街でブロックを収集するゲームなんて、面白いに決まっている。
上の画像を見て、「名前あるのかよw」「種類そんなにあんの?」など、何かしら気になってしまった方は、あいにくだが、もう意思とは関係なく、路上観察レベルが1つ上がってしまったことになる。
明日から、街を見る目が変わるだろう。
よければ名前で呼んであげてほしい。
この記事も、ぜひ最後までどうぞ。
どうも。普段は暗渠のことを書いている者です。
暗渠から派生して、また別のマニアックなものにハマってしまい……
これはご紹介せねばなるまいと筆を執った次第である。
暗渠の写真を撮っていると、たまに、「彼ら」も映りこんでいたのだ。
彼らはあまりにも街の中にありふれていて、今までほとんど気にすることもなかった、観察対象外のモノたちだったのだが。
暗渠をきっかけに、マンホール蓋、境界標など、「街のそこらへんにあるもの」が気になり始めてしまった私は、気づけば彼らも観察し始めていた。
本稿の主役、彼らの名は、「透かしブロック」と言う。
ブロック塀の中に、普通のブロックの合間にときどき混ざっている、穴が開いていて向こう側が見えるブロックである。
今回はまず、私が透かしブロックを面白いと思った経緯について、もう少しご紹介を。
地域性がある、という発見
私は東京都世田谷区の職場に勤めていて、自宅から職場までは自転車で通勤している。通勤経路の大半は住宅街であり、透かしブロックのある塀もたくさん見かける。
と言っても、元々ブロックのことをそんなに気にしていたわけではない。
ただ、なんとなく……
これと、
これと、
この3種類が多いな、くらいの印象はあった。
でもそれ以上、何も調べていなかったし、気にしてもいなかった。
あくまで、目に入ってくる風景の一端であり、「たいして見えてはいなかった」のである。
(この3つにそれぞれ「みやま」「ダイヤ」「日の出」という名前があることは、もっと先になって知る)
びっくりしたのは、5月上旬、実家への帰省で山形県を訪れたときである。
実家の周辺を10分ほど散策しただけで、近所では見たことのない柄のブロックが次々と目に入った。
大して気にしていたわけでもない私ですら、「いや……これは近所では見かけないよな」という感覚になるくらい、東京とは違う風景だった。
ここで思わず私は、初めて「透かしブロックを写真に撮る」という行為に至った。一線を越えたのだ。
これらのブロックは、のちに東京で”再発見”したものもあるが、少なくとも「東京でよく見かけるもの」ではなかった。
そんなものが、山形ではそこらじゅうにあり、難なく発見されたのである。
さらに驚いたのは、東京ではよく見た3種類、いわば「御三家」が、山形ではほとんど見つからなかったことである。
そこそこ歩いて、ようやく「みやま」を見つけたが、「ダイヤ」と「日の出」は滞在中ついに見かけなかった。
「透かしブロックのシェアや出現頻度には、地域性があるのではないか」
という仮説が、私の中に浮かんできたのだった。
そして5月下旬、学校行事の引率で、埼玉県坂戸市を訪れた。
集合前と解散後の時間を使って、坂戸駅の周辺を少し散策し、ブロックを探した。
東京の隣の県なので、それほど違わないだろうと思っていたのだが……
坂戸では、御三家のうち「みやま」「日の出」が頻出する一方で、「ダイヤ」を発見できなかったのである。
世田谷区では2番目か3番目に多いと思われる、あのダイヤをだ。
ダイヤの代わりに、坂戸ではこの2種類が幅を利かせていた。
どちらもダイヤと共通するモチーフではありそうだが、ご覧の通り、別物である。
そして、坂戸で発見し、いまだに坂戸以外で見たことがないブロックがこれ。
ダイヤのようでダイヤではない模様が穴になっている。
キラキラしていて可愛い、というふうに見ることもできるが、微妙に対称性が崩れている気がして、なんだかちょっと不気味な雰囲気でもある。
このブロックが、ある場所にこれだけ大量に存在していた。
規則性があるようでないような、やや不思議な配列であった。
というわけで、坂戸で確信したのだ。
透かしブロックのシェアには地域差がある、と。
そして、その土地にしかない、いわば「ご当地ブロック」もあるのだろう、と。
かくして、ブロックを探して写真に収める日々が始まった。いわゆる沼落ちである。
ゲームの鉄板要素を3つも含んだアクティビティ
公私ともに地方への出張・遠征の機会がほとんどない生活をしているので、東京以外でブロックを探す機会には残念ながら恵まれない。
でも、なじみの通勤経路ですら、今まで見過ごしていたブロックがたくさんあることに気づかされた。「見えていなかった」のである。
以後、今日に至るまで、初見のブロックを見つけては撮影し、時折SNSに投稿する生活をしている。
(私のスマホのカメラロールは、ブロック、暗渠、娘(2歳)の三大勢力でほぼ埋まっている)
で、やってみてわかった。これは楽しい。
思えば、ゲームや玩具のジャンルとして「ブロック」は定番である。
