列王記下8章/行きて、帰る。

エリシャは、かつてその子供を生き返らせてやったことのある婦人に言った。
「あなたは家族と共に立ち去り、住める所に移り住みなさい。主が飢饉を呼び起こし、それはこの地にも及んで七年も続くからだ。」
婦人は直ちに神の人の言葉どおりに行動し、家族と共に立ち去り、ペリシテ人の地に七年間住んだ。 七年たってから、その婦人はペリシテ人の地から帰り、王のもとに自分の家と畑の返還を求めて訴え出た。
(中略)
そこで王は彼女のために、一人の宦官に次のように命じた。
「この婦人の物をすべて返しなさい。またこの地を後にした日から今に至るまでの畑のすべての収穫も返しなさい。」

列王記下 8:1-3, 6 新共同訳

聖書で繰り返し語られる物語類型に追放と帰還というカテゴリーがある。
本章のエピソードもその一種である。

①婦人は飢餓から逃れるために故郷のイスラエルを離れ
②異邦の地であるペリシテに逃れ
③帰還し、王から財産を返還される。

①でキャラクターは故郷から追放、または旅立ち
②で余所者としてある場所に逃れ、または旅をし
③で帰還する。

・ヨセフ

①父から可愛がられていたヨセフ は兄たちの憎しみを買い
②それが因となり奴隷としてエジプトに売られるが(以上創世記37章
③エジプトで出世したヨセフは、かつて自分を殺そうとした兄弟たちと和解する(創世記50章

・ダビデ

①古代イスラエル王サウルに命を狙われているダビデはペリシテ人の地に逃れ(サムエル記上27章
②ペリシテ王に厚遇されたダビデは出世するも、同僚たちからは疎まれるなどし、結果ペリシテを離反し
③ユダに戻ったダビデはユダの王になる。

・キリスト

①イスラエルのヘロデ王に命を狙われたキリスト一家はエジプトに逃れ
②そこでヘロデが死ぬまで過ごし
③生まれたベツレヘムではなく、ガリラヤのナザレに移り住み、預言が成就する(以上マタイ2章

・出エジプト

①異邦人エジプト人に奴隷として使役されていたヘブライ人は
②神に導かれてエジプトを脱出し
③カナンの地で宗教的政治的自由を得る。

・放蕩息子のたとえ

①金持ちの息子は財産を持ち外国で放蕩の限りを尽くすが
②財産を使い果たし、困窮したため故郷に戻るが
③父親は悔い改めた息子を受け入れる。(ルカ15章

・キリスト者

①わたしたちは神によって造られたが
②異邦人としてこの世に余所者として住むが
③最後には故郷である天の国に帰る(フィリピ3章

・失楽園

①人祖アダムとエヴァは楽園で暮らしていたが、堕罪によりそこを追放され
②地上で苦しみの生を送っていたが
③やがて蛇と敵対する子孫「お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に わたしは敵意を置く。 彼はお前の頭を砕き お前は彼のかかとを砕く(創世記 3:15 新共同訳。」が現れる。

行きて帰る物語が聖書には多用されている。

何らかの理由でホーム(故郷)にいられなくなったキャラクターは
苦難を経るが、何らかの良いものを受け取る。またはキャラクターに変化がない場合は周囲の状況や周囲のキャラクターが向上する。

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