夏の星座~さそり座の神話~
蒸し暑い夏がやってきました。20時頃の南の宙、少し低いところを見ると赤く輝く星が輝いています。その星の名前はアンタレス。さそり座の一等星です。さそり座は夏を代表する星のひとつです。今回はさそり座にまつわる神話やお話を2つ紹介します。
鬼婆に気を付けて
日本の瀬戸内海地域に伝わるお話です。少し残酷なので苦手な人は次の写真までスクロールして文章を飛ばしてくださいね。
とあるところに、母と3兄弟(兄と妹、末っ子の赤ちゃん)の家族が暮らしていました。ある日、母親が家を留守にすることになりました。
「お母さんの留守中に誰か訪ねてきても絶対に出てはいけないよ。悪い鬼婆が襲ってくるからね。」
そう伝えて母親が家を出て間もなくすると、家の戸を叩く音が聞こえてきました。
「やあ、お母さんだよ。戸を開けておくれ。」
妙に枯れた声だったため、怪しく感じた兄と妹はこう言います。
「本当のお母さんなら、そこの隙間から手を見せておくれ」
すると隙間から手が出てきました。しかしその手は真っ黒の毛むくじゃら!兄弟は本当のお母さんではなく鬼婆だと確信し、思わずこう言い返します。
「お前は鬼婆だ!本当のお母さんの手は白くて綺麗なんだ!」
しばらくすると、また戸を叩く音が聞こえました。
「お母さんだよ。戸を開けておくれ。」
「お前の手を見せてみろ!」
再び差し出された手は、白くて綺麗な手でした。兄と妹は本当のお母さんが帰ってきたと思い、家の戸を開けてしまいます。
戸を開けた瞬間、外からすごい勢いで鬼婆が家の中に入ってきて、中にいた赤ちゃんをバリバリと食べはじめたのです。
鬼婆は自分の手にイモの皮を巻き、白粉をはたいて美しい手に仕上げて兄弟を騙したのです。
兄と妹は「助けて!」と叫びながら外に逃げ出します。鬼婆は、2人を襲おうと探し追いかけます。
2人は必死で逃げて桃の木の上に昇り隠れます。しかし、鬼婆に見つかってしまいます。兄妹は手を合わせて祈ります。
「お天道様、どうか私たちをお助けください!」
すると、天から鎖が1本降りてきました。2人はそれにしがみつくと、鎖がするすると宙に昇っていきます。やがて2人は星空に到着し、さそり座の先で輝く2つの星になりました。
地上に残された鬼婆は、兄妹を真似て
「お天道様、どうか助けてください!」
と叫びます。すると、天からボロボロの縄が降りてきました。
鬼婆は縄にしがみつきましたが、宙に向かっている途中で縄が切れてしまいました。鬼婆は地上に落ちて死んでしまいました。
お天道様はさそり座から糸を垂らし、兄妹を救ったのです。
そして、鬼婆が落ちて死んだ場所はそば畑でした。そばの茎が赤いのは、この時の鬼婆の血が付いてしまったためと言われています。
ニュージーランドを釣った!?
ポリネシア神話に出てくる英雄マウイとさそり座にまつわるお話です。
南太平洋にあるポリネシアに百歳を超えた老婆が住んでいました。お婆さんには孫が3人いて、孫たちは当番でお婆さんへ食事を届けていました。
しかし、「とうせ先が長くないのだから、ご飯を与えるだけもったいない」と長男と次男は食事を届けるのを辞めてしまいます。末っ子のマウイだけは食事を届けるのを辞めずにお婆さんの世話を続けました。お婆さんはマウイの優しさに涙を流し、こうマウイに伝えます。
「私が死んだときは、あごの骨を取って釣り針にしてくれ。魔法の釣り針になるよ。」
ほどなくしてお婆さんは亡くなってしまいます。マウイは泣きながらも言いつけを守ってお婆さんのあごの骨を使って釣り針を作ります。
魔法の釣り針を持って兄たちと船に乗って海へ釣りに出掛けたマウイ。釣り針を海に放り込むと、ものすごい手ごたえです!兄たちも手伝い大物を狙います。釣り竿だけではダメだと思ったマウイは、一旦陸へ縄を取りに泳いで戻ることにし、その間は兄2人に釣り竿を託します。
縄を持って、海に戻ってきたマウイは兄たちがいないことに気付きます。残念ながら、兄2人は獲物に引っ張りまわされ海に投げ出されて死んでしまったのです。
マウイは自分は死ぬまいと獲物に縄をかけ釣り上げると、なんとそれは魚ではなく大きな島、今のニュージーランドだったのです。
魔法の釣り針は、ニュージーランドを釣り上げた勢いで宙に引っかかってしまい、それは今のさそり座だと言われています。
さそり座のお話を2つ紹介しました。どちらもさそり座の星の並びから見えてくる形を上手に活かしたお話です。
さそり座のS字の曲線がとても特徴的。夏の夜に宙低いところで輝く赤い星を見つけたら、S字に星を結べないか探して見てください。きっと暗闇にさそりが潜んでいますよ。
※神話には諸説あります。