最近だとマインクラフト、古くはブロック崩しやテトリスなど、古今東西、いくらでも挙げられる。LEGOなども含め始めたら、もうキリがない。
他方、「収集」というのが何かと人の心をくすぐる要素であることは、わざわざ解説の必要もない。
最近はスマホなどの位置情報を利用して、リアルの街中で「対象」を収集するゲームが、殊に人気である。ポケモンGOがその筆頭になるだろうが、他にも多数思い当たる。
だとするならば、だ。
「ブロック × 収集」、しかもそれをリアルの街でやる、というのは、多くの人を虜にするポテンシャルを持っているに違いないのである。
……なにか間違ったこと言ってます?(笑)
さて、ここから先は、透かしブロックの楽しみ方について、我流で解説をしていきたい。
楽しみ方 その1 : 収集する
私自身も最近までそうだったのだが、透かしブロックにこんなにバリエーションがあることを、多くの人は気にしていない。
しかし、その気になって集め始めると、案外いろいろと見つかってくるのだ。
単純に、集めていくだけでも、面白い。
まずは、私が御三家と呼んだ3種類を改めて紹介したい。
この中でも特に「みやま」のシェアが圧倒的である。透かしブロックと言えばこれ、という印象の人も多いのではないか。
みやまは、メーカーによっては「青海波」「松」などの別名で呼ばれているそうだ。日本で古来からある模様をモチーフにしているだけあって、多く見かけるのも頷ける。
「日の出」は、みやまの亜種のようにも見えるが、メーカーのカタログを見るとこの名前がついていた。
「ダイヤ」はシンプルなデザインだが、非常によく見かける。
個人的な印象では、世田谷区で見かけるブロックの9割は、この「みやま」「ダイヤ」「日の出」の御三家で占められている。
それ以外のブロックは、比較的レアということになるが、レアとはいえ全体の1割はあるわけで、探せば簡単に見つかる。
この1割の中は、かなりのバリエーションに富んでいる。
少し変わったものをいくつか紹介したい。
正式名称がついているブロックはほとんどないので、先人にならい(※紹介は最後に)、適当な名前を勝手に付けておく。
「宇宙人(グレイ)」
初めて「こわい」と思ったブロック。確実にこっちを見て威嚇している。
たくさん並んでいたら背筋も凍るところだが、幸い、2~3個みかけただけだった。
「犯罪を見逃さない」
これも、かなりの目力で見られているような気がする。
東京都には、歌舞伎の隈取りの図柄で「犯罪を見逃さない」と書かれた防犯ステッカーがあるのだが、私はそれを想起した。
このブロックも犯罪の抑止力になるのではと思う。もっと使うべきだ。
「H2O(水分子)」
みやまかと思ったら、よく見たら中央が直線になっていた。
私は理科の教員なので、こうなるともう、水にしか見えない。
「めがね」
2歳の娘がこの写真を見て「めがね!めがね!」と言ったので、誰が何と言おうがこれはメガネである。
このブロックは東京でも比較的よく見かける。
ところで、観察を始めると、すぐに気づくことなのだが。
透かしブロックは、「顔」に見える。
穴が左右に2つ空いているタイプは、もう有無を言わさず顔に見える。
そして穴が左右2つではないタイプすらも、顔のような、生物のような、何かに見えてくるのである。
単眼だったり、なにか被り物をしていたり……そのあたりは自由に想像したい。
だんだん写真が集まってきたら、このようにサムネイルにしてみると良い感じである。
かの哲学者フリードリヒ・ニーチェが、もし現代日本で路上観察をしていたなら、間違いなくこう言っただろう。
と。
楽しみ方 その2 : レイアウトの妙を愛でる
透かしブロックはもちろん、普通のブロックと一緒に積まれ、塀となってこその存在である。
普通は、塀の所々に配置されているにすぎないのだが、たまに、驚くようなレイアウトに遭遇する。
透かしブロックの密度、配置パターンなどを観察したい。
<観点1> 密度
まず、「普通はこれくらいの間隔だよね」という、ごく一般的な配置の写真を示す。
最もスタンダードな「みやま」による、ごくありふれた間隔の塀。
2つ飛ばしなど、もっと間隔をあけている塀もよく見る。
透かしブロック多め。
でも、規則的で、リズムがあって心地よい。
みやまは別名「青海波」である。まさに波のようだ。
透かしブロックマシマシ。
このくらいになってくると、「ちょっと多すぎませんかね」とツッコミを入れたくなってくる。
右端の方でパターンも変わっているが、斜面になっているからだろうか。
ちなみに、透かしブロックを使う際には、2つ以上連続させないというルールがある。日本建築学会が定めているそうだ。
透かしブロックの場所には鉄筋を通すことができないからという、強度上の理由による。
しかしこの写真の塀も含め、そんなルールをものともしていない塀を、街中ではしょっちゅう見かける。(ルールができる前の塀なのかもしれない)
地震を感じたら、ちょっと遠ざかった方がいいのかも。
ここまで来ると、もうブロック塀とは言えないかもしれない。
