表裏一体の「くそったれなゲーム」で「最高傑作」を君は体験したか?(作品紹介:CHAOS;CHILD/MAGES.)
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©MAGES./5pb./RED FLAGSHIP/Chiyo St. Inc.
©2008 5pb./Nitroplus/RED FLAGSHIP
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イントロダクション
2008年に発売された「CHAOS;HEAD」から始まった5pb./MAGES.とニトロプラスの共同プロジェクトによるSFADVシリーズ「科学アドベンチャーシリーズ」。
特にシリーズ2作目「STEINS;GATE」はその綿密に練られたシナリオと設定が高い評価を得て、テレビアニメなどのメディアミックスも含めてこのジャンルでは異例の大きなヒットを飛ばした。
だが、今回紹介する「CHAOS;CHILD」はそんなSTEINS;GATEも作ったスタッフ陣が、それを抑えて「最高傑作」と評したとされる作品だ。
この記事を通して、その言葉の裏にある根拠に興味を持っていただけると嬉しい。
製品情報
オリジナル発売日:2014年12月18日
対応ハード:Xbox One、PS3/4/Vita、Windows、iOS、Android、Steam、Switch(以上発売順)
CERO:Z
発売元:MAGES.(右記以外)、スパイク・チュンソフト(Steam/Switch海外版)
定価:3300円(Steam)、2900円(iOS)
作品概要
本作はMAGES.より開発発売されている志倉千代丸企画原案のSFアドベンチャーゲーム「科学アドベンチャーシリーズ」の第4作である。
同シリーズのファンディスクを除くメインタイトル各作品はそれぞれストーリーが独立しており、基本的にどの作品からプレイしても良いようになっている。時系列に関しても本作はシリーズ3作目「Robotics;Notes」の4年前にあたる2015年の秋になっていることからも、そのことがおわかり頂けると思う。
しかし、本作はシリーズ第1作「CHAOS;HEAD」(以降カオヘ)の事実上の続編のような形で作られており、同作とは多くの設定を共有している。
一応本作単独で遊べることにはなっているが、時間が許すのであればカオヘを先に遊んでおくことが強く推奨される。
スタッフに関してもカオヘと共通している箇所が多い。
メインキャラクターデザインはカオヘと同様、ささきむつみが担当。メインシナリオライターはそれまでのシリーズで担当してきた林直孝ではなく、後にアニメ「Vivy -Fluorite Eye's Song-」で原案と脚本を担当した脚本家の梅原英司が担当。同氏は主にアニメで実績があった人物であり、ゲームシナリオの担当はこれが初めてであった。なお林直孝はサブシナリオライター、及びシナリオ総監修として本作に携わっている。加えてメモリーズオフシリーズなどで多くのゲームシナリオ実績のある安本亨とたきもとまさし等を迎え、シナリオは計5人体制で執筆されている。
このほか、武器デザインではCHOCO(麦谷興一名義)、劇伴音楽では阿保剛が続投している。
なお誤解されがちであるが、本作(及び前作Robotics;Notes以降の科学ADVシリーズ)の開発にニトロプラスはメーカーとしては殆ど関わっておらず、本作におけるクレジットは主に版権に関するものに留まっている。
あらすじ
作品特長
「当然」を全てひっくり返す衝撃のプレイ体験
本作の真髄は他に替えることが全くできない、その「プレイ体験」にある。
最初にプレイヤーが攻略する共通ルート、その後に攻略可能となるヒロイン個別ルート、最後に攻略可能となる真相編…。
その全てでプレイヤーが当然だと思っていた認識を根底から覆し、ただの伏線回収とも形容しがたいこちらの感情を思考の基礎から揺さぶってくる巧みなゲーム上の仕掛けが多数置かれている。
それらはただ単に唐突に挿入されるのではなく(もしもそうであったなら只のクソゲーだろう)、文脈・伏線・設定等を踏まえながら破綻もなく丁寧にゲームプレイに組み込まれているのでプレイヤー側に抗う余地は殆どなく、その衝撃を甘んじて受け入れるほか選択肢は無い。
