‘magic’を動詞として使う|英文法の考え方
今回も『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人:Harry Potter and the Prisoner of Azkaban』の実例を紹介。
‘Then he magicked you onto a stretcher,’ said Ron.
Quidditchの試合中に Dementors(吸魂鬼)に襲われ、気を失って箒から落ちた Harryを、Dumbledore校長が「魔法を使ってストレッチャーに乗せた」ということを表している文。
まず注目したいのは、magicという単語が動詞として用いられていること:
magic + O + 副詞/前置詞句
to make somebody/something appear somewhere, disappear or turn into something, by magic, or as if by magic
— cf. OALD
要するに、「魔法の (or 魔法のような)力を使って、目的語の指す対象を移動・変化させる」ということなのだが、いちいち個別に意味を覚えなくても正確に解釈できるようになるのが本来の英文法の力というものなのです。
英文法の考え方
どういうことかと言うと、文構造に注目すると:
V: magic(ked) + [O: you] + (前置詞句: onto the stretcher)
→ V + O + 「場所」を表す副詞/前置詞句
これは例えば putの使い方と同じであることがわかる。
ex.) put [the book] (onto the shelf)
したがって、‘V + O + 「場所」を表す副詞/前置詞句’という文構造は、「何か/誰かをどこかに動かす」という共通の意味を表していることになる。その上で、動詞に magicが使われているのであれば、「魔法を使って」という手段・様態に関する情報の色づけがなされているという格好になるのである。
このように、一定のパタン・文構造に共通する要素を整理できるのが文法の力。
巷でよく言われる「文脈から意味を想像しながら読む」をもっと丁寧に分析するならば、文構造を頼りに文全体が表す大まかな方向性を明らかにした上で、知らない単語・馴染みのない用法によって理解がぼやけている箇所について、必要に応じて解像度を高めていけば良いということ。多読であれば、逐一辞書を調べていると「多」読にならない(量をこなせない・読書スピードが上がらない)ので、それこそ「誰が・何を・どうした」という中心情報さえ拾っていければ良い、と割り切ることも大切であろう。
つづり字と発音
動詞 magicは、過去形を作る際に magickedと、単に語尾 -edをつけるだけでなく、kが挿入される(-ing形を作る際にも magickingとなる)。
これは、英語のつづり字と発音の関係上、/ ˈmædʒɪk /の最後の /k/の音を保持して読めるようにするためのものである。仮に kを挿入せずに -edをつけると magicedとなるが、子音字 cは「e, i, yの前」では /s/と発音されてしまう。他方、ckは環境によらず規則的に /k/と発音される(ex. kick / kicked)ので、magic / ˈmædʒɪk /の過去形を確実に / ˈmædʒɪkt /と読ませるためには、この kを付け加えることが必要になるのである。
子音字 cは…
(1) a, o, uの前 (cap, coin, cut)
(2) 子音字の前 (clean, crowd)
(3) 語末 (magic)
→ /k/と発音する(硬音の c)
(4) e, i, yの前 (cent, since, city, cycle)
→ /s/と発音する(軟音の c)
参考
ガリレオ研究室 YouTubeチャンネルで公開している「高校英文法×英語学|文型×行為連鎖」のプレイリストでは、本記事で解説した文構造が表す共通の概念に注目して文型を解説しているので、併せてご活用ください。
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