内生的貨幣供給理論~ストラクチャリスト
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~oka/pkownrate_slide.pdf ここではポーリン(1991)の主張からストラクチャリストを説明する。
商業銀行が不十分な準備預金しか保有していないので、中央銀行は順応的に貨幣供給しなければならない(順応的内生性)とするのがアコモデーションであるが、ストラクチャリストの立場では必要な準備預金はある程度金融革新によって創造されると考える立場。(構造的内生性)
「非借入準備の成長を公開市場での制限を通じて制御しようとする試みは準備の入手可能性に有効な量的制約を課す。・・・中央銀行が非借入準備の成長を制限することを選択した時に、追加的な準備は完全に十分である必要はないけれども、金融構造自体の中で(略) CD市場(譲渡性預金)などでの借り入れのような革新的な負債管理による実践を通じて創造される」
現在の日本において、いわゆる又貸し論者がいうような、根源的預金というものは必要ない。
※横山[2015]は,フィリップス型の信用創造論の決定的な欠落として,銀行行動についての分析(企業と銀行との攻防の結果としてマネーが世の中に供給されていく経緯)があるとしており,吉田暁の著書を引用しつつ,以下のように記している。
「筆者がこれまで展開していた,“フィリップス型信用拡張論や量的緩和論への批判”の通奏底音は,それら理論・教科書に共通する,この“銀行行動分析欠落への疑問”である。/同憂の先達,故吉田暁元武蔵大学教授は言う。/「近代経済学の教科書では,中央銀行が国債等の買いオペを行ってハイパワードマネーを供給し,これが本源的預金となって,その後の信用創造過程を説明する。/この場合,説明の便宜という点はあるにせよ、貨幣供給が完全に中央銀行の問題とされ、企業の生産・販売活動や企業の与信活動を無視している「貨幣ヴェール観の虚妄」である。
(一部、文意に沿って文言を変えてます)
銀行は手持ちにお金がないから貸せないわけではなく、企業の口座に融資を記帳し、決められた期間までに法的な準備預金を調達できればよいのだ。
手持ちの債券を担保にしてもいいし、国債を売ってもいいし、手段は色々ある。中銀が完全に対応しなくても商業銀行が主体的に動くことは可能である。北海道拓殖銀行や三洋証券などの破綻は、日銀が助けなかったからだ、と決めつけることはできない。当該金融機関の信用リスクが低いなら資金調達は可能であったはずである。
引き続き、ポーリンの記述
「中央銀行は自ら供給する準備を量的に制約する権威を行使している。公開市場でのある程度の制限は規範であり、中央銀行によって供給される準備漁への制約として振舞う。何等かの制限を仮定しても、構造的内生性では、負債管理として①最初に貸し出し②その後に準備を探す、という銀行の実践により、企業の資金需要に対応している。
「負債管理の追及は
a)ある量の準備がより多くの負債管理型預金を支え
b)ある量の当座預金がより多くの事業貸し出しを支える
ようになる。
負債管理の増大は一定の制度的構造の中で利子率の上昇圧力となる。それがさらに金融革新をもたらし、中央銀行の準備制約があったとしても管理型負債の利子率上昇がないような制度へと移行していく。決して中銀による一方的な制御だけではない。
すなわち、中央銀行の準備の量的制約は可能だが、負債管理の結果、金融革新によって準備が内生的に創造される。このような金融革新は準備が十分であることを「保証はしない」ので金融危機の可能性はでてくる。
ストラクチャリストの立場はミンスキーの金融不安定化仮説を内生的貨幣供給理論に導入したものと言える。
その他のホリゾンタリズムとの違いとしては
①利子率の外生性を批判
②実質的に傾きが正の貨幣供給曲線を導入している。
③流動性選好説を重視している。
ことが主な論点である。
※ 貨幣数量説に従うと貨幣供給曲線は垂直
ここは主流経済学とは違う点で、いわゆる銀行学派の主張に沿っている。
③についてはレイの説明から
レイによる「流動性選好と内生的貨幣供給との調和」
ケインズの資金調達動機 ( nance motive) を重視利子率の流動性選好
理論の笠石だ (Keynes 1937c)|
「流動性選好と貨幣需要とは同じものではない」(Wray 1990, p.17)
「企業が資本資産を購入するための資金として (in order to nance a
position in capital assets) 銀行の債務である預金を欲し、銀行が自身
の債務と企業の債務との交換に応じれば、貨幣需要と貨幣供給とは
ともに増える。しかしこのとき流動性選好は上昇していない。実際、
資本資産を購入するために進んで負債を負おうとしている|つまり
より流動的でない状態を取ろうとしている (it has takin a less-liquid
position)|のだから、流動性は下がっている。」(同 pp.17-18)
流動性選好とは、資産の構成をより流動的な状態にしようとする欲
求であって、
1 非流動的な資産を売って支払手段を得ることや、
2 負債を償還すること (支払手段を使って負債を清算すること)
への欲求として現れる
レイによる「流動性選好と内生的貨幣供給との調和」(2)
最後の手段として、支払約束を満たすために (to meet payment
commitments) 借金することもできる。
▶ 在庫品の前払い
▶ 手形の割引
▶ 信用割当の利用 (同 p.18)
しかし、銀行が悲観を共有していたら、信用を縮小しようとするか
ら、流動性選好が高まるとき、貨幣需要、貨幣供給ともに減ること
もある (同 p.19)。
「流動性選好は保蔵需要である」(同 p.19)。
貨幣には、それ以外に、「生産や資産所有のための資金を調達する
( nance) という重要な役割があ」り、「貨幣供給は [その意味での] 貨
幣需要の関数だ」。
「保蔵の供給は保蔵需要の関数ではなく、保蔵性向の上昇 (流動性選
好の上昇) は保蔵の価格 [利子率] を上げる」(同 p.19)。
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~oka/pkownrate_slide.pdf
以下はこのリンクで。
この流動性選好説に関する部分だけで論文が何本もかける。
気合の入ってる方のために下記の論文を紹介しておく。
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~oka/ownrateendogenous.pdf
自己利子率と内生的貨幣供給
岡敏弘 ∗
ポストケインズ派経済学研究会
2020 年 6 月 27 日
この次はホリゾンタリズムとストラクチャリズムの理論的統合について紹介する。
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