残酷な紙一重 11節 マドリーvsバルサ 2024.10.26
クラシコは世界のサッカーの潮流を知る試合であった。今やその役割はマンチェスターシティとリバプールに移行しているのかもしれないがジュード・ベリンガムが、キリアン・エンバペが。そしてハンジ・フリックが再興するバルセロナたるサッカーが我々の心を揺り動かし、そして掴んで離さない。
この戦いは勝ち点3を賭けた戦いに留まらず世界の中心が我がクラブである事を示す偉大なる戦い。勝者のみが"今"を語る事が許される容赦無き戦いである。
今季最初のクラシコ。フリック監督が就任したバルサが絶好調で良い試合が期待される。一方のマドリーもまだラリーガ無敗。勝ち点差3で迎える直接対決となった。
●スタメン
・マドリー
ルニン
バスケス / ミリトン / リュディガー / メンディ
チュアメニ / カマヴィンガ / バルベルデ / ベリンガム
ヴィニシウス / エンバペ
カルバハルとクルトワ、そしてロドリゴが欠場。ブラヒム・ディアスが戻ってきている。エンバペがクラシコ初出場。
・バルサ
ペーニャ
クンデ / クバルシ / イニゴ・マルティネス / バルデ
カサド / ペドリ / フェルミン
ハフィーニャ / ヤマル / レヴァンドフスキ
テアシュテーゲンとエリック・ガルシアがいないがガビも含めてあとは大体戻ってきた。フェラン・トーレスもいない。マルク・カサドは初のクラシコとなる。
●前半
マドリーの設定は前プレ守備と2トップが相手最終ラインの背後を狙う攻撃。
このメンバーの最大の欠点は2トップの守備貢献があまりにも少ない事だったが流石にクラシコとなるとやる気があるのと、そもそもバルサは明確なボール保持の形を持っているチームなのでマドリーの2トップの仕事は設定しやすい。SBに渡すボールの方向を追い込みつつCH(ペドリ&カサド)に入れるボールを警戒すればあとはレヴァンドフスキを狙うキックを抑えれば大体どうにかなる。サリーが入って追いかけ方を変える必要などはないのでエンバペも真面目に守備を行った。バルサの構築の選択肢は後ほど。
ボールを奪うとバルサの再奪回を外しながら2トップが背後を狙う。バルサの最終ラインの設定があまりにも高い上、ボールの出所の抑え方も怪しかったのでマドリーは希望通りの展開になった。2分にはカマヴィンガからエンバペ、12分にもミリトンが自陣PA内からロングボールを飛ばしクバルシが一人でヴィニシウスとエンバペの相手をする環境を作った。14分にも再度カマヴィンガからエンバペ。どれもこれもオフサイドだったがバルサはいくらなんでもやられ過ぎで、勇敢というか無頓着なだけに見えてしまう。
バルサは当然マドリーの最終ラインからの配球を阻害し、ショートカウンターを繰り出して敵陣で試合をするためにも前プレを敢行。しかしもうマドリーはある程度ハマってもいいのでルニンから両SBへの回避を多用した。このためにベリンガムとカマヴィンガをSHに置いたのではないかと想像する。特にカマヴィンガは無敵の回避力だった。
これで最低でもハーフウェーライン付近からのスローインを得る事でプレスにハマる機会は無くなっていった。あとは最終ラインの背後に蹴っ飛ばせばいい。
23分にはカマヴィンガのプレス回避からヴィニシウスに決定機。さらに30分にミリトンのロングボールからバスケス→エンバペで決定機。このどちらかが決まっていれば全く違う試合になっていたというくらい、バルサはマドリーの攻撃に対してノーガードだった。
対するアウェーのバルサはマドリーのプレスを外す選択肢を2つ。最大のストロングであるCHのコントロール、あとはクバルシから中盤を省略した配球でチャンスを作った。バルサの構築はペドリとカサド、レヴァンドフスキとハフィーニャで作る4角形が基本。
CHの前向きでマドリーの中盤ラインをロックし、レヴァンドフスキとハフィーニャは手前と奥を同時に取りに行く。その動きに合わせてライン間を徘徊するフェルミン・ロペスがレヴァンドフスキ&ハフィーニャとトライアングルを作ってレイオフ受けを狙う。左大外ではバルデが大外レーンを独占してSBの背後を狙うかアーリークロスを準備。右ではヤマルが対面するメンディと1vs1を作って待つ。この選手はボールの循環からやや離れて単独でプレーする機会を作る事が重要。クンデはヤマルを内外からサポートすると同時にヤマルにボールを渡す形をもう一つ作るイメージでポジション。
