ヘッジファンドにおける投資とは?~「トレーダー」から「インベスター」、個人投資家になり必要なサービスの開発へ~
皆さん、こんにちは。本日、私が代表を務める株式会社クリプタクトから、「アイデアブック」というサービスをリリースしました。
せっかくの機会ですので、私が前職で10年近く経験した、ヘッジファンドにおける運用とはどういったことをするのか、個人投資家になり感じたことなど、簡単に紹介し、なぜ「アイデアブック」を作ったのかお伝えできればと考えています。
ヘッジファンドにおける投資とは
私は、ゴールドマン・サックス・インベストメント・パートナーズというヘッジファンドで10年ほど運用を担当していました。ヘッジファンドの投資家と聞いたとき、皆さんはどういう投資を行っていると思いますか?大体持たれるイメージは「マーケットが開いている間ずっと、何台ものモニターをにらめっこして様々なアセットの価格の動きを見ながら、売買を繰り返している」というものです。いわゆる、「トレーダー」というものです。
このイメージは必ずしも間違っているとは言えないのですが、実はヘッジファンドにおける投資家とは「トレーダーであると同時に、それ以上にインベスター」でもあります。こう言われても、すぐにイメージを持てる方は少ないかもしれません。本来トレーダーとインベスターは明確に異なるものなのですが、どちらも日本語では同じ「投資家」として表現されることが多いためです。
ではその違いとは何か?それは例えば、「トヨタの株を200株買う」と意思決定するのがインベスターであり、「いかにこの200株を安く買ってくるか」がトレーダーである、ということで表現できます。両方とも投資においてとても重要な役割ですが、日本では「いかに上手に売買するか」が注目される傾向があり、投資家=トレーダーというイメージが非常に強いです。しかし、そもそもなぜトヨタを売買するのか?なぜ日産ではないのか?、といった判断を行うインベスターも重要で、特に機関投資家では、投資家=インベスターというのが当たり前です。投資経験者の方にとっては、インベスターとは「ファンダメンタル」に基づいて投資する人、と理解して頂いても、(正確ではありませんが)そう外れてはいません。
投資を理解するにはこの両者の違いを認識する必要があり、その上で両方を身に着けていくことが重要です。後述しますが、このコンセプトは新サービス「アイデアブック」でも強く意識していることでもあります。
少し前置きが長くなりましたが、私がヘッジファンドの運用担当者として投資判断を下す際に、最も重要視していたことをご紹介したいと思います。「インベスター」として、どういったアセット、銘柄に投資をしようと思うか、どういうポートフォリオを組もうと考えているか、その投資アイデアを練るときは、常に東京・香港のチームメンバーと議論して色んな見方を提供してもらい、自身の投資判断に活かしてきました。
例えば、私が以下のような投資アイデアを考えたとします。
・原油価格はしばらく低迷すると考えている。
・ある化学メーカーA社の製品は競争力があるため、販売価格の下落は当面なさそうだ。一方で、原油由来の原材料(ナフサ)の価格は大幅に下がることが見込まれるため、利益率の向上がこれから起きるだろう。その恩恵は非常に大きく、業績の大きな伸びが期待できる。
・そのためA社株を20億円分購入しよう。
このアイデアを自分の中で思い付いたら即実行して20億円分購入する、というのもなくはないのですが、一般的にはそういったプロセスは取りません。それは勝手に投資してはいけない、とかそういう権限的な話ではなく、「自身の投資アイデアに穴や抜けていることがないか考えたい。補強してもっといいアイデアになるならそうしたい。」といった理由からです。
そのためチームメンバーにこのアイデアを投げかけ、その反応を聞いてみます。上記のアイデアであれば以下のような反応があり得るでしょう。
A.このアイデアが取るリスクの根本は「原油価格の低迷」となるが、低迷すると思う理由は何か?
B.「原油価格の低迷」に期待するなら原油先物などをショート(空売り)するほうが、A社株を買うことでA社業績という余計なリスクを抱えるより、シンプルではないのか?
C.「原油価格の低迷」→「A社利益率の改善」は本当か?原材料価格の下落は間違いなさそうだが、販売する製品価格も下がってしまい、利益率が想定ほど改善しないリスクもあるのではないか?
D.原油価格が低迷しているということは、世界的にも景気がよくない可能性が高い。その状況でA社の製品の販売数量は維持、向上できるのか?利益率が改善しても数量が減るなら業績改善効果は限定的になるのではないか?
E.20億円という金額は、A社株の取引出来高(流動性)を考えて適切なレベルか?
F.今の株価が売買するのに適切な水準か?
G.上記の様々なリスクを回避、低減(リスクヘッジ)できるようなアイデアはないのか?
