線の方程式を立式する」のです。私の知る限り、これを用いている参考書は存在しません。(そもそも、直交条件をHermite内積で教える教科書が存在しませんし、当然かもしれません。)

立式するときの思考は、「直線は点$${z}$$の集まりで、点$${w}$$を通るときは、法線ベクトル(方向ベクトル)が$${\alpha}$$だとすれば、ベクトル$${z-w}$$とベクトル $${\alpha}$$ の直交条件(平行条件)を立式すればいいな。」です。これに基づき、

$$
\overline{\alpha}(z-w) + \alpha \overline{(z-w)} = 0
$$

とすればよいのです。この式を

点 $${w}$$ を通り、法線ベクトル $${\alpha}$$ の直線

と解釈するのは容易でしょう。たったこれだけです。


例題を3問ほど

垂心の座標を求めてみよう

問題:
「円周 $${|z|=1}$$ に内接する$${\varDelta\alpha\beta\gamma}$$ の垂心$${w}$$ を求めよ。」

実は複素数平面では頻出問題だったりします。これを、先ほど紹介した直線の方程式をぶん回して解いてみましょう。


解答:
点 $${\alpha}$$ から直線 $${\beta\gamma}$$ に下ろした垂線と、点 $${\beta}$$ から直線 $${\gamma\alpha}$$ に下ろした垂線の交点である。垂線の方程式はそれぞれ

  • $${\overline{(\beta-\gamma)}(z-\alpha) + (\beta-\gamma)\overline{(z-\alpha)} = 0}$$

  • $${\overline{(\beta-\gamma)}(z-\alpha) + (\beta-\gamma)\overline{(z-\alpha)} = 0}$$

であるから、$${\overline{\alpha} = \dfrac{1}{\alpha}}$$ などを用いて式変形すると

  • $${(z-\alpha) - \beta\gamma\left(\overline{z}-\dfrac{1}{\alpha}\right) = 0}$$

  • $${(z-\beta) - \gamma\alpha\left(\overline{z}-\dfrac{1}{\beta}\right) = 0}$$

である。2式を $${z,\overline{z}}$$ の連立方程式として解くと

$$
z = \alpha + \beta + \gamma
$$

である。これが垂心より、$${w = \alpha + \beta + \gamma}$$ である。


解説:
直線の方程式を法線ベクトルと通る点から立式しています。世の中に出回る解答は計算が煩雑でしんどくて嫌です。垂心が$${w = \alpha + \beta + \gamma}$$であることは知っておいてもいいかもしれませんね。

本題とは全く逸れますが、単位円に内接する三角形の内心の座標も頂点の座標を $${\alpha^2,\beta^2,\gamma^2}$$ とすれば綺麗に求められます。$${-\alpha\beta-\beta\gamma-\gamma\alpha}$$ ですので、ぜひ挑戦してみてください。


Möbius変換の問題

問題:
「複素数平面上の原点以外の点について、$${w = \dfrac{1}{z}}$$ とする。$${\alpha}$$ を0でない複素数とし、点 $${\alpha}$$ と原点との垂直二等分線を $${l}$$ とする。点 $${z}$$ が直線 $${l}$$ を動くとき、点 $${w}$$ の軌跡を求めよ。」

これもMöbius変換(一次分数変換)の問題として有名ですよね。中山優著「SGCライブラリ153 高次元共形場理論への招待 3次元臨界Ising模型を解く」に突如登場して読んでいた当時に笑ってしまいました。(出典はこの本ですが、東京大学の入試問題の過去問の改題として掲載されているはずです。)


解答:
直線 $${l}$$ の方程式は

$$
|z-\alpha| = |z|
$$

より、式変形すると

$$
\overline{\alpha}z + \alpha\overline{z} = \overline{\alpha}\alpha
$$

を得る。$${z\neq0}$$ から $${w\neq0}$$ が従うので、これに $${z = \dfrac{1}{w}}$$ を代入すると

$$
\dfrac{\overline{\alpha}}{w} + \dfrac{\alpha}{\overline{w}} = \overline{\alpha}\alpha
$$