もう一つはマドリーのプレスにハマりかけた時にクバルシの配球力を使って展開を変える形。
クバルシはボールに向かってアクションするレヴァンドフキ目掛けて速いボールを蹴り込む。これを平然と収められるレヴァンドフスキの能力があってこその戦術だが、フェルミンがこのボールのレイオフを受けようとレヴァンドフスキに近づくのでリュディガーはファールでもいいのでなるべくここで止めたい。レヴァンドフスキがスルーする、あるいはシンプルにボールに触れないと抜けた先にハフィーニャが猛然と走り込んでいて簡単にGKと1vs1を作る。
ダイレクトフリック、あるいはフェルミンへのレイオフを使うとヤマルがマークを振り切ってハフィーニャと同時にスタートを切っており、ほぼ止める事が不可能な擬似カウンターが決まる。このパターンの正しい解決策はまだ開発されておらずこの前半にもヤマルが一発抜け出してチャンスを作った。
●前半終了
前半を振り返るとバルサは割りに合わないリスクを犯していたように見える。自陣に引き込んで守るとまでは言わないまでも現実的に見てハイラインを維持して試合を進める事にメリットがあるようにはとても見えなかった。そもそもクバルシとイニゴ・マルティネスはスピードがない。あまりにも無抵抗に見えた。それでも無失点で切り抜けた45分はマドリー側のチョンボだ。ただし、ハンジ・フリックがやろうとしているのはチームの哲学の構築であり、どんな相手であっても貫く意思を持ったスタイルは前任者が一切提示する事ができなかったものであり、この45分だけを見ても圧倒的に今シーズンのバルサのやり方を全世界に示したと言える。
ホームのマドリーはロドリゴ不在を最大化する配置を準備。ベリンガムは2トップと呼応しながら守備ではバルデのドリブル突破を止めてプレス回避でも存在感を発揮した。もはやパーフェクトなフットボーラーである。
エンバペはマドリー移籍後の試合の中ではかなり状態が良く味方からもパスが出てきたが前半だけで6回のオフサイドに引っかかった。彼は相手の最終ラインと駆け引きをする仕事を刷り込まれ過ぎている感がある。もっとライン間を浮遊しながら走り出せばスピードで突破できるし、この試合は関係ないが引いた相手を崩す試合では足下でボールを受けるアクションを併用するために2列目の背中からスタートする形も多用すべきである。この辺はアンチェロッティがあまり指導するイメージはない。
●後半
バルサはフェルミン・ロペスに替えて復帰したフレンキー・デヨングが出てくる。
フレンキーがCHに入り、ペドリが一列高い位置に移動した。フレンキーの強度と技術であらためてバルサがボール保持を主張。得点を取る方向にチームを動かしたのはバルサの方。結果は54分に出る。
ボールホルダーがドリブルで一列持ち上がる動きにマドリー最終ラインは足並みが揃わなかった。特にメンディはヤマルを同一視野に入れるためにステイ。レヴァンドフスキの裏抜けを許した。完璧なタイミングでラストパスを通したのはカサド。21歳は衝撃のクラシコデビューとなった。
直後の56分には中盤3枚でプレス回避。フレンキーから左大外のバルデにボールが渡ると前半から狙っていたアーリークロスをレヴァンドフスキにドンピシャで合わせた。これは試行回数の勝利。一気に試合を動かして2つの決定機をどちらも得点に繋げたのは今のバルサの状態の良さと勢いが反映されている。
ビハインドになると選択肢が極端に減ってしまうのはマドリーの現状である。当然打開するために64分にモドリッチを投入する。直後にヴィニシウスからエンバペへの綺麗なアウトサイドスルーパスで決定機を迎えたがイニャキ・ペーニャが大仕事。共にレギュラーのいないGKだがこのプレーで勝敗は決した。
