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運命は あるのか? 【ショートショート】

龍二りゅうじ はベットの上で目を覚ました

部屋の空気は わずかに消毒薬みたいな臭いがして
身体には 何本もの コードが貼り付いていた

「ここって … 病院?」

その時  今まで座っていた女性が  驚いたような
表情で
立ち上がり  龍二の顔を覗き込んだ

「ねぇ 気がついたの? 私 … 誰だか分かる?

「あぁ … もしかしたら 愛する奥さんかな? 」

「良かった~!   あっ  ちょっと待って!
 看護師さんに知らせるから!」

そんな言葉を聞きながら 龍二は … 自分が
病院にいる理由を 思い出そうとしていた


   ※     ※     ※


龍二は 毎朝6時に 家を出て  近所の公園まで
散歩するのが 日課だった

公園には 20分で到着したが   そこへ行くには
一ヶ所だけ「横断歩道」を 渡る必要があった

横断歩道のそばには   歩行者専用の「ボタン」が
あり   それを押すと 車道の「青」信号が  直ぐ
「黄色」から「赤」に変わった!



そのかん  わずか3秒しか掛からなかったので
歩行者にとっては   有りがたい「ボタン」だった

しかし  龍二が  その「ボタン」を押す様になると
いつも … ある言葉が  頭に浮かぶようになった!


その ある言葉とは …

彼が 横断歩道の側で  その「ボタン」を押すと
車道の車は  否応いやおうなく 停まることになる!

運転手にしてみれば … どこの誰かも分からぬ
奴に 突然  車を停めさせられることになる


これは 結局  龍二 が 運転手の「運命」を
変えてしまったとは  言えないだろうか?


もし それが正しいとすれば   運転手は運命を
変えられたことで … 更に問題は複雑になる

実は この車道の「赤」信号は 最長で45秒間も
そのまま 変わらないのだ!

つまり 龍二が「ボタン」を押したために
運転手は 最長 45秒間も  目的地への到着が
遅れることになる!

しかし 誰だって 朝は忙しい!
わずかな時間でも バカにはできない!


なぜなら …


出勤時刻に遅れて 給料を減らされる人が
いるかも知れない

新幹線に乗り遅れて  商談を逃してしまう
人がいるかも知れない

試験が受けられず 単位を取り損ねて 留年
せざるを得ない人がいるかも知れない


そんな運転手の皆さんに 「お前のせいで
大損だ! どうしてくれるんだよ?」とは
言われたくない …


そこで 龍二 は考えた …

右でも  左でも  どの車道からも 車が
近づいて来ないタイミングを見計らって
「ボタン」を押すことにしよう!

これなら誰にも迷惑は掛からない

そして 押したあと直ぐに「ボタン」から
3メートル離れた位置に 移動すれば … 
自分が「ボタン」を押した犯人だと
疑われることもない


そして  運命の今朝を迎えてしまった

隆二は いつもの様に  あの横断歩道で
車の流れが途切れるのを待っていた

やがて道路のどちらにも 車が居なく
なったので …  例の「ボタン」をそっと
押して  3メートル離れた場所に移動した

直ぐに 車道の信号は「赤」になり … 同時に
歩行者信号が「青」になった

龍二はゆっくり 横断歩道を渡り始めたが
遠くの方から … 車のエンジン音が聞こえて
きた!

何気なく そちらを見ると … 一台の軽トラが
かなりのスピードで 走って来る

車道の信号は「赤」なので   軽トラも きっと
止るに違いないと思いつつ  龍二は 横断歩道
を歩いていたのだが …

全く 速度を落とさない軽トラは  猛スピードで
彼に向かって来た!

龍二が咄嗟とっさに  運転手に目をやると  その男は …
ダッシュボードに固定した  スマホを見ながら
運転していたのだ!

龍二は … 
「おい  前を見ろ! 赤だぞ!  おーい!」
 … 叫んだけれど  無駄だった


龍二は 軽トラに跳ね飛ばされて  回転しながら
歩道に 嫌という程  叩きつけられた!

そして 意識を失ってしまった

救急車で 病院に担ぎ込まれた 龍二は  全身に
打撲を負ったが  命に別条はなくて  病室で
意識を取り戻した




龍二は  あの「ボタン」を押すことで

運転手ではなく  自分の“運命”を

変えてしまったのだ!

















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