特に真相編は衝撃の、そして私がこれまで見てきた中でも最悪な形の「伏線回収」から始まる。
これを表現するのに適切な言葉が見つからないような形のショッキングな展開であり、ここで人によっては作品自体の評価を分けてしまうこともある。
そして迎えるラストは、私にとってはとても「美しい」代物であり、これまで経験してきたどの物語よりも綺麗な終わり方であったと感じた。
この2つのシーンの真実は、是非プレイして確かめ、そしてそこで初めて感じた印象は大切に覚えていてもらいたい。いちプレイヤーからの切なる願いである。
前作を踏まえ進化した描写・システム
本作は「CHAOS;HEAD」の続編として、主にシナリオやシステムの面でその雛形をなぞっていながらも様々な側面で進化を遂げている。
まず単純にシナリオの分量。
本作の全シナリオテキストデータ量は約3MBとされている。
これはシリーズ前々作「STEINS;GATE」の1.5倍にあたるシリーズ歴代作品でも最多とされる分量で、字数換算で一般的な文庫本や新書の十数冊分以上にも及ぶとされている。
総プレイ時間も40時間を優に超え、中には攻略情報なしで80時間かかったという報告もある。
しかしシナリオ展開のテンポは終始良く、途中で飽きることはほとんど無い。
その源として、前作同様サスペンスを軸としてSF、ミステリー、異能力バトル様々なジャンルの要素やシチュエーションをストーリーに内包していることもあるが、今作はそこに更なるブラッシュアップがかけられている。
例えばミステリーやサスペンスの部分。あらすじを読んで貰えばわかるように、前作の「ニュージェネ事件」をなぞって本作で発生する「ニュージェネレーションの狂気の再来」はただの連続殺人ではなく、前作の事件を基にした見立て殺人としての要素が新たに追加されており、緊張感とプレイヤーの困惑の醸成の優秀さに拍車がかかっている。
より複雑な緊張を演出する為のミステリー部の伏線構成も、光るものがあった前作以上に磨きがかかっており、複雑性も増している。
しかし「マッピングトリガー」と呼ばれる新しい選択肢システムの導入により、ストーリー展開を見失うようなことはない。この選択肢はプレイ中、謎が複雑になってきた場面や大きな展開があった際に挿入され、プレイヤーがそれまでに見てきた情報がその都度整理される。ミステリを読み慣れていない人でも安心して読み進めることが可能だ。
なお前作の選択肢システム「妄想トリガー」も続投しているが、演出はリニューアルしており、よりゲーム本筋に対してシームレスかつオシャレなものに仕上がっている。
戦闘描写のテキストはねちっこい感じではなくどちらかというとサクサク読めるタイプの記述の仕方であるが、全くもって迫力を失うには至っておらず、むしろ台詞回しを中心に高い緊張感の演出に成功している。
BGMやエフェクトなどの演出面も含め、ビジュアルノベルにおける戦闘シーンの見本のような仕上がりになっている。
前作においては短すぎる上に適当な作りと思ってしまうような物も含まれていたヒロイン個別ルートのシナリオも、本作では改善が図られている。
ゲーム全体から見た分量の少なさ自体は相変わらずでも各シナリオは非常に丁寧に作られており、ヒロインの魅力の描写とシナリオの根幹を成す要素のビルドインが両立されている。バッドエンドやアナザーエンドが実装されているルートも存在し、本作、そして本シリーズの世界観の広がりがスマートかつ魅力的に描かれている。
豪華声優陣による迫真の名演の数々
主にシナリオ・構成面の上手さを語ってきたが、しかしながら本作の魅力、そしてその源として「声優の名演技」という部分を欠かすことはできないだろう。
それぞれ本作の主人公・メインヒロインを演じた松岡禎丞と上坂すみれ両名は、2014年の発売当時既に若手声優のトップに立っており多くの主演級出演作品を持っていた。そんな浅い芸歴にも関わらず既に高かったその実力を、素人でも端的に感じられるのが本作である。
「カオヘ」の主人公であるキモオタ・西條拓巳の、それこそ海外ファンからは「日本一端的に気持ち悪いインセル」などとあまりにも攻撃力の高いワードで表現されながらも愛されている気持ち悪さを、同キャラを演じた吉野裕行氏は特にネットスラングの予習などもせず演じ切ってしまったエピソードは著名である。
