合理主義を結果に【EURO2024 グループB1節】スペインvsクロアチア 2024.6.15
EURO2024始まりました。グループB、スペイン代表の初戦をレビューする。デラフエンテ体制のこれまでの戦いはこちら
スペイン代表の対戦相手はクロアチア、アルバニア、イタリア。興味深いグループに入った。
●スタメン
・スペイン
ウナイ・シモン
カルバハル / ル・ノルマン / ナチョ / ククレジャ
ロドリ / ペドリ / ファビアン・ルイス
ヤマル / ニコ・ウィリアムズ / モラタ
左SBはククレジャ。それ以外は想定通り。
中盤はペドリとファビアン・ルイスになった。
・クロアチア
リヴァコビッチ
スタニシッチ / シュタロ / ポングラチッチ / グヴァルディオル
ブロゾビッチ / モドリッチ / コバチッチ
マイェル / クラマリッチ / ブディミル
いつの間にか最終ラインがそこはかとなく若返っているクロアチア。マイェルが右。トップポジションはオサスナのブディミル。
●前半
スペインの保持から試合開始。もはやこのメンバーだと配置や仕組みに関係なく当然のようにボールを持てる。それがスペイン。
・スペインの保持フェーズ
スペインは2CBの前にアンカーのロドリ。クロアチアはここにコバチッチが出てくる。ロドリの隣でも仕事ができるファビアン・ルイスはライン間に立つ形を選択。WGは相手SBを大外に連れていく初期ポジションから、右のヤマルは大外待ち、左のニコ・ウィリアムズは内側へのアクションを狙う形で準備。これをサポートする両SBの挙動も、右のカルバハルはロドリの横でビルドアップをサポートしながらボールの出し手となり、左のククレジャは長所であるランニングを活かして大外を駆け上がる狙いを持った。
特に左サイドは、このククレジャの駆け上がりにSHのマイェルが対応に落ちていくのでファビアン・ルイスが浮いてフリーになれる形を確認。ロドリ、カルバハルと共にパスの出し手になると同時に最前線のモラタがニコ・ウィリアムズの内に進む動きに呼応して背後を狙い、相手DFラインに難しい対応をさせる事ができていた。モラタはこのように誰かの力を借りて姑息に裏抜けするのが非常に上手い。この後の先制ゴールもそんな流れから生まれる。
・クロアチアの移動と変形
クロアチアがボールを持つと序盤のスペインはハイプレスを選択。
主にペドリが相手アンカーのブロゾビッチに張り付き、CBの選択肢を奪いながらGKまでボールを戻させてロングキックを誘い、空中戦でボール回収、を繰り返して10分過ぎまで一方的にボールを握る時間を作った。
展開を変えたのはクロアチアの3人のMFが加えた変化に依る。この3人、ブロゾビッチ、コバチッチ、モドリッチの3人は移動と相互補完でピッチを支配するのが本当に上手い。誰が欠けても駄目なよくわからないバランス感覚を持つ。ここで加えた変化はブロゾビッチの無制限移動とコバチッチのアンカー化。
ブロゾビッチは右方向に落ちていき、ペドリがどこまでついてくるのかを問う。当然ついてくれば空いたアンカーポジションを使うコバチッチがボールを受けて1stプレスを外す事が完了するので、基本的にペドリはコバチッチ付近に留まる判断になっていく。
ブロゾビッチは「では私がフリーです」となり始め、右後方から配球を開始する。SBスタニシッチを高い位置へ押し出す事でニコ・ウィリアムズがブロゾビッチの配球に制限を掛ける事を難しくさせ、スペインの守備ラインを押し込んでいった。ブロゾビッチの縦パスをスイッチにスタニシッチ、マイェル、モドリッチが関わって侵入開始。この右サイドのコンボに左WGからスタートしたクラマリッチまでセンターレーン、右ハーフスペースまで関与してくる形で攻略を狙った。ククレジャの気合いが求められる展開。
また、コバチッチのアンカー化に連動して加わった変化がもう一つ。グヴァルディオルの左大外レーンの独占が始まる。
クラマリッチが普通にいなくなるので、グヴァルディオルがビルドアップの逃げ道になりながら右サイド侵攻中は逆サイドでサイドチェンジを待つ役割となり、主に左サイドの攻撃を単独で担っていく。W杯の時は守備の凄い人という評価だった記憶だがマンチェスターシティでのSB起用を通じて出来る仕事がどんどん増えている印象。一つ右からのクロスに大外で合わせて決定機を作っている。
