‘unlockable’の言語学|形態論入門
‘unlockable’という英単語は、lock「鍵をかける」という語に、接頭辞 un-と接尾辞 -ableが付くことによって形作られるものですが、単に ‘un- + lock + -able’のように、3つの要素が一列に並んでいるのではありません。
それを裏付ける言語現象が、unlockableという語の持つあいまい性です。この単語は、ほぼ真逆と言って良いような2つの解釈を持ちます。
今回の記事では、言語学の分野としては「形態論: Morphology」に関わる語形成の仕組みと、それに伴ってなぜ ‘unlockable’という語が 2つの異なる解釈を持ち得るのかについて解説していきます。
解釈①: not able to be locked
鍵をかけることができない
‘unlockable’の解釈の1つは、鍵がついていない、あるいは壊れているなどの理由で、「施錠することができない」という意味です。
この場合、まず動詞: lock「鍵をかける」に接尾辞 -ableが付き、「鍵をかけることができる・施錠可能な」という意味の形容詞: lockableという語が作られます。
その上で、happy⇔unhappy, lucky⇔unluckyのように、形容詞に付いて意味を反対にする接頭辞: un- によって「鍵をかけることができない・施錠不可能な」という意味の unlockableという形容詞が完成することになります。
ガリレオの留学経験上、UCLの中であれば、図書館や自習室にノートパソコンやタブレットなどの荷物を置きっぱなしにして休憩などで退席することは基本的に誰でも平気でやっており、危険に思うこともまずありませんでした。
しかし一般的に言えば、この意味での unlockableな場所に貴重品を放置することは、たとえ短時間であっても避けた方が無難ではあるでしょう。
解釈②:able to be unlocked
鍵を開けることができる
‘unlockable’の解釈のもう1つの解釈は、「一度鍵をかけたものを再び開けることができる・開錠可能な」というものです。
上の樹形図で示したように、解釈①とは要素間の結びつき方の順序が異なっていることが見て取れるでしょう。
こちらの解釈の場合、接頭辞 un-は動詞に付くもので、解釈①の un-とは別物と理解した方が良いでしょう。動詞につく接頭辞の un-は、tie「結ぶ」⇔untie「ほどく」, button「ボタンを留める」⇔unbutton「ボタンを外す」などのように、元の動詞が表す行為の逆方向の動作を表す動詞を作ります。
したがって、lock「鍵をかける」に接頭辞 un-が付いた unlockという動詞は「鍵を開ける」という意味になるわけです。
この動詞に、接尾辞 -ableが付くと全体として形容詞になり、解釈①とは異なる「開錠可能な」という意味の unlockableになります。
貴重品を厳重に管理しておくことは大切ですが、解釈②の意味の unlockableな場所でないと、二度と取り出せなくなってしまうので、ご注意を…。
まとめ:ことばは階層構造を作る!
以上、今回の記事では、‘unlockable’という単語を例に、ことばは単純に要素が一直線上に並んでいるのではなく、順番に要素同士が結びついて階層構造を成していることを解説してきました。
言語学においては、ざっくり言えば、このような階層構造を「単語レベル」で研究する分野が形態論: Morphologyであり、「文レベル」すなわち語句同士の結びつき方を研究する分野を統語論: Syntaxといいます。
語学学習へのアドバイス
ことばが階層構造を作るという性質を持つものである以上、要素同士の結びつき方に意識を向けることは、今回取り上げた ‘unlockable’という語ひとつをとってみても、正確な意味を理解するために不可欠なことであることが実感できたのではないでしょうか?
初学者の中には、単語ごとに日本語訳を調べては、その訳語を並び替えて「それっぽい」日本語訳をこしらえ、理解した気になっている人がいます。
しかし、ことばを学ぶ際に重要なことは、各要素がどのように結びついているのか?という点をしっかり整理しながら理解していくことにあります。
応用問題:‘undrinkable’な水とは?
この記事の内容からの応用として、たとえば ‘undrinkable’という単語は、2つの解釈を持ってあいまいになるでしょうか…?(ちなみに、undrinkableという注意書きは、海外に行くと蛇口🚰のところで見かけることがある実用的な英単語です。)
結論を言えば、unlockableと異なり、undrinkableの場合は、まず間違いなく「飲用に適さない」の意味= unlockableの解釈①と同様の構造を持つ語として理解されます:
基本的に水道水が安全と考えられる日本とは異なり、海外では undrinkableの注意書きのある蛇口には注意が必要です。
では、なぜ undrinkableは解釈があいまいにならないかと言えば、lock「鍵をかける」⇔unlock「鍵を開ける」に相当するような、drink「飲む」の逆方向の動作を表す undrinkという動詞が、自然には考えられないからです。
無理やり考えれば、「飲む」の逆の動作は「吐き出す (vomit)」と言えなくもないかもしれませんが、「開ける⇔閉める」や「結ぶ⇔ほどく」のような自然なペア関係とは捉えにくいと判断できます。
ましてや、[[undrink]able] すなわち「吐き出すことが可能な」という性質によって特徴づけられる液体物も存在しないでしょう。それを言うためには、そもそも「吐き出すことが絶対に不可能な液体」の存在が前提であり、それと対比させていることになるので、その意味でも不自然です。
このように、動詞に付く接頭辞 un-は、どんな動詞にでも自在に付けられるかというとそうではなく、言ってみれば「Ctrl/Command + z」のやり直しが成り立ちうる行為を表す動詞に限られるわけですね。
同じ理由で、unbreakableという英単語も、あくまで「impossible to break: 象が踏んでも壊れない」の解釈のみであり、‘unbreak’ + ‘-able’すなわち「壊しても復元できる」の意味には(通例)なりません。日常生活で、‘unbreak’することができればなぁ、と思う時は、たびたびあるものなのですがね…😅
参考動画
※ ‘unlockable’に関する内容は 6:33頃〜
MIT 24.900 Introduction to Linguistics, Spring 2022
Instructor: Prof. Norvin W. Richards
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