「別れ」と「二者択一」、そして「追憶」の恋物語(作品紹介:メモリーズオフ 〜それから〜/KID)
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作品概要
本作は神奈川県・湘南および江ノ島電鉄線沿線を舞台とし、高校生や大学生の時に切なく時に苛烈なラブストーリーを描く全年齢向恋愛ADVゲーム「メモリーズオフ」シリーズのナンバリング4作目にあたるタイトルだ。
本作はシリーズの中でも特に筆者の評価が高い。人気投票での本作のヒロインの票数などシリーズの中でも人気作であることを裏付ける根拠は多いが、私はそれを語るまでもなく本作が傑作である根拠をいくらでも挙げられる自信がある。
そんな根拠のない自信はともかくとして、今回は特に優れている面や各ヒロインを引き合いに出して、その魅力を語っていこうと思う。
商品情報
対応ハード等:PS2、PSP、Windows、DMM、Steam
開発元:KID
CERO:C(PS2)、B(PSP)
発売日:2004年6月24日(PS2)
あらすじ
作品特長
シリーズで最も「メモオフらしさ」が出た作風
あらすじにもあるが、本作は「主人公の恋人だった“メインヒロイン”から突然別れを告げられる」という衝撃のプロローグから幕を開ける。
「パッケージヒロインが実は故人でした!」みたいな仕込みはこのシリーズに限らず全く見ないわけではない存在だが、パッケージヒロインが初手で振ってくる(ここを「降ってくる」と誤字るとド定番になってしまう)となるとこの作品ぐらいのものではないだろうか。
ストーリーを読み進めると、最愛の恋人と別れた主人公の困惑や苦悩、さらにら振った本人であるメインヒロインの疲弊も克明に描写される。
更には読み進めていくと容赦ない三角関係が描写されるルートなども存在し、登場人物同士のすれ違い・対立もドラマチックに描写される。
王道をなぞる部分が多いながらも、離別・すれ違い・三角関係、あるいは自己犠牲といった恋愛の負の側面にあたる要素に真摯に向き合う、「メモリーズオフ」シリーズらしさが本作ではよく出ていると感じた。
キャラクター造形への萌え要素の積極的な導入
メモリーズオフシリーズ全体、特に意図的にそれが行われていたとされるシリーズ2・3作目で顕著であるが、キャラ造形に萌え要素があまり使われていないという点がある。
特に本作から見てシリーズ前々作に当たる「2nd」では特に顕著で、制服デザインを含め全体的なアートワークの色彩設計がかなり抑えめの明るさに作られているとされる。
しかし今作ではヒロインのキャラ造形にあたって「妹」だったり「メガネ」だったり「着物」だったり…キャラ造形にあたってそのようなわかりやすい萌え要素が積極的に取り入れられている。
新機軸の多数投入が契機となり賛否が大きく別れてしまった前作からの脱却を図った一手であるかもしれないが、元々「シナリオに地味な造形のキャラを引き込むのが上手い」とされていたシリーズの良さが、本作では目立つキャラ造形によりハイレベルに昇華されていると感じた。
量・質ともに優れたシナリオ
本作のシナリオを語る際、質だけでなく量が凄まじいという話題は外せない。
本作のPC・CD-ROM版はディスク6枚組という結構な物量であり、そのプレイ時間は35時間超。攻略ヒロイン数は前作の7人から5人に減っているのにも関わらず、シナリオボリュームは同等かそれ以上のものが確保されている。
ヒロインひとりひとりの個別ルートがしっかり作られていることの証左であるといえる。
作中のシナリオは大別して二つに分かれ、学校を中心にストーリーが展開する学校編(いのり・縁・雅ルート)と、主人公のバイト先であるカフェを中心にストーリーを展開するカフェ編(果凛・葉夜ルート)の二つに分かれる。
カフェ編は作品自体の賛否が分かれてしまったシリーズ前作において概ね全プレイヤーから好評だったという「カフェを舞台にしたストーリー展開」の要素を継承したもので、他の3ルートとはまた異なった雰囲気のプレイ体験を楽しめるようになっている。
