その一本を跨いで
埼玉、栃木、群馬の県境は「三県境」として多くの人が訪れていて、いまでは観光名所化している。
加須市の「道の駅 きたかわべ」から足を進めると、関東平野の田園風景の中に、突如看板が現れる。そこが日本でも珍しい「平地の三県境」だ。三県境は日本に40箇所存在しているが、その多くは山の上や川の上にあり、簡単に訪れることはできない。しかしこの場所は関東平野の真ん中。三県を跨ぐことができる。
1990年代から栃木県の地権者がアピールを始め、2010年代に入ってから次第にメディアに取り上げられるようになった三県境。一方群馬県側の地権者は観光名所化されることに嫌悪感を抱いているようだが、各市町村がアピールを続け、住民らが看板を設置、2016年には国土地理院の助言と、地権者立ち合いのもとで境界確定作業を行った。この際、県境上に新たな杭を打ち、ついに県境を明示した。あまりに訪問者が増えすぎた一方、田圃の中にあって境界に近寄りづらかったため、2018年には周辺の土地を買収して遊歩道を整備した。これにて現在の三県境が完成した。
筆者も2019年の年末にこの場所を訪れたことがあるのだが、実はこの場所のすぐ近く、渡瀬川の三国橋には茨城と埼玉の県境があるので、30分あれば、なんと4県をいとも簡単に制覇することができる。
この「境界」に筆者は興奮を覚えたが、やはり他にも「境界」に一種の特別な快感を感じる人々がいるらしく、小林政能氏が「境界協会」なるものを組織している。
小林氏は勤務先の日本地図センターで、地図の見方や地形の歴史を紹介する月刊誌『地図中心』の編集担当を行う中、2014年3月号で“境界”を特集したところ予想以上の反響があり、協会の発足を決めたという。
現在、会員が集ってユニークな区境や県境を巡っているそうで、三県境のフィールドワークには36人が参加したそうだ。参加者は20代から80代と幅広く、興味を覚える。彼らが巡るのは県境に限らない。一つの施設のなかを貫く区境や、道路上に存在する境界なども訪れ、日々「境界マニア」としての自覚を高めている。
現代社会では不可欠な「境界」。そこには表面ではわからない、興味深い要素が溢れているのかもしれない。
へいすてぃ(論説委員・高校1年)
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