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ざわわのチカラ

「鶴瓶の家族に乾杯」が好きだ。この番組は笑福亭鶴瓶さんとゲストが、地方の街を旅しながら、その土地の人たちと触れ合うバラエティー番組。

2月6日と2月13日のゲストは森山良子さん。鶴瓶さんと岡山県を旅した。岡山が舞台のひとつだった2021年の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で、主人公の晩年を森山良子さんが演じたことがここを訪れた理由。
朝ドラ「カムカムエヴリバディ」は、大正・昭和・平成・令和を生きた母娘孫の三代が描かれ、全編を通して "ラジオ英語講座" "英会話" と "ジャズ" がモチーフになっている。

正直なところ「家族に乾杯」の面白さは日によって大きく異なる。番組の主人公は偶然出会う街の人々。従って ①出会い(運)  ②見極め(勘)  ③掘り下げ(人間力)がとても重要。鶴瓶さんはその辺りの手練れで、抜群の安定感を誇る。だがゲストはそんな簡単にはいかない。

私はいつも「あの人んとこ行かなきゃー」「もっと懐に入って!」「そこ掘り下げたら面白くなるのに‥」などと思いながら観ている。

そんな難しい番組、先週/今週に放送された森山良子さんは圧巻だった。
良子さんが "岡山の旅" で見せた驚くべき "引きの強さ" は次のとおり。

・イヤホンをして散歩中の女性に話し掛けると、女性が聞いていたのは何と「NHK英語講座」。女性の息子さんはNHKの編成局勤務。
・グランドゴルフ帰りの女性をつかまえてお話。その方の長男は高校中退後、NHK「ラジオ英会話」で英語を身に付け、渡米して会社を興したそう。
   ‥初めに出会ったふたりがいきなり "NHKラジオ英語" がらみとは!
・偶然入ったカフェは、「カムカムエヴリバディ」に出演していたトランぺッター MITCH さんがライブをする店。
・デニム屋さんを探して商店街を歩いていたら、藍染屋の社長さんと出会い、藍染めの体験をさせてもらう。
・果樹園を探している時に会った同い年の女性は、若い時にバンドをやっていたそうで、PP&Mやジョーンバエズに詳しい。歩きながら「The cruel war」や「思い出のグリーングラス」をいっしょに歌う。
・畑仕事中の男性は森山良子さんをよくご存じのようで大喜び。「ジョーンバエズ!」と呼び掛ける。
・たどり着いたブドウ園の奥さんは良子さんの大ファンだった。少し前のコンサートにも行ったとのこと。良子さんは美味しいブドウをご馳走になり、そのお返しとして「涙そうそう」をアカペラで歌う。

どうですか。スゴくないですか。まるで "仕込み" のようなことが次々と起こります。これが森山良子の "引きの強さ" なのです。

私はこれを "ざわわのチカラ" と命名します!

良子さんの "引き" もスゴかったが、ブドウ園の奥さんも逆にスゴい。
「コンサートに行くほど大好きなミュージシャンが家に訪ねて来て自慢のブドウをご馳走したらお礼に目の前で歌ってくれた」という構図。
うちの細君に置き換えると「『家族に乾杯』のゲスト稲葉浩志さんが我が家にやって来て自慢のぬか漬けを振る舞ったらお礼に目の前で『ウルトラソウル』を歌ってくれた」ぐらいスゴいこと。

閑話休題。
良子さんは本人も気付いていない大きな力を持っている。
偶然はそんなに続かない。偶然を続かせる必然が何か無きゃおかしい。
きっと直太朗クンも小木さんも、良子さんの手のひらで転がされているんだろうなぁ。

***

話題は拙宅のことに変わる‥
うちの細君は4人の子供を育てた。彼女の25歳から40歳ぐらいまでの約15年間は、ずーっと子育てに忙殺されていた。そんな頃彼女は折に触れ「子育てが一段落したら B'z のライブと森山良子のコンサートに行ってみたいなぁ」と言っていた。 

少しずつ子供の手が離れ、20数年前からB'z のライブには行けるようになった。今も B'z と稲葉さんは、彼女の一番の愉しみだ。
しかし良子さんのコンサートにはまだ行ったことがない。

細君が森山良子を好きになったのは高校一年の時。親友のミユキちゃんといっしょに「この広い野原いっぱい」を聞いて 『この世界中の何もかもひとつ残らず』あげちゃって『手紙』だけをお願いするとは‥  と二人で感動しきり。そして包み込まれるような良子さんの声と、優しいメロディーが心を癒してくれたんだとか。

この広い野原いっぱい 咲く花を ひとつ残らず あなたにあげる
赤いリボンの花束にして
この広い夜空いっぱい 咲く星を ひとつ残らず あなたにあげる
虹に輝く ガラスにつめて
この広い海いっぱい 咲く船を ひとつ残らず あなたにあげる
青い帆に イニシャルつけて
この広い世界中の 何もかも ひとつ残らず あなたにあげる
だから私に 手紙を書いて 手紙を書いて

それから数年して細君は私と出会う。彼女は私に対して「この広い世界中の何もかも ひとつ残らずあなたにあげる」と思ったんだろう。

***

良子さんはもう50年以上歌い続けている。その間『ざわわ ざわわ‥』の「さとうきび畑」や「涙そうそう」などの名曲をたくさん生み出した。

この度「家族に乾杯」で "ざわわのチカラ" を目の当たりにしてしまった我が夫婦は、その歌声を生で聴いてみたくなった。

コンサート情報を調べてみると‥  何ということでしょう! 車で30分の東海市で、来月コンサートがあるではないか。空席残り僅かだったが、ギリギリで予約することができた。

3月16日は "Made in 今治" のタオルを持ってコンサートに出かけよう。
そして一番後ろの席で、夫婦ふたり思う存分 "さめざめ💧" しよう。
良子さんの生歌を浴びたら私たちも、 "ざわわのチカラ" の恩恵に浴することができるかもしれない。

< 了 >


【附録】「森山良子より森山良子に似ている」清水ミチコさん『ざわわ‥』


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