個別ルートでは気を衒ったような場面もなくは無いが大多数は王道をゆくシチュエーションが占める。しかし描写の仕方は丁寧かつ工夫が凝らされている上実力派声優の名演も相まって飽きが来ることはまず無い。意外性だけがシナリオの全てではないということを強く感じさせるシナリオだった。
そしてこのシリーズほぼ全ての作品で言える事だが、バッドエンドもシリアスだったり読んでいて辛い一方、読む価値も非常に高いものが多い。
「仕掛け」込みの名劇伴の数々
メモリーズオフシリーズの劇伴は第1作から一貫して阿保剛が担当しているが、個人的に最も劇伴が好きな作品が本作である。
単純にヒロインのテーマ曲等で好きな曲が多いだけでなく、いわゆる日常シーンのBGMにも名曲が存在する。
特に「Sunshades」はのちのシリーズでもアレンジ版が使われている。
ヒロインのテーマ曲に関してもプレイ体験を作っている「仕掛け」が存在するなど侮れない。
例えばヒロインの一人・野乃原葉夜のテーマ曲は原曲とピアノアレンジで調を変えて大きく印象を変えており、これが個別ルートでの演出にも大きく関わってくる。
BGM名はプレイ中にシステムメニューを開くと確認できるが、私もプレイした際は少し驚いた。
…などなど、とにかくBGMも語るところが多い。本当は音楽理論とか勉強したらもっと語れるところが多いんだろうけど…
ヒロイン紹介
陵いのり(CV.小林沙苗)
本作のパッケージヒロイン。
浜咲学園高校3年生・18歳。脚まで伸びた長髪と一対になった謎の髪飾り(後のシリーズ作でもネタにされている)が特徴的な、奥手な性格の美少女。
主人公・鷺沢一蹴の2年半連れ添った恋人であり、最初にアプローチを仕掛け、そして想いを告白したのも彼女からだった。しかし、プロローグ・2月14日に突然彼に別れを告げた。
本作のメインヒロインであると同時に、特に雅・縁の両ヒロインのルートでも物語からフェードアウトすることなく重要人物として登場。更にはそのルートから主人公と復縁するルートも存在する。
彼女自身のルートは通常ルートと真相編(TrueStory)に別れており、複数の特定のエンディングを攻略することで通常ルートのEDからそのまま、もしくはタイトル画面から真相編に突入可能になる。
個人的には語られる真相自体はそこまで大それた意外性のあるものではなかったが、他ルートで登場する場合も含めて魅力を描くことに失敗したということは全く無い。
寧ろ、縁ルートでのいのりの活躍(?)は必見。
シリーズ最終作「innocent fille」では24歳の彼女が登場。主人公と既に入籍しており苗字が鷺沢に変わっている。「なんか今作のいのりって鷺沢文香に似てない…?」とネタにしてたら苗字がマジで鷺沢になっていたため一部の346プロ兼業ファンは度肝を抜かれたとか
鷺沢縁(CV.石原絵理子)
主人公・鷺沢一蹴の妹。兄と同じ浜咲学園高校の生徒。
実際は一蹴は両親に養護施設から引き取られた身であるため一蹴と縁は血が繋がっていない。一蹴にとっては既知の事実だが、縁はこのことを知らされていない。
極度のブラコンでどんなに冷たくされても一蹴に甘えまくる。
一方思考がネガティブな方向に行きがちであり、特に兄に対する大したことない失敗や粗相を大袈裟に捉えてすぐ彼の前から消え失せようとする一面もある。
普段の甘くどこか子供っぽい言動からは想像がつかないが実は地域トップレベルの進学校である浜咲学園で学年五指に入る成績を誇る、明晰な頭脳と高い教養レベルの持ち主。
動物が好きで、飼い猫がいる。
彼女のルートは本作どころかシリーズでも屈指のサスペンス性を誇る。
そのシナリオは恋愛アドベンチャーというジャンルを遥かに超え半ばサイコホラーの域に突っ込んでいる。
全年齢作品にしてはかなり苛烈な修羅場シーンも存在し、人によっては胃薬も必要になりそう。
担当声優の石原絵理子は本作発売からしばらくして「うさだひかる騒動」なる一悶着を起こして芸能界から退いており、以降のファンディスク等ではCVが成田紗矢香に変更されている。
騒動の詳細は内容が内容なのもありここでは明記を避ける。詳しく知りたい人は検索すればすぐ出るので参考に…
藤原雅(CV.かかずゆみ)
浜咲学園高校3年生。
