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田中 優子「働くこと、開かれていること」

田中 優子(たなか・ゆうこ)——法政大学名誉教授・江戸東京研究センター特任教授。
法政大学社会学部教授、社会学部長、総長を歴任。専門は日本近世文化・アジア比較文化。研究領域は、江戸時代の文学、美術、生活文化。

仕事? 趣味?

 芭蕉俳諧は江戸時代を席巻したが、俳諧師は「働いて」いたのだろうか? 芭蕉は旅をした。その際、ほとんど金銭を持っていなかった。もちろん宿に泊まるときは現金で支払うわけで、船や馬をごくたまに使うとしても金銭が必要だから、いくらかは持っていただろう。しかし都市に入ってしまえば、弟子たちが待っている。芭蕉は弟子たちが開いた俳諧の座に宗匠として入り、歌仙を巻き、それらは上質の文学として今日まで残った。その間、芭蕉は俳諧連衆の中の誰かの家に泊まる。俳諧をする弟子たちは商人で、裕福な商人も多かった。旅を支えるのはそういう人たちだった。一茶も俳諧連衆の間を回って宗匠として指導していた。しかし著名だからといって多くを稼ぐわけではなく、芭蕉は旅の途上で亡くなり、一茶は江戸で生活できなくなって信州に戻っている。今日まで残っている名前の主は、忙しく働いたに違いないと思ってしまうが、どうやら働くことの意味が違う。働くとは、お金を稼ぐことではなかったのである。

―『學鐙』2023年冬号 特集「はたらくをひもとく」より―

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灯歌
木下 龍也(歌人)
特集
田中 優子(法政大学名誉教授・江戸東京研究センター特任教授)★
松村 圭一郎(岡山大学文学部准教授)★
嶋田 博子(京都大学公共政策大学院教授)★
西村 勇哉(NPO法人ミラツク 代表理事・株式会社エッセンス代表取締役)★
ナカムラクニオ(美術家・金継ぎ作家)★
平田 はる香(株式会社わざわざ 代表取締役)★
安田 登(能楽師)★
企画連載
岡本 健(近畿大学 総合社会学部/情報学研究所 准教授)
藤江 和子(家具デザイナー)
五十嵐 杏南(サイエンスライター)
髙宮 利行(慶應義塾大学名誉教授)
書評
渡辺 祐真(文筆家・書評家)
水上 文(文筆家 ・文芸批評家)
田尻 久子(橙書店 店主)
原 正人(翻訳家)
丸善出版刊行物書評
湯本 貴和(京都大学名誉教授・日本生態学会前会長)
加野 芳正(香川短期大学学長・元日本教育社会学会長)

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