となり、式変形すると

$$
\overline{w}w - \dfrac{1}{\overline{\alpha}}w - \dfrac{1}{\alpha}\overline{w} = 0
$$

$$
\therefore~~~\left| z- \dfrac{1}{\alpha}\right| = \dfrac{1}{|\alpha|}
$$

となる。よって、点 $${w}$$ の軌跡は中心 $${\dfrac{1}{\alpha}}$$ 、半径 $${\dfrac{1}{|\alpha|}}$$ の円周(原点除く)である。


解説:
定番問題ですよね。ですが、内容はすごく重要です。

  1. 直線の方程式を立てる

  2. 点$${w}$$の存在範囲を導出するため、点$${w}$$ の存在条件を直線の方程式と $${z}$$ と $${w}$$ の関係式から導出する(逆像法: 関係式が逆に解けるver)

  3. 式変形して、点$${w}$$の存在範囲を式から同定する

という作業を行っています。最初にも述べましたが、複素数平面の問題を難しく感じているのは、単純に軌跡と領域の問題を解けないだけではないでしょうか(逆像法の扱いなど)。作業内容自体は何の変哲もないことです。


東大2021 理系数学第2問

問題:
複素数 $${a,b,c}$$ に対して整式 $${f(z) = az^2 + bz + c}$$ を考える。$${i}$$ を虚数単位とする。
(1) $${\alpha,\beta,\gamma}$$ を複素数とする。$${f(0) = \alpha,f(1) = \beta,f(i) = \gamma}$$ が成り立つとき、 $${a,b,c}$$ をそれぞれ $${\alpha,\beta\gamma}$$ で表せ。
(2) $${f(0),f(1),f(i)}$$ がいずれも1以上2以下の実数であるとき、$${f(2)}$$ のとりうる範囲を複素数平面上に図示せよ。

何故この問題を選んだと思いますか?わたしが試験会場で絶望し浪人の2文字をちらつかせたトラウマ問題だからです(笑)。

詳細は

を参照してほしいのですが、少しだけ解説。


解答:
(1) 略。
(2) (1)より、

$$
f(2) = (-1-2i)\alpha + (3+i)\beta + (-1+i)\gamma
$$

である。$${(-1-2i)\alpha + (3+i)\beta}$$ は図(省略)の平行四辺形の内部領域(境界線は含む)を示し、これを $${(-1+i)\gamma}$$ を用いて動かすと、次の六角形の領域(境界線を含む)となる。(図省略)


解説:
伝えたいことは1つで、軌跡と領域の問題が解けていないだけではありませんか、というメッセージです。作業内容は先ほど同様とても大事で、

  1. 連立方程式を解く

  2. 領域を示す式を導出する

  3. 図形の掃く領域を直接図示する(順像法: ベクトルの終点範囲ver)

というものです。複素数平面の難しい部分というのはあまりなかったことが分かるのではないでしょうか。


さいごに

複素数平面という高校数学における分野は、実はまだまだ深められます。少し述べた内心の表式の導出などもそうですが、円や直線に関してはもっと面白いことが言えます。

例えば、直線 $${\overline{\alpha}z + \alpha\overline{z} + \beta = 0}$$ に関して、点 $${\gamma}$$ と対称な点 $${w}$$ は

$$
\overline{\alpha}w + \alpha\overline{\gamma} + \beta = 0
$$

という関係式を満たし、これを用いて点と直線の距離を求める式を導出できます。その他、円の接線の方程式を導出できたりもします。このように、一度強調しましたが、$${xy}$$平面上で出来ることは複素数平面上でもできるし、複素数平面上で出来ることは$${xy}$$平面上でもできることは知っておくべきです。

この複素数平面における理論体系は、すべて高校の恩師の講義に基づいています。現在は退職されてしまったため直接伝えることは叶いませんが、多大なる感謝をここで申し上げたいと思います。

駄文でしたが、誰かの役に立てば幸いです。そろそろ中間試験対策に戻ります。またどこかでお会いしましょう。

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