内生的貨幣供給理論①ホリゾンタリズム

 ホリゾンタリズムはムーアがカルドアの内生的貨幣供給理論を継承し、その後の理論展開の基礎となった。

カルドアの主張をかいつまんで説明すると
①貨幣数量説とは正反対の「貨幣需要から貨幣供給量」への因果性を主張
②当座貸越に注目し、外生的な利子率と水平な貨幣供給曲線を主張
③貨幣の超過供給を否定(過剰な信用貨幣は負債の返済に充てられる)
④中銀が受動的に貨幣供給する理由として、最後の貸し手機能を重視

といった点で、ムーアはそれを基礎として理論を展開していった。

ムーアが1988年の著作で発表した、ホリゾンタリズムとしての主張は
①貨幣の内生性のメカニズム
②利子率論
③マクロ経済学的考察
④信用貨幣の特徴

 に分けられる。それぞれみていく。

① 中央銀行が内生的に貨幣供給する理由として、第一に中銀がマネタリーベースを変化させる能力の非対称性を主張している。中銀は公開市場操作でマネタリーベースを主体的に増減できるとされているが、実際にはベースを増加させる能力はあれど、実際に減らす能力は制限されている。

 これは銀行が市場性のある証券を超過しており、信用が拡張しているときにはそのほとんどは顧客貸し出しに振り向けられる。そのようなときに中銀が量的に削減するのはなかなか困難だ、ということ。銀行はそれぞれの顧客に対して事前に設定したクレジットラインがあり、借り手のイニシアチブで銀行貸し出しが行われる。

 これは銀行貸し出しは自由に売却にしくい、商業銀行自身がその量を制御しにくい、という点があるということ。また当座貸越やクレジットラインによって、貸出量は借り手の資金需要により決定されているからである。

 商業銀行については、内生的に貨幣供給ぜざるを得ない背景として、金融革新と負債管理の発達がその理由となる。規制と金融革新のいたちごっこは
新たな金融商品を開発すればまた別の商品が生み出される。そうした新しい商品は規制や金利政策の範囲外となり、金融政策の埒外におかれる。

そうしたことから金融危機においては銀行システムの流動性は中央銀行が最後の貸し手機能を果たす必要がある。

貨幣供給の内生性に関して
①負債の流動性をどのように測定するのか?
②資産と負債の流動性のちがいとして「負債側の流動性の場合は現金を調達する能力が銀行の信用力に依存しているのに対し、資産側の流動性は現金を調達する能力と銀行の信用力は独立しており、それはいくつかの銀行がより収益性が高いリスク資産を購入し、利ザヤを稼ぐために自己資本比率を切り詰めることを余儀なくされる。
③ある銀行の支払い不能が他の多くの銀行に波及するというシステムリスクが存在する。

 この①~③は金融危機の原因ともなりうる。中央銀行としてはそうした場合、増大した銀行信用のすべてに対応するのか?という判断を迫られることになる。それだけに準備の供給を削減することは困難だ、ということだ。

ムーアは信用の直接的な制御について、銀行貸出量を間接的に制御するのは困難なので、国は銀行信用の上限や準備預金利率の規制を設けたりする。だがこれも「貸出利率と借入利率の差を拡大させ、銀行以外での信用取引の誘因をもたらす事もあり、かえって金融革新を促進させることにもつながってしまう、としている。

 ②利子率
 リテールである銀行貸し出しと預金は資金需要によってその量が決定されるため、商業銀行はその価格である利子率を設定し、価格設定者となる。
(マークアップ利子率論)

 また、ムーアはケインズの一般理論における、外生的利子率論と流動性選好説を否定し、「中央銀行によって決定されるものとしての貨幣量」(ケインズ;1973)を誤りとした。そのうえで、持論を展開し、
「資本市場が自由である限り、資産保有者による裁定は異なった満期の資産のリスク調整済みの期待保有期間収益を等しくすることに依存している。このため、長期利子率は金融手段の全期間にわたる金融市場の参加者の将来の短期利子率に対する期待を反映している。短期利子率は外生的に中央銀行に管理されているので、長期利子率は中央銀行が確立するであろう将来の短期利子率に関する資本市場の集団期待を反映するであろう。

 これを簡単に書くと
「ホリゾンタリズムでは市場金利は中央銀行の金利政策から天下り式に決まる。」
「(最も強引な仮定では)受動的に定まった市場金利と当該市場金利における民間支出需要の変動に応じて、総需要・信用創造水準が受動的に変動する。」
「中央銀行が政策金利設定に応じて受動的に準備預金調節を行っていると類似的に、商業銀行もある市場金利の下で完全に受動的に信用創造を行っている。」
(望月慎;2020)

 ということである。本当にわかってる人は簡単に書いても正確だねえ・・・ということで引用させてもらった。

③ムーアのマクロ経済学的考察は他の多くのポストケインジアンと違い、独特(というかここだけ主流派チック)なので誤解を招くのでここは割愛する。

④貨幣の性質
「商品貨幣、法定貨幣、信用貨幣の間には根本的な違いがあり、独立した貨幣供給関数が存在するというのは商品貨幣、法定貨幣のみに当てはまる」
「(準備預金の)供給スケジュールは需要と独立ではない。どんな所与の金融政策の下でも、金融システムへの中央銀行への貸し出し率によって決定される。銀行貨幣ストックは完全に借り手の信用への需要によtって決定される。信用貨幣は発行金融機関の負債であり、それには信用リスクがあるかもしれないし、利子を支払うかもしれないし、それには元本が保証されていないかもしれない。銀行貨幣の超過供給は銀行信用の返済を通して単純に削減される。

 その他、ムーアは貨幣の一般的受容性を重視している。ここは本題と外れるので割愛する。(これだけで論文が書けるボリュームになるんで)

 【解題】ニコラス・カルドア『ニューマネタリズム批判』(フリードマン・カルドア・ソロー「インフレーションと金融政策」収録)|TagoMago|note

 ムーアの信用貨幣についての主張はカルドアと同じである。
上記に詳しいのでぜひ読んでいただけたらと思う。

  次回はもう一つのアプローチである、ストラクチャリズムについて説明する。主にホリゾンタリズムに対する相違点を取り上げたい。

 

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?