さすがに固定しないとまずいと感じたのか、上から押さえつけられている。
ずっと見ているとゲシュタルト崩壊が進んでいく。
<観点2> 向き
これを最初に見たときは驚愕した。
そうか、そんな使い方があったのか、と。
みやまを180度さかさまにして、2つ組み合わせる。それだけで、花が咲いたような、全く違った印象の模様になる。
(下半分だけ見ると、回転したみやまはヒトの骸骨のようにも見えて、不気味でもある)
そして、これを最初に見たときはさらに驚愕した。
タテである。そんなのもアリなのか!!と思った。
「ブロックの縦横比が正確に2:1」だからこの積み方ができるわけだが、2:1であるということにも、これを見るまで気づいていなかった。
この縦積みは、現在の基準では禁止されているとのこと。(これも強度が理由。鉄筋を通せないため)
もう新たには造れず、昔からある塀でしか見られないので、貴重である。
「日の出」の縦積みも見かけた。
これは私には、スパイダーマンの顔にしか見えない。
<観点3> 違和感
「お前、その場所で、その向きで、いいのか?」
「それ絶対に、積み方間違えたでしょ?」
というツッコミを入れたくなるような塀に、街中で出会うことがある。
単純な施工ミスなのか、意図的なものなのか……
真相は塀の中である。
<そのほか> ブロック景あれこれ
普通の塀では物足りず、透かしブロックで何らかの模様を描こうという意志が明らかに感じられる。
昔のゲームの一場面のように見えなくもない。
あまりメジャーではない「XX」というブロックのチョイスも素敵。
岩のような意匠の塀に、同系統の色の透かしブロックを同居させている。めっちゃオシャレ。
近づいて初めて透かしブロックと分かるかもしれない。
透かしブロックの穴から植物が出ている光景は、よく見かける。
無機質な灰色の塀に、ポイントで緑が加えられると印象が一変する。
この写真の塀は、植物の種類も穴ごとに変わっていて面白い。
透かしブロックの穴が、たとえばゴミ収集所のネットの固定など、何かに利用されている例は時々見かける。
ただ、ここまでガッツリ物を入れられているのは珍しい。
ちょうどいい場所に穴があったから……と、入れられてしまったのだろう。ちょっと不憫である。
すぐそこにある、しかしさほど気にされていない、透かしブロックの世界を垣間見ていただいた。
さっきまで偉そうに書いてきたが、暗渠と同様、実はこれも何番煎じかわからないテーマである。
偉大な路上観察の先人方が、こんなにわかりやすくて楽しい観察対象を看過しているはずがない。
中でも、藤井さん親子(藤井美奈子さん・藤井克彦さん)を紹介しないわけにはいかないので、最後に紹介させていただく。
お二人は「ブロック塀研究会」の会長と副会長を務めておられる。(なんなら入会したいのだが、会員は藤井親子2名のみとのことで、残念…… 笑)
過去に『タモリ倶楽部』、つい先日は『マツコの知らない世界』にご出演されるなど、活躍が目覚ましい。
「ブロックを命名する」というのも、お二人のアイデアを頂戴させていただいたにすぎない。
透かしブロックに興味を持った初期から、私はInstagramをフォローしていたし、その狂気じみた著書『君は透かしブロックを見たか』は、透かしブロック収集の際に大いに参考にさせてもらっている。
これは433種類もの透かしブロックを分類・掲載している奇書だ。電子版は無料でダウンロードできるので、よければリンクから見ていただきたい。
やはり、いろいろな地方に出向くと、見つかるブロックの種類が圧倒的に増えそうだ。それはこの本を見ても明らかである。
世田谷でちまちまやっている身としては、歯がゆい。
とはいえ、ご近所に思わぬ激レアブロックが潜んでいる可能性もあるだろう。
今後も通勤のついでに、少しずつ違う経路を通って、地道に探してみたいと思っている。
こんなところまで読んでしまった貴方は、もう今日から、街の見え方がまた一つ変わってしまうだろう。
「あっ、みやまだ」「おっ、日の出だ」など、名前で呼んでいただきたい。それ以外のブロックも見つけてしまうかもしれない。
ブロックの方は、「実は今までずっと見ていたんですよ」といった視線を送ってくるかもしれないので、その際は、見つめあっていただければよろしいかと……。
暗渠もそうだし、今回の透かしブロックもそうだが、「身近にある、多くの人があまり気にしないもの」に目が行くようになると、大げさに言えば、世界を捉える視点が1つ増える。
もっと大げさに言うと、脳の機能が、感覚が、それまでより拡張される、と言ってもいい。
ブロックに関しては少々余計な拡張かもしれないが……(笑)
しかし、「路上観察」というジャンルの面白さはまさにそこにあると思っている。
さて、次はどんな観察対象にハマってしまうだろうか。
柏原 康宏(かしわばら やすひろ・理科教諭)
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