結局スペインはWGがどの位置で守備対応するのが効果的か判然としない状況となり、GKからロブパスがスタニシッチのところへ飛んで来始めて22分のスタニシッチのアーリークロスにブディミルが合わせたところまでがこの試合のフェーズ2。前半25分までのポゼッションはクロアチアが54%となった。
・トランジションとヤマル
とはいえスペインはスペインである。それでもボールを握ろうとするし、握れなければそこまでのチーム。ペドリが相手CBへ向かっていきロングボールを選択させる頻度を増やそうと画策する。カルバハルとククレジャの起用はこの局所戦のためであろう。
結果はすぐに出る。クロアチアのロングボールを最終ラインで回収し、アバウトなクリアをロドリがファビアン・ルイスに渡す。この試合初めての前向きフリーのポジティブトランジション。モラタへ裏一本を通してキャプテンが一発回答。29分にスペインが先制に成功する。
スピードに乗ったニコ・ウィリアムズの飛び出しをシュタロが気にしたところで内側のモラタがフリーになった。ファビアン・ルイスの配球はパーフェクト。ロングボールを確実に回収しロドリとファビアン・ルイスでトランジション。3トップが背後を狙うというのはこのチームが膠着した展開を打開する上で必須の武器。クロアチアとしては人数は足りていただけに悔いの残る失点に。
直後の32分にはヤマルの裏に蹴っ飛ばして16歳が一人で右サイド侵攻。ペドリの横パスを受けたファビアン・ルイスが3,4人を振り回して鮮やかに左足のフィニッシュ。クオリティで追加点を取り切ったのは非常に大きかった。
プレスに晒されても、どんな環境でも配置を動かして人数を掛ければボールを繋げるのは明確にクロアチアに長所でありつつ、撤退をそこまで嫌がらなかったのはスペインの準備を感じた。また、ライン間で前向きを作ってミドルシュートを打つ選手が100本蹴っても入らなそうなコバチッチとこの舞台では少し能力の劣るクラマリッチである事はスペインを安心させた要素であった。前半ロスタイムにショートコーナーからヤマルのピンポイントクロスにカルバハルが合わせて3点目。スペインは理想的な前半を終えた。
●前半終了
クロアチアの保持環境は合理的かつクロアチアらしさがあった。普段からこういうサッカーをしてこういう改善をしている事がよくわかる戦いは選手達も納得感があったように思う。スコアがあまりにも想定を反映できなかったが、後半の変化を見たい。
スペインはボールを持てない時間帯を利用して速い攻撃を発動させたのは見事。ロングボール回収と上下動を繰り返せるククレジャの起用は当たり、スピードに特徴のあるWGを起用した意味を早速示した。
●後半
選手交代なしで後半。球際バトルが始まったのとスペインのビルドアップがグダグダし始めた事をきっかけにクロアチアがチャンスを掴み、55分にはマイェルの決定機。ククレジャが身体を張ったリカバリーを見せた。
ここでクロアチアはブディミル→ペリシッチを交代。クラマリッチを頂点に動かして左WGにポイントを作る。放り込むなら真ん中はブディミルのままが良さそうな印象だったがそもそも電柱のニーズ自体が微妙なチームなのかもしれない。電柱には頼らない的な。
スペインはペドリ→ダニ・オルモを交代。代表では普段WG起用が多いダニ・オルモだがこの日はただの守備頑張るマンとして出てきたのは面白かった。その後メリーノ投入のタイミングで左WGに動く。65分にクロアチアはコバチッチ&モドリッチを交代。実質この試合の3ポイントは諦めて交代フェーズに入った。
ところでスペインはIHにファビアン・ルイスとメリーノが並び最前線をオヤルサバルにした時点でピッチをコンパクトにオーガナイズしようとしているはずだったが全くそういう環境にならず。むしろスペースを与えてクロアチアの侵入を許していったのはデラフエンテは不満だったはず。そんなこんなでル・ノルマンとシモンがグダグダしてPA内でボールロスト、ロドリがひっ倒してPK献上というスペインらしい時間を過ごす。スコア的にロドリがイエローをもらう必要があったのかは今後に響いてくる可能性を残したが、このPKをシモンが流石の反応で止めている。無駄なエンタメ。さらに無駄な事にロドリが怪我して交代していった。そこはかとない不安を残しつつ、3-0のまま試合を終えた。
