「いちご大福パイ」の言語学
少し前に、ガリレオの周辺で、マクドナルドの新作デザート「いちご大福パイ」が美味しそうじゃない?という話題が盛り上がりました。
個人的には、美味しそうという感想もさることながら、どうしてもメニュー名に対して言語学者として反応してしまう部分があり、「じゃあ来年には『いちご大福パイラーメン🍜』とか出るんじゃない?」と返すところまでがセットだったのですが😹
実はそのような(空想・冗談も交えた)メニュー名を考えたり、意味を理解したりする時にも、言語学の仕組みが関わっているので、今回の記事で解説していきます。
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言語使用の創造的側面 (The Creative Aspect of Language Use)
「いちご大福パイラーメン」という食べ物は、少なくとも今のところは実在しないと思われます。ということは、読者の皆さんは、この記事で生まれて初めて「いちご大福パイラーメン」という表現に出会った可能性が非常に高いでしょう。
それでもなお、日本語ネイティブまたは日本語に十分習熟していれば、「いちご大福パイラーメン」というものが(味はともかくとして)どういうものであるのか想像することが可能です。「うわぁ…不味そう🤢」と思った時点で、これまで聞いたこともなかったであろう食べ物のことを、適切に想像して意味を理解しているというわけです。
しかも、このような「いちご+大福」→「いちご+大福+パイ」→「いちご+大福+パイ+ラーメン」…のような複合語による新メニュー名は、際限なく続けていくことができます。たとえば「いちご大福パイラーメンせんべいアイス揚げバーガー🍔」が、そのうちマクドナルドの店頭に並ぶかもしれません。
これが何を意味しているかというと:
複合語は無限に長くできる
→ 無限個の単語を記憶しておくことは不可能であるため、人間は今まで聞いたことも出会ったこともないような言語表現を理解できたり、自ら創造的に使うこともできる能力を持っている。人間の言語獲得は、オウムや AIが “話す”仕組みとは全く異なる
→ 人間がことばを話せるようになる仕組みは、もちろん生まれてから一定期間に周囲で言語が使われる環境で育つ必要はあるにせよ、周りの人が話していることを、そのまま覚えて使い始めるというようなものではない。これは、いわゆる「オウム返し」や、大量の言語データから単語同士の結びつきパタンを学習して文章を生成する AIの仕組みとは根本的に異なる。
このように、実在する「いちご大福」や「いちご大福パイ」だけでなく、存在しない「いちご大福パイラーメン」という表現までも創り出し理解できる力こそ、人間だけが持つ言語能力の重要な側面なのです。
右側主要部の規則 (Righthand Head Rule)
では、「いちご大福パイラーメン」のような実在しないメニューでも、日本語を理解できれば、それはラーメンの一種であり、いちごや大福、パイの一種ではないとすぐに分かるのはなぜでしょうか?
これには、右側主要部の規則 (Righthand Head Rule)が原則的に成り立つことが、さまざまな言語について主張されています:
これに従えば:
…というように、上に挙げた複合語の意味の中核を担っているのは、最も右側(つまり最後)の名詞であることが見てとれます。
また、「いちご大福」は、いちご入りの大福=大福の一種であるのに対し:
もし「大福いちご」というものがあるのなら…と考えてみると、それはおそらく、たとえば大福のようなモチモチした食感と甘さが特徴的な、いちごの品種といったように解釈されるでしょう。このような日本語話者の直観からも、右側主要部の規則が成り立つと考えられます。
同じことが英語にも当てはまります:
『言語研究入門』では、現代イタリア語・ベトナム語・インドネシア語などで、複合語の左側に主要部が現れる場合があることも紹介されていますが、そのような例が右側主要部の規則に対する決定的な反例となるか?となると、十分な証拠とまでは言えないようです。
そして大事なこととして、右側主要部の規則のような文法ルールは、親に教わるわけでも、学校で習うわけでもないということです。
教わらなくても自然に分かる、というのが、生成文法の主張するところの、「人間は、有限個の原理や規則を適用して無限個の文法的な言語表現を生成するための文法知識を生得的に備えている」ことの、ひとつの証拠となるのです。
こぼれ話:本記事のトップ画像について
Canvaの新機能で、AIに「いちご大福パイラーメン」の画像を生成してもらった結果のひとつを採用してみました。大福とパイの要素はどこに行ってしまわれたのだろうか…?
また、他に生成された画像の例を見る限り、AIは「右側主要部の規則」を無視しているように思える場合もありました:
やはり人間とは全く異なるメカニズムで言語情報を「処理」している、つまりは本当の意味で人間と同じように言語を「理解」しているのではない、ということができるでしょう。
参考文献
→「第6章 語を作る仕組み:形態論1」(竝木崇康, pp.76-88)
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