【ネガティブな面だけじゃない】Spark Middle-East~取材して分かった多様な中東~
「バクラバっていう甘いお菓子が、めちゃくちゃ美味しいんですよ!!」
「彼女が使っていたペルシャ語が美しすぎて、『えっ、なんだこの言語は⁉』って驚いて…」
現代アートやファッションなどを通して、様々な中東を発信する”Spark Middle-East”のプロジェクトリーダーみずきさんは、躍動感たっぷりにそう語った。
自身が中東の様々な面に触れ、興味を持った彼女は、「中東」に対して多くの人が持つネガティブなイメージを破るべく活動に勤しむ。
「中東には明るい面もあるけど、ある意味イメージ通りの暗い面があるのも嘘ではない。その両面を見せたい。」
今回は、両面を知った彼女だからこそ考える、Spark Middle-Eastでの中東発信について話を伺った。
Spark Middle-Eastとは?
Spark Middle Eastは、パレスチナ問題、シリア内戦といったマクロな視点から語られることの多い中東地域を、現代アートやスタートアップ、ファッション産業など、ミクロかつ多角的な視点から捉え発信していくことを目標に活動している。
▷BizjapanのSpark Middle-East紹介noteはこちら
Bizjapanとは?
(画像はBizjapan公式サイトより/2021年3月19日現在)
Bizjapanとは、性別や国籍、大学に関係なく多種多様な人達が集うコミュニティである。
そこは一人一人がプロジェクトを立ち上げることの出来る、活気溢れた場所だ。
2011年に設立され、その後2017年にはNPO法人となり、多くのイベントやプログラムを成功させてきた。2020年度では“Because we love it.”のスローガンのもと、vegecommuだけではなく、フードロスから教育格差・バイク・本郷のスタートアップ・トークンエコノミーまで様々なテーマでプロジェクトが走り出した。
▷公式サイトはこちら
Gaku-yomuは前回、Bizjapanのプロジェクトvegecommuへの取材を行った。
美味しい野菜の生産者と消費者を繋げ、「現代のご近所付き合い」作りを目指すプロジェクトである。
▷vegecommuへの取材記事はこちら
▷vegecommuへの取材記事note版はこちら
みずきさんプロフィール
NPO法人Bizjapan副代表。東京大学文科三類一年。
一年間留学したアリゾナ州で中東出身者と関わったことをきっかけに、中東地域研究に興味を持つ。
今回は、Spark Middle-Eastプロジェクトリーダーであるみずきさんに、リモート形式でお話を伺った。
「自分で知って満足するだけじゃなく、何らかのアウトプットをしたい」―活動内容、プロジェクト発足のきっかけ
―まず、Spark Middle-Eastの活動内容をお聞きしたいと思います。
みずきさん(以下、みずき):中東に関することを幅広く行っています。まず講演会を2つ開催しました。1つ目は中東の現代女性アーティストにテーマを絞ったものです。現代アートを紹介するだけではなくて、その中の色々なメッセージを現代社会の問題と絡めたりして……例えば、イスラムの女性が被る「ヒジャブ」がアメリカの国旗になっている写真とか。
(「現代アート×中東 中東で活躍する女性アーティストの挑戦」講演会ポスター)
それは、「同時多発テロによってムスリムへの差別や風当りが強くなったアメリカでも、ムスリムというアイデンティティを持ったままアメリカで生きていきたい」という作者の思いが込められた作品です。そのような解説を付けて頂いて、1、2時間お話して頂く講演会でした。他にもクウェートに長期留学された方をお招きして、中東への留学はどうだったのか、リアルなお話をして頂きました。
このイベントに付随して、記事を何本か書きましたね。講演会の他にも、ムスリマファッション(モデストファッション)として、可愛くデザインしたヒジャブを生産しているスタートアップなどを取り上げました。
最近は、”Step Saudi 2020”というスタートアップイベントに参加し、ネットワーキングといって参加者同士が交流する時間の中で、現地の起業家の人とお喋りしました。
今は、東京大学の五月祭で、散歩をしながら詩を書く、Bizjapanの”Sampoem”というプロジェクトとコラボすることを企画しています。日本とイランで同時に散歩をして詩を書き、それらを共有してお互いを理解しようというものです。政治とかはいったん置いておいて、感性を通じてお互いの日常に思いを馳せよう、みたいな……。イラン大使館と連絡を取ったり、外大の人達にも声をかけたりして、イベントを成功させるために頑張っています。
―プロジェクトが発足したのはいつ頃ですか?
