マップからどんぶらGO!へ・後編
想像かきたてられる沿線の魅力を
情報の集積で終わらせたくない
(前編あらすじ)
「ちん電マップ」脱退後、「ちん電どんぶらGO!」というソロ活動をはじめたわたくし。しかし始めた矢先に、ごくプライベートな問題(結婚)により、堺から遠く離れた地へ転居を余儀なくされてしまった・・・
「ちん電どんぶらGO!」は、このまま立ち消えになってしまうのか!?
ちょうど1年前の3月、無事に嫁入りしましたが、いざ転居を終えて落ち着いてみると、私の心の中にはぽっかりと大きく開いた空洞がありました。
ちん電です。
愛しのちん電に乗りたい。
ああわが街堺に帰りたい。
私にとって、愛してやまない地元堺とちん電から離れて暮らすことは、想像以上の辛さをもたらしました。
おりしも新型コロナウイルスの感染が拡大し、全国的に自粛の要請が出る時期と重なってしまったため、おおっぴらに堺の友人たちに会いに行ける状況ではなくなってしまいました。そんなこともあり、私は新婚早々ほとんど鬱状態に陥ってしまったのでした。
さながらお池にはまったどんぐりぼうやのごとく、私は堺とちん電を想っては恋しがる日々を送り、泣いてはどじょう(旦那様)を困らせました。
そんな2020年が暮れて、年が明け、私はついに決意しました。
「ちん電どんぶらGO!」を再開するぞ!!
もうこれ以上、ちん電から離れては暮らせない。
愛があれば、遠距離がなんだというのか。
たとえこの身は遠く離れても、わが心はつねにちん電とともにあり。
このコロナ禍の中、かつて取材で親交を深めた沿線のお店の方々は、時短営業や休業でたいへんな苦境に陥っておられました。そんな時期にたまたま転居してしまい、お店の方々になんらかの応援もできない現在の自分の状況にも、とても歯がゆさを感じていました。
今こそ!「ちん電どんぶらGO!」を再開すべき時なのだ!!
決意を固くしたわたくしは、さっそく新年早々(こっそりと)ちん電に乗り、久々の取材を再開しました。まずはSNSから、こまめに情報発信を始めました。そして、フリーペーパーの作成にも着手したのであります。
2年前に発行した「ちん電どんぶらGO!」の内容は、ちん電の大好きな女の子・ももちゃんとお友達のDON、BURA、GO(順にイヌ、トリ、サル)のキャラクターが毎回ちん電沿線を案内する設定でした。(タイトルのイメージからわりと適当に作っちゃったキャラでした)
〈ちん電どんぶらGO 第1回~第3回〉
見取り図とともに沿線を紹介する構成でした。
↓ 一部抜粋したものがこちら。
今回、再開するにあたって私はこのキャラクターと設定をそのまま引き継ぐのか、まったく一新して別のキャラクターで新しく始めるかで悩みました。2年のブランクを経たおかげで、少々冷静に思案することができたので、あらためてこのスタイルを踏襲してもいいものかな、と考え直すことにしました。すると、以前からなんとなーく漠然と抱えていた違和感に、思いがけず正面から向き合うこととなりました。
「ちん電マップ」を発行していたときから、これは他の沿線情報誌とは一線を画しているとのひそかな自負がありました。
たとえば、大手情報誌「ナ〇ツ」さん、「サ〇ィ」さん、「さ〇にゅー」さん等々も、もちろん私たちと同じお店を紹介していたりします。でも、その視点と狙いは明らかに違うと私自身は思っていました。(勝手に)
(ちなみに「ナ〇ツ」さんからは一度コンタクトがあり、何らかの形で協力しあえませんか、とのお声がけがありましたので、「ちん電マップ」側からは取材で集めたお店の情報や写真のデータを無償提供したことがあります。こちらの側にもなんらかの見返りがあるのかと淡い期待があったのですが、結局は何もなく、情報提供しただけで終わってしまいました。今でも時折、「ナ〇ツ」さんやその関係誌の紙面に、私の撮影した写真が使用されることがあります。見ると「あ、うちの食器や(笑)」といろんな意味でにまにましてしまいます。)
また、つい先日「さ〇にゅー」さんサイドの知り合いの方からも、「沿線のおススメのお店、インスタ映えする飲食店の情報を教えてほしい」と依頼があったので一応リストを送りましたが、その時もこの違和感が頭をもたげ、なんかモヤっとしたのでした。
たしかに、私もSNSでお店の情報を発信するときなどは、写真などの「映え」にもかなり気を配ります。お店の魅力を多くの方に発信したいという想いは同じです。だがしかし…別に「インスタ映え」するお店にこだわっているわけではないし、お洒落なライフスタイルを提案したいわけでは決してないぞ。いやもちろん、読者の方がそのようにお役立てくださったなら、それはありがたいに越したことはないんだけど。
本当に伝えたい魅力は、そことは違うんだよ。
だって、ちん電沿線は他の電鉄の沿線とはまったく違うんだよ。もちろん、ちん電自体も他の電車とは全然違うんだよ。
じゃあ何が違うねん、ゆうたら…
うーむ。なんとも名状しがたい、言葉にならない独特の魅力です。どう説明したらいいのか、説明のしようがない。
…としか言えないことに、私は気づきました。
言葉にならないこのえもいわれぬ魅力というやつを、どうやって伝えたらいいんだろう?それを考えていたとき、ふと新しいアイデアが浮かんだのでした。
ちん電の魅力はさまざまで、いくらでも挙げることができる。しかしその魅力の正体は、言葉にできず目にも見えないものなのだということをようやく私は発見したのです。もちろんそれはSNSなどではとうてい伝えることのできない情報なのです。
だからこそのフリーペーパーだ!!
紙媒体でなければ表現しえぬもの、それを伝えていこう!
かくして、キャラクターも内容も一新した新生「ちん電どんぶらGO!」が産声を上げたのであります。
【萩原久実子・プロフィール】
大阪・堺市出身。
生後まもなくアトピーを発症し、血まみれの暗い悲惨な幼少期〜思春期を経験。おとぎ話を心の支えに成長する。
26歳で一念発起して兵庫県立尼崎青少年創造劇場(ピッコロシアター)演劇学校へ入学。才能のなさを思い知り、3年目で卒業。以後演劇の道を断念。
その後体調を崩し、ひきこもり生活に。仲間とともに「ひきこもりーノ大作戦」を立ち上げ、ボランティア活動を通じて自立の道を探る。
阪堺電車(愛称ちん電)の魅力を発信するフリーペーパー「ちん電マップ」の発行に携わり、その後独立して「ちん電どんぶらGO」を発行。ちん電沿線をまち歩きしながら、SNS等で勝手に発信し続けている。