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ウソでも良いんだよ!
皆さんは 今までに 何かの面接試験を受けた
ことはあるでしょうか?
聞いた話ですが ある面接で こんな質問を
された人がいるそうです
「 貴方はウソをついた経験はありますか?
もしあれば それは どの様な内容でしたか?」
面接ですから 間髪を入れず 即座に答える
必要がありますが 常識的に考えて ウソを
ついたことが無いという答えは あり得ない
でしょうね
… だとすると 面接官に そのウソをついた
理由を説明しなければいけません
さて 皆さんなら どんな内容のウソをついた
と 答えるでしょうか?
今回は 僕が社会人になったばかりの頃
上司から「ウソ」にまつわる指導を受けた時の
お話です どうか聞いて頂けないでしょうか?
◆ ◆ ◆
僕は大学を卒業して 家電製造メーカーA社に
就職し 新人研修を終えてから B部C課に
配属されたのです
ところが そのB部C課の 鬼塚課長(仮名)は
アクが強いというか 強烈な個性の持ち主として
社内でも とても有名な人物だったのです
まず 特筆すべきは そのルックスです! 体型
こそ ホッソリしていましたが その顔立ちは
いわゆる強面で 得意先や友人らと年がら年中
ゴルフに興じていたため … 健康的な日焼けを
通り越し いつもムダに黒光りをしていました
また人一倍短気である上に 怒った時の迫力が
並外れて 凄まじかったことから 決して怒ら
せてはいけない人物として 社内でも 一目置
かれた有名人だったのです
C課に配属された新人は 僕一人だけでした
先輩達から「 君は気の毒だな 貧乏くじを
引いたんだよ!」とか … 「 君が1年持つか
どうか みんなで賭けてるよ!」とか … 「あの
課長はインテリ8〇3だから 機嫌を損ねたら
すぐ左遷されるぞ!」などと よく揶揄われた
ものです
当時といえば タバコは吸うのが当たり前の
時代でした 鬼塚 課長も もちろん喫煙者
で いわゆるチェーン・スモーカーだった
ので 外国製のタバコ … 俗にいう「洋モク」
を仕事中でも 四六時中咥えていました
僕は喫煙しなかったので 課長のタバコの
銘柄までは覚えてませんが 紙巻きタバコの
巻紙の色が 黒くて お洒落だったことだけ
よく覚えています
もっとも 他の社員に言わせれば バー で女性に
もてたい一心で それを吸っていただけ … と
みな 口を揃えて 陰口を叩いていました
ニヒルでダンディな鬼塚課長にとって タバコ
は重要なお洒落アイテムだった訳です
そんな ある日 こんなことがありました
鬼塚 課長は出社して来るなり 自分の机の
固定電話のダイヤルを回して 外線電話を
掛け始めたのです
もちろんプライベートな用事で 外線電話を
掛けることは禁止されていましたが 会社の
ルールを破ってまで電話した先は 鬼塚課長
が 背広を誂えた 老舗の呉服屋でした
鬼塚 課長 は電話で … 「あっ 鬼塚だけどね
昨日 お宅で誂えた背広を持ち帰って確認したら
裏地の柄が 私の指定した柄と違ってたんだよ!
やり直してもらいたいんだ! 責任者はいる
かな? 」
課長は 家から着て来た おニューの背広姿の
ままで事務所に現れると 裏地の柄を自分で
何度も確かめながら 大声でクレームを言い
始めたのでした
課長は 相当 頭に血が上っていたらしく 部下
達の視線など お構い無しに 延々20分間も
電話を切らなかったのです!
周囲の従業員は みな無関心を装いながらも
聞き耳を立てていましたが 最終的に 只で
作り直してもらう手筈を整えたらしく その
後は ご機嫌な課長に戻ったのでした
当時は まだ 個人用PCは ありませんでした
週末になると 一週間分の成果を 手書きで
週報にまとめて 課長へ提出するのが 会社の
ルールとなっていました
これ余談なんですが … 実は 鬼塚課長の
お父様は文筆家で 課長自身も 学生時代に
作家を志したことがあったらしいのです
しかし … 途中で方向転換を余儀なくされ
畑違いの技術屋になったのだとか
確かに文筆家の血を引くだけあって 課長が
筆を入れた文章は どれをとってもムダな
文言など一切なくて簡潔明瞭に仕上がって
いると 誰もが認めていたのでした
当然ですが まともに文章など書いたことも
なかった僕の週報は いつも赤ペンで真っ赤
に修正されて 戻ってくるのでした
そんなある日 …
鬼塚 課長は 例の恐ろしい形相で 僕の席
までやってきて 渋い声で こう告げました
「○○君(僕の名) ちょっと 来てくれ!」
その声を聞いた先輩達は みな憐れむ様な
眼差しで 僕を見送ることしか出来ません
おそるおそる 課長の机の前に立った私に
課長は 大きな声 でこう切り出しました
「きみの週報を読んだけどね …
これは 一体 なんだね!」
課長は 僕の週報を 机の上にポンと置くと
例の真っ黒な 洋モク に特別仕様のジッポ
で火を点けました
そして 自分の椅子に 浅く腰を掛けると
ふんぞり返るような姿勢で 両腕を組み …
ゆっくり 足を組みながら 僕をギロッと
睨むようにして 見上げたのです!
「出来なかったことと 失敗したこと を
羅列してるだけだ! こんな週報を読んで
一体 誰が 喜ぶんだね? きみ!」
鬼塚 課長が部下を叱る時は 相手の名前の
代わりに「きみ!」を連呼する癖があった
のです
「 週報ってのはね 只の記録だと思ったら
大間違いなんだよ!
今後の君自身の行動に対する意思表示
言い換えれば 意気込みを書くんだよ!」
課長 の大きな声は 説教の頂点に向かうほど
益々 大きくなりました
「 今後 自分がどうしたいのか! それを
徹底的に 考えて … 考えて … 考えて …
発展的な文章にするんだ!
分かるかね? きみ!」
そして鬼塚 課長は最後に こう締めくくった
のです
「ウソでも良いんだよ!」
僕はこれを聞いて …
思わず コケそうに なりました!
幾ら何でも「ウソはダメだろう!」とは思い
ましたが…
ここで 鬼塚 課長が言う「ウソ」というのは
単なる普通の「ウソ」では なかったんです!
つまり
大風呂敷とか ハッタリ とかではなく
今後 実行すれば 確実に成果に繋がりそうな
そんな まことしやかなウソを書いて
課長の この私を 喜ばせてくれ!
… と言いたかったのです
ただ 最近の僕ときたら … あの日 課長から
ご指導 頂いた 発展的な ウソ には
ほど遠い … 詰まらぬ「ウソ」のために
四苦八苦している状態です
大人になったと言えば
少しは 聞こえが良いですが…
まだまだ修行が足りません
鬼塚 課長!
僕は 初心に帰って またあの頃みたいに
発展的なウソを つける様に頑張りますよ!
そう 自分で納得できる 発展的なウソ を …
そして …
「少しは成長したな、きみも!」
… と褒めて頂ける様に 頑張りますよ!
見ていてください! 鬼塚 課長!
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