みずき:去年の8月です。いきなり「よし、やろう!」と思って…、ドバイに興味が行った経験があり中東に興味があった先輩が声をかけてくれたのもあって、始まりました。
―そうなんですね。活発に活動されているというか、想像以上にやっていることが多かったので、8月ってなるとスパン短めにたくさんのことをされているなと…。
みずき:そうですね。しかも8月の20日くらいに「やろう!」と決めて、講演会を開催したのが9月13日なんですよ(笑)。忙しくやっていましたね…
―それは早い!”Yeah, I'm a Muslim. But, but I'm not a terrorist.”(Bizjapanのnoteより引用)という留学時代の友達の発言は、プロジェクト発足のきっかけではなく、中東に興味を持ったきっかけだったんですか?
みずき:どちらかというとそうなりますね。ただ高校のときも若干中東のことを調べたり、大学も中東関係のことが出来るところを選んだりしていて…「自分が知って満足するだけじゃなく、何らかのアウトプットがしたい」っていうのはぼんやり考えていました。そこで偶然Bizjapanを見つけて入ったという感じです。ある意味、プロジェクトを始めるきっかけと中東に興味を持つきっかけっていうのは一致していたというか、そこまでかけ離れてはいないですね。
―プロジェクト自体を発足しようとしたとき、具体的にどのような心境でしたか?
みずき:プロジェクトを始めることに関しては、結構心配があったんです。一回始めちゃうとずっと続けなきゃいけないのかとか、忙しすぎてキャパオーバーにはなりたくないなとか…。その時に先輩が、「とりあえずやってみたら」と助言してくれて、オンラインでの活動がメインだったこともあって「意外と続けられるかもしれない」と、最初は受動的な感じで始めました。
―近くにいた人の影響を受けて、それを行動に移したんですね。
「何語か分からないけど美しい言葉や、世界史でしか聞いたことがない場所について知った」ー人との出会いから中東を知る
―みずきさんはどのように「面白い」中東、石油やテロリズムじゃない中東を知りましたか?また、どのように感じましたか?
みずき:人との出会いが大きかったです。高校生のとき留学先で出来た友達以外にも、水泳部の友達が通話のとき使っていた言葉が美しすぎて衝撃を受けたり、ホストファミリーのお隣さんがアッシリア人という民族で、幼い頃に住んでいたイラクでのお話をしてくれたり、バクラバっていう甘くて美味しいお菓子を大量に作ってくれたりしました。
あとはUberというタクシーサービスを使うとき、英語の練習も兼ねて片っ端から運転手さんに話しかけていたんです。どうせ恥かいても降りたら終わりなので(笑)その中でエジプトやイランの人、バビロン(イラク)出身の方とか色んな方と話せました。アフガニスタン紛争から逃げ難民としてアメリカにやってきた人から、アフガンのかつての美しさや、故郷に戻りたいけど叶わないという話を聞いたりしましたね。あとは現地校の世界史の先生から、アフガンの少年兵だったかつての教え子の話を聞きました。
私が留学したアリゾナ州の土地柄で移民二世が多かったりと、文化的背景や経済状況が多様な同級生と過ごすことができました。
―自分から調べていたことに加えて、中東出身の方と触れ合う機会が偶然あったんですね。
みずき:そうですね、出会いが先にあって、そこから調べるようになりました。家に帰って「バビロンってどういう場所なんだろう」ってググったりしてましたね。
―やっぱり現地で暮らしていた人の話とか、人との会話から伝わってくることって、ただ調べているだけよりも違いますよね…
みずき:そうですね。Bizjapanの他のプロジェクトもそうかなと思うんですけど、漠然とした目標っていうよりかは、パーソナルな体験や思いから始まっているものが多いと思いますね。
「中東は、まだまだ繊細なテーマ」ー講演会を終えて
―率直に、講演会を開催した後の手応えや、心情の変化はありましたか?
みずき:内容に関連していないことから言えば、「意外とやってみれば出来るな」と……。計画を立てて一個一個潰していけば、一応形にはなるなと思いました。難しいと思ったのは、まだまだイスラムや中東というテーマは繊細で、誤解を与えてしまうようなときも多いということです。荒らしがzoomに入ってきたこともありました。
―ええ!荒らしが……!