一蹴のクラスメイトで薙刀部の元エース。その腕前は超高校級とされ、男子剣道部のエースと異種競技戦で勝負した際は相手を完膚なきまでに負かした。
クールかつシニカルな性格で、歳の割にひどく厭世的な価値観を持っている。他人にもあまり心を開いておらず、まともに話をとりあうのは自分を慕う薙刀部の後輩くらい。
一方甘いお菓子が大好きな一面もあり、和菓子・洋菓子関係なく味にはかなりうるさい。
実家は呉服店らしいが…
本作、ひいてはこのシリーズにおける筆者の最推しヒロイン。
プレイ開始時からルート突入、そしてエンディングを迎えFDのアフターシナリオに至るまで、筆者はその印象を何度も揺さぶられた。
シナリオ自体はひたすら堅物ツンデレヒロインの王道をなぞるようなものだが、そこで彼女の性格の実情がどんどん明らかになるにつれ、「幸せになってほしい」「こんな魅力的なヒロインおるんか…」という感情に支配されてゆき、最終的に筆者はヤフオクで過去のグッズを漁る妖怪みたいな存在になってしまった。
何がともあれ、気を衒わずとも恋愛アドベンチャーとして大正解なストーリーを完成させた極めて良質なシナリオのルートである。是非、読者の貴方にも遊んでいただき、あわよくば私の同志となってほしい。
余談だが、声優を見ればわかることだがわさドラ世代にはより深く刺さるかもしれない。是非若い人にこそ遊んでほしい。
花祭果凛(CV.榎本温子)
一蹴のバイト先「カフェならずや」常連客の女性。20歳。
大金持ちの実業家・政治家夫妻のお嬢様で、大学に通う傍らファッションモデルをする多忙な生活を送っており、極めつけにはかなりの美人という完璧超人。
その知名度も高く、多忙の合間にリムジンでカフェに訪れたときは他の客からサインを求められることも多い。
執事のジイヤ(この呼ばれ方だが若い男性)など他人の目がある環境ではお淑やかな口調だが、親しい間柄の友人のみの環境になると途端にフランクな口調になり、気軽に友人の悩みを聞くことも多い。
葉夜とは高校時代からの親友。
本作の人気ヒロインの一角。
シナリオ展開の方向性は雅ルートと似通って王道をなぞるものとなっており、意外性はなくとも多くの人にオススメできるものとなっている。
私も雅ほどハマりはしなくても、それまで全く無関心だった「芸能人・著名人」属性に少し興味を示すようになったことなど、確かな変化があったのは間違いない。ちなみに全体的に線が多いので作画コストがとにかく高いらしい。
野々原葉夜(CV.こやまきみこ)
一蹴のバイト先「カフェならずや」に勤めるフリーター。20歳。
いわゆる電波キャラで独特の世界観を持ちそれを語りだすと止まらず、また自身の好奇心を掴むものが現れると我を忘れたように追ってしまう一面がある。そのためバイトでは遅刻の常習犯。
しかし勤務中のミスは極めて少なく、謎のバランス感覚を以って絶対に食器を落とすことがない。
独特の世界観の中に含まれる科学や哲学にかかる膨大な知識やハイレベルな教養も本物で、星など天体にも詳しい。
お父さんっ子。父親は総合病院勤務の医師。
かわいい妹ヒロインや電波キャラには毒がある。
彼女のルートは本作の中でもシリアスさでは上位に入り、内容も恋愛アドベンチャー的な側面も大きい一方、どこか後の妄想科学ADVじみたシナリオになっている。
備考
本作はシリーズ他作品からの客演が多くなっている。
シリーズ前々作「2nd」と前作「想い出にかわる君」からそれぞれメインヒロインを含む複数名のキャラクターが客演しているためこの二作品は先にプレイしておく事が軽く推奨されるが、全くもって必須ではないため誤解なきよう。
最後に
メモリーズオフシリーズの特徴がよく出ていると同時に、作風はシリーズ最終作「innocent fille」とも非常によく似通った部分がある。そのため、当該作品を遊ぶ前にこの作品を遊ぶことも強く推奨される。
旧ハード版の中古のほか、現在はSteamやDMMでも安く購入する事が可能となっておりプレイするハードルは低くなっている。是非検討してほしい。
(文責:ウオハゲ)
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