バルサはイエローカードをもらったカサドを下げる盤石の交代。ダニ・オルモを入れてペドリが中盤に戻った。フリックのゲームプランの一貫性とわかりやすさが表現された交代である。オルモはそもそも前プレが上手いので守備強度も補完できる。無駄がなく間違いを起こさせない。スコアが動いた事実に忠実。リードできなかった時の動きがあまり用意されているように見えなかったのでそれを引き出してほしかった気持ちは残る。
レヴァンドフスキがその後チャンスを2つほど外してくれている間に70分にモドリッチのFKにベリンガムがフリーで合わせる機会があったがこれも決まらず。ついでに直後のチャンスをまたエンバペも決めきれず、マドリーは再三のチャンスを不意にして試合を継続できなかった。
あとは77分にヤマルにクラシコ最年少ゴールが生まれ、84分には絶好調男ハフィーニャに仕上げの一撃を頂戴して試合終了。アウェーのバルサが4-0の勝利となった。
ヤマルのゴールに至るイニャキ・ペーニャのキックはまさに前半にバルサが狙っていたクバルシからの配球そのもの。
●試合結果
4-0。首位バルサがマドリーとの勝ち点差を6に広げる勝利となった。
スコアボードは時に実力差を反映しないが、この試合は特に残酷だった。バルサの構築には十分な説得力があり、特にラストサード、PA内のクオリティは突出した。レヴァンドフスキは得点ランキングを独走する。ヤマルとハフィーニャは共に替えが効かない存在感を出して後方からの豊富なサポートとアイディアは大量得点を当然のものに仕立て上げる。
それでも、特に前半の守備設定は明らかにマドリーに相対するに相応しいものではなかった。スコアが逆でも特に驚きはない。それだけマドリーのヴィニシウスとエンバペのスピードとそこに出てくるボールは一直線にゴールに向かっていた。ただし、後半に重要な場面をイニャキ・ペーニャが止めた事も事実。勝利に値する戦いができたのはバルサの方だった。
マドリーは2トップなのか3トップなのかと話題になる中、この日はCHを4枚並べた4-4-2。ロドリゴの不在は却って前半の狙いを明確にさせた。2トップが奥を取るパターンは効率が良く、結果的に1点も入っていないが明らかに効果的であった。ベリンガムのクオリティはバルサのプレスを出し抜き、試合を決める可能性を示した。
シュートが入らなかった事について特に申し上げる事はないが、やはり今のマドリーには先季のような柔軟な方向転換が存在しない。スコアを追いかける事になって、出てくる選択肢が"前がかりになる"しかないのはマドリーらしくなく、その要因がクロースやホセルの不在に求められてしまうのが今の現状である。あるいはカルバハルやクルトワの不在が、ピッチ上の解決力を弱めたように見える。クオリティが不足した実感は自分達が一番強く持っているはずで、この試合が間違いなく今季のマドリーのターニングポイントとなるだろう。
10/26
サンティアゴ・ベルナベウ
マドリー 0-4 バルサ
得点者
【バルサ】'54 '56 レヴァンドフスキ '77 ヤマル '84 ハフィーニャ
●ピックアップ選手
キリアン・エンバペ(マドリー)
クラシコデビュー戦で試合を決め得るクオリティは見せたが彼の日ではなかった。点が取れなければ批判される立場にある。
エドゥアルド・カマヴィンガ(マドリー)
プレス回避と方向転換、クンデ周辺を止める守備対応は完璧。決定的なラストパスを送り込み、ヒーローになるチャンスもあった。
エデル・ミリトン(マドリー)
強い責任感を感じるプレーが多く、トップコンディションに戻っている実感がある。先制点のシーンは判断を誤り、終盤は集中が切れた。
ロベルト・レヴァンドフスキ(バルサ)
ビルドアップを完成させるポストプレーと、ハフィーニャとの役割分担。最後の仕事の精度はどれもエースに相応しい。2ゴールで試合を決めた。
マルク・カサド(バルサ)
衝撃のクラシコデビュー。ボール保持とコントロール以外にも守備局面で能力を発揮し、ヴィニシウスのトランジションに挑んでいった。先制ゴールを生んだスルーパスは見事。
フレンキー・デヨング(バルサ)
後半から投入されて中盤のコントロールに一役買った。保持の時間を延ばした事で先制点に繋がる布石を作った。