Uber配達員の”危険の現実化”。異例の罪名に対する判断とは。
東京地裁 -刑事事件-
(初公判)
2022年1月26日(水曜)13:30~15:30 718号法廷
罪名:業務上過失致死
被告:A (保釈中)
<15:35~ 検察官、論告・求刑>
検察官- 本件は、被告人が有償の食品配達業を営む中に発生した事案であるところ、そもそも公道上で反復継続する者は、事故への類型が高い上、収益を得ているか、業務にあたる。(業務上過失致死の、「業務」に対する評価)
これは、スピードの出る「ロードバイク」ではより重い注意義務が課され、これを怠ったのであるから責任非難が重大であり、より厳罰を科すべきである。
さらには、雨天という自転車運転には、最もな悪条件下で、時速20~25kmと相当な速度で進行し、T字路交差点に差し掛かったところ、雨滴で前方左右が見えなくなっているのだから、一層注視して進行すべきだった。
こうした注意義務を怠っていなければ、事故の発生は容易に防げたものであるにも関わらず、被告人は減速する事もなく、前方左右を注視せずに、安全に確認せずに、あろう事か被告人はハンドルから手を離して運転した挙句に事故を起こしたものであるから、過失の程度は誠に重大であった。
それによって、被害者を死亡させたものであり、被告人による食品配達の自転車による運転の危険性が、最も悲惨な形で現実化した。
また、何ら落ち度もなく、突如として命を断たれた被害者の無念さは、察するに余りある。
被害者遺族も、自宅の目の前であったから、その度に心を痛めており、これの結果も甚大である。
被告人には、交通犯歴が3件あり、令和2年3月と同年8月には、指定速度違反等にも関わらず、本件を惹起したものであり、これも軽視出来ず、再犯の恐れもある。
また同様の配達員が増加し、交通法規を無視、或いは軽視した無謀運転についても、大きな社会問題となっており、自転車による悲惨な事故が多く発生している以上、一般予防の見地からも厳罰を以って望むのが相当である。
求刑:禁錮2年
<15:42~ 被害者参加人弁護士の意見>
被弁- 第1に「過失が重大」である事。被告人の運転する自転車は、正常な制動がかけられる状態ではない。被害者は横断歩道を普通に歩いていたのであり、何ら落ち度がない。本件は、被告人の交通の安全よりも、自己の収益を優先した著しく身勝手な行為である。
第2に「被害結果が重大」である事。被害者は78歳でありながら、疾患は見受けられないものであり、被害者及び御遺族の苦痛は甚大。
第3に「被害者御遺族の心情」について。本件現場は、自宅マンションの目の前であり、必ず目に入ってしまう。今後も一生続いていく。
第4に「求刑」について。裁判官には、適切な判断を求める次第である。
<15:45~ 弁護人、弁論>
弁護人- 被告人の過失は、刑務所に直ぐに収容する程のものではない。
無灯火での運転は危険だが、前照灯が故障したのは当日であり、何週間もの間放置していたものではない。
また、我々が自動車を運転する際に、直ぐにブレーキを踏めない。この事件は、我々が全く理解の出来ない事件ではない。
被害者代理人との間で、示談の成立が期待出来る。
被告人は、今後の責任と向き合って、今後運転する事はない旨述べており、再犯の恐れはない。
母親が監督する旨制約しており、社会内更生が見込める。
したがって、執行猶予付きの判決を求める。
<15:48~ 被告人、最終陳述>
(証言台の前に立って、鼻をすすり、嗚咽を吐きながら、)
被告人- ・・・すみません。自分のした事は、どれ程危険な行為であるか、今日改めて取り返しのつかない事をしたんだなと分かりました。本当に一生かけても償えるものではないと分かっていますが、・・取り返しのつかないものだと分かっていますが、・・・(息が荒い)・・本当に申し訳ございませんでした。
次回期日を指定の後、
<15:50 閉廷>
・総括
裁判中、Uber側の措置として、「被告人を配達停止措置を講じた。」、「配達員に安全に関するお知らせをした。」と述べられていましたが、果たしてこれだけで安全性が確保されるのか、甚だしく疑問を感じます。本当に、傍聴していて、それに尽きます。