ホリゾンタリズムとストラクチャリズムの理論的統合
ここでは両者の理論的統合を図った、フォンタナ(2009)の議論をみていく。
貨幣供給過程においては中央銀行の行動が極めて重要な役割を果たす。中央銀行は名目短期金利を調節することによって貸し出し市場における貸し手の行動に影響を及ぼすことができる。この点はホリゾンタリズム、ストラクチャリズムの双方も認められる点である。
両者の相違点は貨幣供給過程において中央銀行が仮定する期待の状態にある。ホリゾンタリスとは期待の状態が一定であるとし、ある特定の政策スタンスが採用されると、それに基づいて金利の水準が一義的に決定されると考える。
一方、ストラクチャリストは中央銀行の期待の状態が変化することによってもたらされる効果を考慮に入れて、複雑な政策反応関数を想定しようとする。
ホリゾンタリズムは準備供給曲線の水平部分に着目し、ストラクチャリズムは左上がりで階段状に準備供給曲線に着目しているといえる。
フォンタナはこうして双方の立場を整理し、貨幣供給過程に関して、経済各主体が抱く期待の状態への仮定が異なっていると捉えた上で、それぞれ
「単一期間分析」「連続分析」ということで特徴づけた。
つまり、ホリゾンタリズムは考察される期間内において、各主体の期待の状態が不変であると言う仮定しての「内生的貨幣の単一期間理論」であり、
ストラクチャリズムは一続きの、いくつもの単一期間の動学についての分析とであり「内生貨幣の連続理論」であるといえる。連続分析により、金融政策の変化、流動性選好、および貸し出しと預金の連鎖といった問題を考察することができる。つまり、この2つのアプローチは補完的と言えることになる。
これはどういう意味を持つかと言えば、期待の状態に相異なる仮定を置くことは、「一般均衡」におけるケインズの分析方法の正統な展開であるとも言える。
「短期期待は必ずしも実現しないが、長期期待は一定である、と言う仮定に基づく「定常均衡理論」と短期期待が裏切られるのみならず、それによって長期期待もまた時間を通じて変化するという「移動的均衡理論」がそれに当てはまる。(ケインズ;1936)
ケインズは「一般理論」において、「有効需要の原理」を説明するための基本的枠組みとして「定常均衡モデル」を用いていた一方で、しばしば「移動的均衡モデル」を利用していた(クレーゲル;1976)
ということで、ケインズの系譜を受け継いでいるポストケインズ経済学の理論的な柱となる「内生的貨幣供給理論」の2つのアプローチを統合する意義があるということになります。