学生探検記録:令和に生きる開拓者part2
~プロローグその2~
ユーコン川を下ったからユーコン河合(敬略)。
彼は、登山をやっている人なら知らない人はいないであろう、『PEAKS』という雑誌で記事を書いているライターである。
彼の存在は知っていたが、まさかケイビングの帰りに出会うことになるとは想像もしていなかった。
「今日は何をしてきたの?」「普段は大学で何をしているの?」
最初はそんな他愛のない会話だった。洞窟の魅力を私が話したり、ユーコンさんがこの近くに流れている神崎川(岐阜県山県市)について話したりしていた。探検部で川をかじっていた私は、彼の話に深く興味をもった。神崎川を含むこの地域の川は非常に綺麗で、危険個所が少ないという。最近の活動では専ら、多摩川などのドブにまみれた川を楽しい楽しいと探検していた私にとって、清流でキラキラしているという川を下るという話はとても魅力的だった。話は弾み、彼がこの古民家に来ている理由が、川を使って町おこしがしたいからだということを知った。
探検がビジネスになる。
大学三年生になり、就活に頭を悩ませていた私にとってその話は衝撃的だった。確かに、埼玉県の長瀞や京都府の保津川などにみられるように、川を使ったビジネスは存在することは知っていた。しかし、それはある程度観光業が盛んな土地だからこそ成り立ったものだと思い込んでいたので、川を使って町を盛り上げていくという話には驚いた。自分が大好きなことがお仕事になったらどれだけ素敵なことだろうか。そんな思いが募っていく一方、それでは食っていけないから、ちゃんと企業に就職すべきだ、というような葛藤の日々を送る就活生Aの私には、彼が幸せそうに今後の展望を話す姿には嫉妬心を覚えた。そんな時だった。
「君もやってみない?僕は川をつかったロングトレイルの道を引きたくてさ。君に山県市を探検して欲しいんだ。」
彼は私にそんな提案をした。私はすぐに首を縦に振った。関東探検連盟の渉外を務めているという話をし、全国の探検部が集まって探検できたら素敵な観光地をつくることができるかもしれないということを話した。
彼は少し微笑んで、「探検フェスをやるっていうのもいいんじゃない?」そう言った。
古民家で興奮気味に探検の話をしていた私たちは、幼いころに秘密基地に集まって、冒険の話をしていたあの頃のようにキラキラとしていて無邪気な笑顔だった。