与謝野晶子生誕祭2021・後編
※ 前編を振り返ってからお楽しみください。
着物ファッションショーに参加
新しい形のまち歩きに挑戦!
突如として予定変更し、百選会風コーデファッションショーを開催することになった2022年与謝野晶子生誕祭。
本来なら、こんなにいきあたりばったりでイベント開催するものではありません。
しかしさまざまな事情がからみ、必然的に今回はこの流れにならざるを得ない状況に陥ったのであります。
私はイベントを開催するときは、それが誰のために、何のためにされるべきなのか、という主旨を必ず考えます。本来ならファッションショーというのは、まず観る人が楽しむものですが、今回はまちあるきツアーと組み合わせておこなうという、かなり異例のパターンです。ツアー参加者にステージへ出演していただくわけですから、そこをどうとらえるべきなのか、という課題がありました。
とはいえ、私自身は、まさにその点こそが今回のプランの眼目であり、重要な点であると思いついたからこそ、このプランに自分から飛びついたのでした。
着物の魅力――それは、着る人も見る人も幸せな思いにさせてしまう、着物だけがもつ不思議な魔力です。
着物を着ると、その装いを誰かに見てほしくなります。また、誰かが着物を着ているところに出会うと、なにか幸せな気持ちになります。
着物ファッションショーは、出演する人にも観覧する人にも、どちらにも幸せな思いをあたえてくれるはずです。
ましてや、ちん電沿線の魅力スポットのひとつ、71laboのステージに立てる最後の貴重な機会なのですから、「ちん電どんぶらGO!」ツアーとしても充実の内容といえるでしょう。
と、わたくし自身は自信満々だったのですが、はたしてこの思いを参加者や観覧者のみなさまに充分にお伝えできるものだろうか…
そのあたりは不安でいっぱいでした。
いざ、まち歩き!
晶子の少女時代の思い出を訪ねて
さて、いよいよ生誕祭当日。参加者は石原写真館にてまず着物にお着替えし、今回は特別に大正ロマン風のヘアメイクをしていただきました。
竹久夢二や高畠華宵のイメージで、テンションがどんどん上がります。
お着替えがすんだらお昼前に出発し、まずは宿院の与謝野晶子生家跡へ。ちょうど阪堺電車の宿院と大小路の中間地点に晶子歌碑があります。
ここ甲斐町で晶子は生まれ、鉄幹と結婚するまでの間の青春時代を過ごしました。
次は山之口商店街にある開口神社へ。晶子の通った堺女学校(現在の大阪府立泉陽高等学校)の発祥の地です。境内で写真撮影し、晶子恋歌みくじをみんなでひいて遊びました。
このおみくじは、晶子の歌に合わせた恋占いが楽しめるだけでなく、お守りの水引がひとつ入っていて、乙女心をわしづかみにされるおみくじです。
ここからちん電に乗って、会場の71Laboへ移動。Social good caféさんでおいしいランチをいただきました。
ステージの準備と、出演者のみなさんと進行の打ち合わせをし、いよいよ3時からファッションショー開始です。
晶子の愛した高島屋百選会コーデ
ウルトラモダンに想いを馳せて
オープニングは、みんなで「かもめかもめ」を歌いながら輪になって回りました。
これは私が高島屋の「キモノ・アラモード」展の資料を見ていた時に思いついた案でした。
着物は、全方向から見て楽しみたい。
着物姿の大人女子が、一斉に童心にかえって「かもめかもめ」を歌い遊ぶ姿は、とても可愛らしい光景になると思いました。
では、いよいよファッションショー開始です。
実際に晶子が命名した流行色の名前と、その年の趣意に合わせて、今回kimono刀屋さんにコーディネートしていただいた百選会風ファッションの解説と、晶子の歌の紹介をしながらステージで披露していただきました。一部抜粋して紹介します。
こちらは、第39回秋の百選会風コーデ。流行色6色のうち、「明眸色」「小公主紅」をとりあげました。
うづたかく鹿の子の菊を盛り上げて思ひ上れる小公主紅
実際の着物には、地模様に里山の風景の絵が描かれており、この年のテーマ一科の「秋の近世版画模様」ともぴったりと合致しました。秋の盛りに咲き誇る菊をぜいたくにつみあげ、真っ赤な着物をまとっておのれのうつくしさに浸る若い乙女の無邪気さをうたった、じつに晶子らしい歌です。
また、こちらの方はご自身のおばあさまのお着物をこのたびお召しになりましたが、これも第42回秋の百選会にぴったりと合いました。
流行色から、濃紫、流泉色、マロン茶が当てはまり、さらに驚いたことに、晶子の歌とイメージがぴったり一致したのです。
おそらく大正時代ころの、かなり古いアンティーク着物でした。間近で見たときは、あまりにも年代物だったので少々ドキドキいたしました。
菊咲くや流泉色の羽織などはかなきもののなつかしきころ
私自身は、第28回秋の百選会のコーディネートを選びました。晶子は、この年の流行色6色をすべて詠みこんだ詩を同時に発表しています。当日はその詩を朗読しました。
流行色の名前は、紅鸚哥、呉竹緑、胡桃茶、葡萄紫、青竜胆、八束穂色です。
紫にごく細い青の縞が入った着物は、八掛の色も青。これで葡萄紫と青竜胆です。それに八束穂色と呉竹緑のイメージで、山吹がかった黄色の総絞りの名古屋帯と黄緑色の帯締めを合わせ、紅鸚哥の紅色は帯揚げとショールで演出しました。
「紅鸚哥」の詩は長いので、ここでは紹介しませんが、命名色すべてを盛り込んだ乙女心の情感たっぷりの実に愛らしい詩です。
今回は膨大な百選会のコレクションから、ほんの一部のエッセンスだけをとりあげた形になりましたが、それでも晶子の高い美意識と歌と着物と女性たちへの豊かな愛情を十分に味わうことができたのではないかと、手前味噌ながら思っております。
ギャラリーの皆様にも大変好評いただきました。このようにショーとして開催したことで、敷居が高いと思われがちな詩歌・文学の世界と、アンティーク着物の魅力を身近に体感していただけたかなと思っております。
またぜひ機会があれば開催したいなと思います。
71Laboのヴィンテージな風合いの空間と、アンティーク着物の相性も最高でした。大掛かりな照明も機材も使用せず、手作り感あふれるステージが、かえってより温かみのある空間を創り出していたような気がします。今回が最初で最後となりましたが、この創造性のある71Laboのステージで開催できて本当に良かったと思います。
ショーをご観覧いただいたみなさま、参加・出演いただいたみなさま、sosial good caféさん、どうもありがとうございました。
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