みずき:というのも、ゲストスピーカーの方のアンチみたいな人が来ちゃったんです。マニュアルってほどじゃないですけど、ちゃんと対策を考えておけば良かったと思いました。実際にどうやって防げばよかったのかっていうのはまだ分かっていないんですけど、色んな人の目に触れる告知方法だとどうしても避けられない、っていうのはあるので……。
―驚きました。zoom荒らしも初めて聞きましたし、繊細なテーマであるだけに独特な感じがしますね。
みずき:noteにわざわざ書く内容でもなかったんですが、今後似たようなことをやりたいと思ってる人には、そういうこともあったというのは知って欲しいですね。
―印象に残ったこともお聞きしたいんですが、それもその中の1つですかね。
みずき:そうですね。他は、東京外国語大学のアラビア学科の人を探してつないでもらったり、キュレーターの人に直接コンタクトをとったりして、色んな人に協力を呼びかけたことも印象に残っています。最初に講演会をやって知り合いを増やしたことで、次のことがやりやすくなったのは実感としてありますね。
例えば、講演会で告知や記事を執筆してもらった外大のオンラインメディアの方に、次の企画の協力をお願いしたら参加者を集めてきてくれたことがあって……。講演会を最初にやったのは意味があったと思います。
―今後もやりたいイベントはありますか?考えているものとか…
みずき:私は中東の文化だけじゃなくて、経済成長や産業構造の変化などに興味があるんです。まだアイディアなんですけど、面白いベンチャーの経営者の方にお話を聞いてシリーズ記事を書いたりしたいですね。
Bizjapanの拠点の一つである”Lab-cafe”で、木曜の夜に”Lab-bar”っていうのをやっていて、ちょっとしたカクテルや軽食を出しているんです。そこで先ほど言った中東のバクラバを出しつつ、お金を払ってくれた人に中東をテーマにしたポストカードをつけて、そこに載せたQRコードから記事を読んでもらうとか…そういう形で「美味しく」中東を知ってもらえたらなって考えていますね。
「技術のニーズがある中東と、日本の学生が繋がったら面白い」ースタートアップ、プロジェクトの根幹にあるもの
(モデストファッションに関するスタートアップのホームページ)
―先ほどお話されていたベンチャー企業について、中東とスタートアップという言葉がいまいち結びついていない人が多いように思うのですが、何故そこに注目したんでしょうか?
みずき:中東の国々は、「石油産業から抜け出さなきゃいけない」という危機感を持って産業に取り組んでいるので、当然イノベーションを求めているんです。そうなると、一つのアプローチとして現地のスタートアップの様子を見ることで、将来サウジやUAEがどうなっていくのかを見たいって思っています。
―この間お話したとき、ベンチャー企業にインターンとして関わっている理系学生が多いと仰っていましたよね。そして理系学生にこの記事を読んで欲しいとのことでしたが、その点について詳しくお聞きしたいです。
みずき:これもやっぱり中東が欲しいのは才能、というか技術のある学生、特に理系の学生じゃないかなと思っていて。あくまで仮説ですが、そのニーズがある中で、日本の学生が関わっていけたら凄い面白いんじゃないかなと思ったんです。「中東のシリコンバレー」と言われているイスラエルとかは、日本からインターン行く人は比較的多いかもしれないですけど、今中東で積極的にインターンをしている人は聞いたことはないので。
イスラエルとUAEが国交正常化した背景として、「イスラエルの技術力が欲しい」っていうのも1つあるんですけど、それくらいテクノロジーへの欲求や危機感を持っているんだと思います。そういうところで日本の学生が繋がったら面白いと思いますね。
―そのように理系の学生が興味を持ったとき、ベンチャーや産業の分野には、プロジェクトとしてどのように関われたりするんですか?
みずき:中東との関わりをキャリアとして考えてくれるのも全然ありですし、もう少し大きくしたいなら中小企業に声をかけてインターン受け入れてもらえるように掛け合ってみるのもありかなと思いつつ、難しいですね。
(Spark Middle-Eastが“Step Saudi”に参加した際、撮影された写真)
―今は中東とスタートアップのことに注目されているという印象を受けましたが、プロジェクト自体のメイントピックは今後変わっていくのでしょうか?
みずき:変わっていくというよりは、バランスを取りたいと思っています。中東には明るい面もあることを伝えていきたいですが、紛争があって過激派がいるという、ある意味イメージ通りの中東の側面もあるので、そういう部分も見せたいです。バランスをとるために、ベンチャーの取材をやったり、パレスチナ問題をやったり…多角的に捉えていきたいです。「ランダムにやっているように見えて、それ自体もプロジェクトの一つの目的」という感じです。私の興味があちこちに行っているのもありますね(笑)
―プロジェクトの根幹にあるものはブレずに変わらない。
みずき:多角的に捉える、っていうのが根幹にありますね。
―noteに書かれていた「大きな言葉や概念にすぐに飛びつくのではなく、敢えて狭い視野と細かい視点をもつこと」という言葉が印象的でした。学びや感じたことをそこまで言語化出来るのが凄いなと感銘を受けて…
みずき:嬉しい!私、言葉へのこだわりが強いんですよ。
―そうだったんですね!上手くまとめられていて、みずきさんの考えがすんなりと入ってきました。
みずき:それは至上の誉め言葉ですね(笑)
―「大きな言葉や概念にすぐに飛びつくのではなく、敢えて狭い視野と細かい視点をもつこと」は、中東とかプロジェクトに関すること以外でも重要だと感じることはありますか?