●試合結果
ボールを持てど点が入らずで大会を去る事が多いスペイン代表としては理想的な3-0というスコアで初戦を終えた。
ポジティブだったのはスタメンの選択理由が明確であり、前半のうちに配置と狙いを作ってそれを得点に繋げた事。
まずは左SBで先発したククレジャが非常に良かった。グリマルドの予想が多かったと思うが初戦に起用されると縦挙動とロングボール対応で特徴を出した。無理が効くのが良さの選手だが、スペイン代表の中に入ると異質な特徴である。空中戦で仕事をしながらマイェル&モドリッチの侵攻の相手をやり、前プレフェーズではスタニシッチのところまでプレスに行ってロングボールを蹴らせるとまた最終ラインに戻って、というしんどい仕事を完遂。大会のキーマンになる可能性が出てきた。
同様に右も、ラストサードの解決でWGヤマルの質を押し付けるなら大外で仕事をするヘスス・ナバスの方が相性が良いが、多彩な仕事が出来て各所のサポートに顔を出せるカルバハルが良い仕事をした。得点も決めたので大成功。中央でファビアン・ルイスがパスの出し手となりつつ、ペドリに遅れてゴール前に顔を出すタスクはどちらも得点に繋がっており、この中盤の構成は積み重ねの結果が出た。ストライカーのモラタが初戦で得点出来た事も含め、特に前半の攻撃面は完璧。後半コントロールが上手くいかなかったのは意外だったが火傷せずに済んだ。PKは与えたが。選手交代も含めて理想的な初戦だったと評価する。
当然デラフエンテとしては前半のクロアチアの中盤選手の移動が予想外なはずもなく、最初からブロゾビッチを消した先の形を止める事を想定して準備していた。デラフエンテは準備の人。どうすればスペインの望む環境を導き出せるかという路線で考えた時に、この監督のやる事はルイス・エンリケ以上に合理的である。ちょっと最終ラインのゴール前の守り方が不安だが、これも案外今に始まった話ではない。問題はロドリの怪我の具合だが、いないと別チームになるのでどうにかしてほしい。
クロアチアはボールを持ち始めたタイミングで浴びた2ゴールはどちらも事故的な要素もあり、確認事項こそあれ崩壊するような負け方ではなかった感覚。"どうやって点を取るか"を大会中探し続けるのは過去2回のW杯も同様だった事を思い返せば、この敗戦で劇的に何かを変える必要性は考えにくい。なるようにしかならない運命に基づいて行動する事の出来るチームであり、次の試合は次の試合。まだ大会は始まったばかりだ。
6/15
ベルリン・オリンピックシュタディオン
スペイン 3-0 クロアチア
得点者
【スペイン】'29 モラタ '32 ファビアン・ルイス '45+2 カルバハル
●ピックアップ選手
ファビアン・ルイス(スペイン)
ロドリのサポートとライン間ワーク。左サイドのトライアングルのハンドルを握りながら先制ゴールのラストパスと2点目は自らのゴラッソ。充実の90分を過ごした。
マルク・ククレジャ(スペイン)
"無理が効く"を毎試合出来る選手。案外スペイン代表に足りない箇所を気合いで埋める存在になるかもしれない。
ウナイ・シモン(スペイン)
相変わらず劇場型だが前半のブロゾビッチのシュートをストップ、後半はPKも止めた。カルバハルに飛ばすキックがフワフワ山なりすぎるのが気になった。
ラミン・ヤマル(スペイン)
単騎で環境をひっくり返す飛び道具としてクオリティを出した。期待役割に対応しながら、試合以外では夏休みの宿題をやってるらしい。
マテオ・コバチッチ(クロアチア)
ドリブルゲインと配球は圧倒的。シュートは絶対決まらないがこれは悪魔との契約なので仕方ない。
ヨシプ・スタニシッチ(クロアチア)
右サイド侵攻が多かったチームでモドリッチと立ち位置が近い事もありカギを握りそう。アーリークロスが上手い。