しかしながら本作の主人公・宮代拓留の持つ独特の魅力とそれを完璧に演出した松岡禎丞氏の演技力も全く劣ってはいない。
宮代拓留は欲望丸出しでコテコテのキモオタだった前作主人公・西條拓巳と比較すると一瞥した素ぶりからはキモオタという感じこそ無いものの、レスバを好んだり陽キャをバカにしたり「情報強者」であることに拘ったりそのくせコミュ障だったりと、そのほか近年でも見られるリアルなキモオタの性格が多く反映されている。人によっては拓巳よりも拓留の方が気持ち悪いと感じるほどのリアルなキャラ造形になっており、そして松岡禎丞はそんな宮代拓留に完璧に命を吹き込んでいる。思い返すと、彼の拓留に対する解像度はどこから来ているのだろうか…。と今でも筆者は疑問に感じている。
そしてメインヒロイン・尾上世莉架を演じた上坂すみれなのだが…その真髄を書くとネタバレになってしまうので、残念ながらここにその詳細を書き記すわけにはいかない。
気になる人は、可能ならファンディスクと併せて、本編を買って遊んでみてほしい。
それ以外にも本作はメインキャラから脇役まで、そして著名な声優からあまり名を聞かない声優まで徹底して実力派揃いであり、そのピースが一つでも欠けるとこのゲームは成立しないほどの完成度にもなっている。
登場人物紹介
宮代拓留(CV.松岡禎丞)
本作の主人公。
碧朋学園高等部3年生。新聞部部長。
自分を「情報強者」かつ「リア充」と名乗りながら他人を見下している痛いオタク。オタクであることも本人は否定しているが、実際は某深夜アニメの解釈に一家言あるくらいにはオタクである。
好奇心から「ニュージェネ再来事件」の捜査を新聞部として行っていた。しかし、その第三の事件に巻き込まれてしまったことをきっかけとして、彼とその周辺の運命は大きく歪んでゆく。
渋谷の震災で両親を亡くしており乃々と共に児童養護施設「青葉寮」で暮らしていたが、乃々との喧嘩をきっかけに青葉寮を飛び出して現在は宮下公園に置かれたトレーラーハウスで1人ホームレス暮らしをしている。
前作主人公・西條拓巳と比べると最終的な好感度はかなり高くなるように感じる。
彼を科学アドベンチャーシリーズの主人公、ひいてはシリーズの登場人物の中でも一番好きなキャラとして名前をあげるファンも少なからず存在する。その真髄は、ぜひ本編を走り切って確かめて欲しい。
実は彼の名前には秘密が隠されており…
尾上世莉架(CV.上坂すみれ)
本作のメインヒロイン。
碧朋学園高等部2年生。新聞部部員。
拓留の一つ下の幼馴染。
若干アホの子が入った明るく天真爛漫な性格の少女。痛々しい言動の多い拓留の数少ない理解者でもあり、また震災の被災を乗り越えた事にも起因すると思われる芯の強い一面もある。
新聞部でもフットワークは軽く、情報収集においてその本領を発揮している。
あまりにもネタバレが多いため語れることは少ないが、様々な方向に深いキャラクター性により人気は非常に高い。
そのルートは全てを乗り越えた最後に解放される。
来栖乃々(CV.ブリドカットセーラ恵美)
碧朋学園高等部3年生で、同校の生徒会長と新聞部副部長を兼任している。
拓留と共に児童養護施設・青葉寮で育った少女。拓留とは同い年の義姉弟にあたる。
学校では生徒会長としてリーダーシップを発揮し教員にも臆せず交渉を行う姿勢から「女帝」として生徒から畏敬されている一方で、自分の家である青葉寮では長姉として家事全般をこなしながら共に暮らしている弟・妹たちの世話を見ている一面もある。
猟奇殺人の取材をする拓留の身をいたく心配しており危険な取材をやめるよう事あるごとに言っているが、他ならぬ自分が拓留の家出の原因を舌禍で作ってしまった張本人でもあるため、その事にも強い負い目を感じている。
本作における私の最推しヒロインであり、私が人生で初めてガチ恋と例えられるほどの想いを捧げたヒロインでもある。
一見完璧超人にも見える彼女の完璧とは言えないとある一面にクラっときたことも一因だが、そのような単純な動機に限らず、非常に複雑な多く大きな動機で彼女を想うに至った。
そこには、1周目終了後に攻略可能となる個別ルートの中でも最後の攻略が推奨されている彼女のルートの重大なネタバレも含まれる。是非、本編でその魅力を味わって欲しい。
P.S.