みずき:私、北京大生と議論する「京論壇」というサークルに入っているんですね。そこで、安楽死は是か非か、何故自殺をしてはいけないのかとか、そういう話をしていたときにも似たようなことを感じました。例えば、安楽死は自己決定権として認められるべきだっていうのは、机上の空論の中では議論として成り立つかもしれない。でも事例を見た時に、この場合はどうなのか、本当にそれで良かったのか…俯瞰して見た時とは違う感情や考え方が出てくるなと感じましたね。
―なるほど。私も法学部で扱う事例を見て、同じように感じるときがあるので共感します。
「それぞれが感じたことを、それぞれで受け取って欲しい」ー中東を発信したその先、みずきさんと中東
―中東を発信したその先や、今後の展望は何ですか?
みずき:私はこのプロジェクトを大きくするというよりかは、これをきっかけに「留学したい」とか「アラビア語をかじってみたい」とか、色んな人の出発点がこのプロジェクトになったら良いなと思っているんです。
これに関連して言えば、凄く手応えを感じたことがあって。友達が私が開催した講演会を聞いてくれて、その子の中でクウェートが留学先の選択肢として加えられたというのが嬉しかったんです。そういう形で、何かしらの痕跡を皆の中に残せれば割と満足ですね。中東との関わりの中で、一番最初のステップであれば良いかなと思います。
―興味を持ち易い、良い立ち位置にあるプロジェクトですね。
みずき:ありがとうございます。やっている中で、やっぱり学生の限界ってものを感じるんですよ。調べるだけだったらジェトロ(日本貿易振興機構)とか外務省のHPとかもあるし、それらには敵うわけがない。その中で学生がやることの意味は何だろうっていうのは、最初から考え続けていたことではありますね。
―現時点でその意義は何だと感じていますか?
みずき:やっぱり「利益に縛られない」っていうのは強いと思っています。自分が好き、っていう条件さえ満たされれば、ニッチなところを思いっきりやれるっていうのが学生の強みの1つなのかなと。
あと私Bizjapanの副代表もしているんですけど、学生団体そのものの意義としては、組織じゃなくて「溜まり場」として良い場所を作りたいと思っていて。なんとなく誰かが来てお喋りして、その中でちょっとそれやってみようってアイディアが自然に発生する場所に価値があるし、それは時間や余裕がある学生だからこそだと思いますね。
―みずきさん自身は、今後中東とどのように関わっていきたいですか?
みずき:外交面で関わるとしたら、外務省も良いと考えつつ、ビジネス面で関わるのも面白そうだと思っています。大学在学中にがっつりアラビア語を勉強する暇がないので、社会人になってから2年くらい留学するのが夢です。そして、コロナが明けたらがっつり遊びに行きたいです!
―中東は旅としてもたくさん魅力がある?
みずき:それが私、受験やロックダウンが重なっちゃってまだ行ったことないんですよ。ドバイ万博が今年に延期されたので、せっかくなら行きたいと思っています。
―最後に、この記事を読んでSpark Middle-Eastに関わりたいと思ったら、どのようにコンタクトを取れば良いですか?
みずき:facebookぺージがあるのでそこにメッセージを送っていただければ対応します。
―noteを読んだだけより、今回良い意味で驚いたことが結構あって、お話を聞けて良かったと思いました。ありがとうございました!
みずき:聞かれて初めて、少し突っ込んだ話も出来たなと思います。ありがとうございました!
プロジェクトをきっかけに、中東と日本をつなげる
今回は、プロジェクト概要にとどまらず、活動中の困難や今後の展望などの詳しい話を伺うことができた。
みずきさんは、現在に限らず、将来的にも中東と関わろうと夢を抱く。
旅、産業、言語…様々な側面を持った中東と繋がることで、自分自身の世界や価値感を広げることができるかもしれない。
本来の中東を知るには、入ってくる情報だけではなく、自ら細かい視点で探ることが必要である。
多角的に捉えた中東を発信して、中東を誰かが繋がる「きっかけ」をつくる。
この記事を読んでいる貴方もぜひ、その一員になってみてはいかがだろうか。
そして、いつか実際に中東へ足を運んで見るのも良いかもしれない。
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(文/やま)
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