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デザイナーから進める特許の取り組み

この記事は freee Designers Advent Calendar 11日目の記事です。

こんにちは、gakutonです。freee 会計の税理士・会計士さんに向けた機能のリードデザイナーをしています。

この記事では主に IT のベンチャー企業やプロダクトのグロースフェーズでデザインを担当している方に向けて、デザインの視点から特許などの知的財産に結びつける考え方を書いていきます。
なかなか普段は触れない縁遠いテーマかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合いください。

わたしの自己紹介

gakuton(Twitter
・法学部在学中に freee にインターンとして入社。1年半後の2019年4月に新卒入社
・プロダクトデザイナーとして freee 人事労務、freee 申告などを担当ののち、現在は freee 会計のデザインを担当
・来年2023年4月から知的財産法の大学院に進学予定
・一番好きな裁判例は「ときめきメモリアル事件(Wikipedia)」

そもそも知的財産ってなに?

知的財産とは、人間の創作により生み出されたものを保護するための権利です。
具体的には以下が該当します。

特許:技術的な発明を保護する
意匠:意匠(外観や見た目)を保護する
商標:企業やサービスのマークやネーミングを保護する
著作権:創作的な表現を保護する

デジタルプロダクトにおいては、主にプロダクトの根幹となる機能を権利で保護することで、市場における競争力の確保につながると思います。
そこで、今回はプロダクトの競争力において最有力となる特許にフォーカスしていきます。

スモールビジネスにおける特許の現状

日本では中小企業が全企業の 99.7% と大半を占めますが、一方で中小企業における特許出願割合は 14.9% と大企業の 80% に大きく差がついています。

特許出願件数・現存権利件数に占める中小企業の割合のグラフ
中小企業庁「2020年度版 中小企業白書」 第1章第5節 より引用

特許の出願件数で見ても、2017 年の中小企業の合計は約40,000件に対し、大企業は 200,000 件以上あり、5倍以上の差がついている傾向にあります。

企業規模別の特許出願件数推移。2017年では中小企業が39,880件、大企業が206,855件と、約5倍程度の差がついている
平成30年度「中小企業の知的財産活動に関する基本調査」14項より引用

特許権を保有している企業の割合は、中小企業全体で約 3% 程度で、大半の中小企業では特許獲得に向けた活動が行われていないのが現状です。(大企業では同年のデータで 28.7% が特許権を保有)

中小企業における特許権保有割合のグラフ。2015年から2017年の平均で3%弱
平成30年度「中小企業の知的財産活動に関する基本調査」28項より引用

情報通信業に絞っても 3.4% となっており、いわゆる IT ベンチャーなどにおいても積極的な権利化は進んでいないようです。

2017年の業界別の中小企業特許所有の割合。建設業と製造業が3.5%と最も高く、情報通信業では3.4%となっている。
平成30年度「中小企業の知的財産活動に関する基本調査」31項より引用

スモールビジネスが特許を進めるメリット

資本力に勝る競合に対し、競争優位を獲得できる

「せっかくリリースしたけど資本力のある大企業にすぐにマネされて太刀打ちできなくなった」
このような話を聞いた経験もあるのではないでしょうか。
特許が審査を通ると、出願日から20年の間その特許を専有(独占)することができ、他社は実施することができなくなります。

これは進化の激しい IT 業界の中で、事業継続性を担保する一つの要素になります。
新たな競合が出てきた際にも一つの参入障壁になりますし、機能に落とし込めれば自社プロダクトにおける固有性にもつながります。

他社の特許取得を防止できる

自社が保有できると優位性につながる特許ですが、一方で他社に取られるとその特許は他社に独占されます。
特許はリリース済みの機能だけでなく、企画段階のものでも出願が可能ですので、将来的な方向性に制限を受けてしまうのを避けるために先行して取り組みを行うのも大切です。

特許の進める上での考え方

特許への取り組みを進めるための考え方を、僕が実際に取り組んだ経験も織り交ぜて紹介します。

「解決すべき課題」 が議論のスタート地点

「特許というと技術的に革新的なものでないといけないのでは」と思われる方もいるかもしれません。
確かにそういった側面もありますが、特許化する上でまず考えるのは解決したい顧客の課題です。

プロダクト開発でも、まず顧客の抱える課題をチームでしっかりと認識した上で、解決策を模索した結果これまでにないアイデアに至ることがあるかと思います。
個人的な意見ですが、良い機能は誰か一人のひらめきによって生まれるのではなく、顧客の課題にチームで向き合い試行錯誤した結果生まれるものだと強く感じます。
そういったチームでたくさん議論して生まれたソリューションが、特許にしうるアイデアのタネになります。

デザイナーは特許化に不可欠な存在

この点において、日々プロダクトに向き合って解決策を検討するデザイナーの視点は重要です。
デザイナーはインタビューなどで顧客の課題を詳細に聞くことが多いかと思います。また、プロダクトの設計では理想の顧客体験から考える習慣があり、現状にとらわれずアイデアを出しうる存在です。
常にユーザー視点で課題と向き合うデザイナーだからこそ、より良いソリューションを模索することができると思います。それにより生まれたアイデアが「結果的に」特許につながると言えます。

まず1件、プロダクトのコアで権利化できないか考えてみる

ベンチャーをはじめとしたスモールビジネスでの知財活用を促進するのが大事だと思う一方で、
日々変化の多い環境下で継続して特許の取り組みを進めるのは簡単なことではないでしょう。

なので、まずはプロダクトのコアとなる体験や機能で一つ、特許にできる部分がないかを考えてみるのが良いかと思います。
プロダクトが他社と異なり優れている部分やユーザーに高く評価されている部分であれば、顧客課題の解像度も高く権利化も比較的考えやすいのではないでしょうか。

また、「そういうのはプロダクトがもう少し成熟していってから考えれば良いだろう」という意見もあるかと思います。
しかし、プロダクトが成熟するということは「一定程度市場で価値を認められている」ということであり、そういった環境では競合も多く出現し競争が激しくなっていることがほとんどです。
その市場環境になってからでは、すでに他社も出願を進めているなどの理由から優位性を確保するのは至難の業です。
そのため、早いうちから少しずつでも取り組みを進めていくのが非常に重要だと考えます。

なお特許の取得にはまず特許庁への出願が必要ですが、出願は発明者本人と弁理士(知的財産業務の専門資格)のみが行えると定められています。
そのため、実際に進める際には特許事務所にまず相談する形となります。

初めてで手続きの全体像が分からなかったり、まずはフラットに相談したいという場合には、特許庁でも相談窓口が設けられているのでそこから始めても良いと思います。(私への相談でもよければぜひお声かけください!)
https://www.jpo.go.jp/support/general/gyousei_service/soudan00.html

おわりに

デザイナーは顧客体験を理想から考えられる存在だからこそ、プロダクトの将来的な姿を実体を持って描くことができると思います。
かくいう私もまさに奮闘している最中です。今後また日々の取り組みを紹介できたらと思います。
目まぐるしい日々の中で、少しでも長期的な優位性を持つ要素として知的財産を考えてもらえたら幸いです。

明日は私のジャーマネ(弊社ではマネージャーのことを親しみを込めてこう呼んでます)である magi さんから、2022 年の freee でのアクセシビリティを振り返ってもらいます!お楽しみに。

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