他にも色々な質問があり得ます。こういった議論を通して、自身のアイデア、仮説に穴や抜けがないか確認しながら、アイデアが補強されていきます。あるいはA社に対する理解が根本的に間違っていてアイデアの練り直しが必要になることもあるでしょう。これは経験上言えることなのですが、「様々な人たちの意見やアイデアを聞くことで、自身の投資アイデアは必ず補強」されます。もちろん最終的に投資判断を下すのは自分自身となりますが、そこに至る過程での見落としを1つでも減らすためにも、他人の意見はとても重要です。まさに「3人寄れば文殊の知恵」です。
なお、上記のアイデアで議論を重ねると例えば下記のような結論を得たりします。
・原油低迷に期待して原油を売買するより、A社業績改善によるA社株のアップサイドのほうが十分に大きいことを確認。
・一方で、A社製品の販売価格が直接下がる可能性は低そうだが、景気低迷によって販売数量の減少、結果として価格の下落というシナリオは十分あり得そうだ。
・そこで、同じ化学メーカーの中で、より競争力が低く、販売価格の維持が困難な製品を販売し、かつ景気低迷による需要減少リスクを等しく持っているB社を見つけ、B社株式を10億円空売り(ショート)することにした。
・これにより、仮にA社で同様のことが起き、A社の株価が期待しているほど上がらなかったとしても、B社株式の空売りで収益を上げることができ、このリスクを回避(ヘッジ)することができそうだ。
単純にA社株式を買う、というアイデアから、様々な意見を聞いてより深く考えることで、A社株の買いとB社株の空売り、の組み合わせで考えることになりました。もちろん、最終的に当初のアイデアから変わらないこともあれば、変えたことで結果的に裏目に出ることもあります。しかし、重要なのは「より深く考えて納得して投資をする」ことです。継続してこれを行うことで、投資の勝率を少しでも改善していくことができます。
個人投資家になって感じたこと、そしてアイデアブック作成へ
私がヘッジファンドを離れ、個人として投資に向き合ったときに感じた最初の壁は、まさにこの「投資アイデアを十分に議論する機会がない」ということでした。結果的に間違った意見や未来予想でも構いません。ただ色んなシナリオがあり得ることを、他人の意見を見聞きして学ぶことは、投資においてとても大切なことです。そしてその経験を通して、投資が成功しても失敗しても、さらにその次の投資に役立てることができます。
「アイデアブック」は、私がヘッジファンド時代に普段行っていたことを個人でもできるようにしたい、そしてそれ以上の体験ができるようにしたい、と考えて作ったものです。
投資という以上は、どの銘柄をどの時点(価格)で売買するか?という具体的な話は不可欠です。さらに複数の銘柄を組み合わせるなら、その割合という観点でどれくらい売買するか?という数量も必須となります。これにより、投資アイデアをただ議論するだけでなく、各アイデアが実際にどういう成績だったか記録として残すことができ、たとえ見ず知らずの人たちでも、過去投稿されたアイデアを見ることで、どういった考えに基づいてアイデアを組成し、どういう実績を残しているか、といったことがわかります。そうすることで、その人の投資の考え方がわかり、自身にとって参考にしたいと思えるかどうかの判断をすることが可能となります。
こういった意見提供者(投稿者)の考え方の傾向や過去実績を正確に把握することは、私がヘッジファンド時代においても当然できなかったことです。あらゆることを正確に予測できる人などこの世に存在しません。誰でも得意なこと苦手なことがあるのと同様に、精度の高い予測ができる業界やテーマなど、人によって当然偏りがあります。様々な意見を聞くことはあっても、その意見する人たち自体をどう評価するか、客観的な指標に基づいて行うことは非常に困難でした。「アイデアブック」ではそれを可能にすることで、見知らぬ人達とも様々な議論を行いやすくなったと考えています。
アイデアブックとは
「アイデアブック」は、合計約4,000種類(リリース時)の株、為替、仮想通貨を対象として、それらを組み合わせた様々な投資アイデアを投稿することができる投資SNSです。投資アイデアとは、例えば、「トヨタ200株買って、金(ETF)を空売りする」というような具体的な取引内容を指しています。この投稿されたアイデアは実際の価格で時価評価されるため、投稿内容の客観的な成績が把握でき、アイデアの解説と共に、時価評価による過去実績を見ながら投稿者自身の評価も行うことができるサービスです。
私がヘッジファンド時代の投資経験としてこれまで書いたことは、投資をしたことがない人にとっては、実感の湧きにくい話だったかもしれません。しかし、「アイデアブック」は投稿したアイデアが時価評価されることから、投資の疑似体験としても使うことができます。投資をしたことがない人には、まずはお金をかけずに体験を通して投資を学習する機会としてご利用頂けます。すでに投資をしている人達には、もっと色んな人と意見交換して投資アイデアをブラッシュアップし、インベスターとしてのスキルを磨く場として活用して頂ければ、と考えています。
「アイデアブック」は様々なタイプの投資にも対応できると考えていますが、特に意識しているコンセプトは「トレーダーからインベスターを目指そう」です。前述の通り、投資において「トレーダー」と「インベスター」、両方の視点が重要である一方で、これまでに「トレーダー」向けサービスは数多くありますが、「インベスター」向けサービスはそう多くありません。「アイデアブック」は「インベスター」向けを強く意識した初めてのサービスにしたい、と思っております。
「アイデアブック」の使い方などはチュートリアル動画も用意しているので、ぜひそちらもご覧ください。私もアカウントを作って積極的に投稿したり、皆さんの意見を参考にしてコメントやり取りしたいと考えています。皆さんからも、私のアイデアに対しての質問やコメントもお待ちしています。そしてもっと色んな機能を追加した、総合的な投資サービスを目指したいと思いますので、忌憚のないご意見をぜひよろしくお願いします!
アイデアブックはこちらから
■「アイデアブック」チュートリアル動画
#1. アイデアブックとは
#2. アイデアブックでできること
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