同い年の義姉が出る作品をご教示いただけると嬉しいです…
有村雛絵(CV.三森すずこ)
碧朋学園高等部2年生。文芸部部長。
社交的で流行にも敏感なイマドキの女子高生。
その社交性の高さは気がつけばほぼ面識のなかった新聞部の面々、特にコミュ障の拓留ともすぐに打ち解けるほど。
一方でその本性は非常に繊細な性格。「嘘」をつく行為を自他関係なく過剰なまでに嫌い、怖がっている一面がある。
個別ルートは本作にある中でも意外と比較的王道寄り…かと思いきや、なんとグッドエンド・バッドエンド両方で衝撃のラストを迎える。
個人的には、グッドエンドの前にバッドエンドを踏んでみて欲しい。ラストを見て「えっ…えっ?」という反応が出てくること請け合いである。
なおファンディスクの彼女のルートでは、そんな本編の内容をなぞりながらも真に王道なラブストーリーが展開される。
特に、彼女のとある特性を最大限に活かしたハイセンスで素敵なクライマックスの告白シーンは必見。こればっかりはアニメでも見たい。
香月華(CV.仲谷明香)
碧朋学園1年生。新聞部部員で、メンバー唯一の1年生。
どういうわけか言葉を全く発さず、発声する時は「ん…」など言葉にならない声ばかり。コミュニケーションを取る場合は身振り手振りかネトゲのチャットなどが必須。
普段は部室のデスクトップPCでネトゲを遊んでおり、台パン代わりの壁ドンを頻繁にやっている。
作中ヒロイン1番の巨乳。
登場人物としての立ち位置が特殊で、その素性は個別ルートに入ってからでないと判明しない。
その個別ルートは本作で最も気を衒っているような内容である一方、真の黒幕の正体が初めて判明すると同時に、その黒幕を倒せる唯一のシナリオでもある。
以下筆者の個人的な逆恨みだが、ファンディスクでエンディングが1通りしか用意されないなど何となく不人気ヒロインっぽいのが透けて見えて辛い。アイドル上がりの担当声優がそんなに気に食わないってか余談だが「香月」は九州中心に実在する苗字だが、「つ」は濁らないことがほとんどらしい。
久野里澪(CV.種田梨沙)
17歳(高校3年生相当)。碧朋学園の制服を着ているが普段学園には滅多に登校していない。
拓留を超える長身(175cm)の美少女。
飛び級でハイスクールに入学し、17歳にしてヴィクトル・コンドリア大学精神生理学研究所に招かれ量子脳論特別研究員となった天才。
「ニュージェネ再来事件」に際して警察の捜査に協力している。
誰に対しても高圧的な態度を崩さない一方子供が好きな一面もあり、FDではショタコンの気がある一面すら見せる。以前は子供嫌いだったらしいのだが…
種田梨沙の病気療養に伴い、アニメ版以降担当声優が真田アサミに変更されている。
「シュタゲ」の登場人物であり牧瀬紅莉栖と友人であり橋田至とも面識があるなど、シリーズクロスオーバーにかかる人物相関が多い。
彼女を主人公とするスピンオフ漫画が存在し、またファンディスクのサイドストーリーでも主人公を務めるなど作品を通して「もう1人の主人公」という意味合いも持っているヒロイン。
山添うき(CV.水瀬いのり)
中学2年生。しかし年齢不相応の低身長など幼い外見をしている。
とある劣悪な環境下で暮らしていたが、物語中盤より拓留と乃々の暮らす青葉寮へ身を寄せる。
家事全般が得意で乃々からは可愛がられている。一方最近の機械類(スマートフォンなど)にひどく疎い。
ルート突入がメチャクチャ難しい。攻略サイト使用推奨。
そしてルート突入後の分岐も多く、トゥルー解放に必要な正エンドに加えて複数のバッドエンド、そしてアナザーエンドが含まれているなど攻略難度は本作随一。
一方でそれら全てひっくるめて非常に示唆に富むシナリオであり、ファン有志の間でも考察が盛んなルートになっている。
FDにはルートが存在しない。ここも何か意味が…?
伊藤真二(CV.藤原祐規)
碧朋学園高等部3年生。新聞部部員。
本作の友人ポジション。
陰キャでコミュ障の拓留が打ち解けている数少ない同性の友人で、猟奇的事件のルポなどを好むが基本的に善人。リア充を自称する拓留のことはよくからかっている一方それは信頼の裏返しであり、彼が主導する新聞部の取材にも積極的に協力している。
本編で主人公やヒロインたちに負けず劣らずどころか、最も不憫な目に遭うとも称されているキャラ。
公式でも拓留とのBLネタが頻繁に取り沙汰されているが、実際はBL趣味のあるファンからは本編の2人の境遇や関係性も相まってかなり高い人気を誇っている。
ツナサンドとハムサンドを間違えてはいけない(戒め)
おわりに
単なる鬱シナリオというだけに留まらずリタイアを考えるようなショッキングな展開を多く抱えた本作であるが、その先、いや本編全体を通して、どんな作品にも替えられない唯一無二の究極の体験が貴方を待っている。セールも定期的に行われているので、興味を持ったら是非調べてみて欲しい。
そして、事実上のシリーズ前作「CHAOS;HEAD」のプレイ体験と本作の後日談小説「Children's Revive」を以て、本作はより一層美しい「完成」を見ることになる。是非、予算と時間の許す限りそちらにも触れて欲しい。
(文責:ウオハゲ)
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