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歴史的にもバレンタインは自由 ~参加しないも何を贈るもよし~【学校・職場】
近年、バレンタインは女性が男性にチョコを渡す日という固定観念は薄れ、性別問わず贈り物で日頃の感謝を伝える日と変わってきました。
チョコ限定なのは菓子メーカーの策略という話が広まったこと、一部で女性が関わる全男性に「義理チョコ」を贈るのが義務化していたことへの反発など要因は様々です。義務から感謝になったのは良い傾向だと思いますが、これが「本来のバレンタインデーになった」のかというと必ずしもそうではない、というか歴史的にバレンタインデーは「本来の姿」があまりない流動的な行事です。
学校で周りの子たちが盛り上がっていても、人間関係も金銭事情も人によって違いますから、どうバレンタインに関わるかは個人の自由です。歴史的にも文化的にもそう言えるということを解説します。
1.バレンタインの世界史 ~移り変わる愛の行事~
バレンタインの起源は、古代ローマの女神ユノ(Juno:6月Juneの語源でありジューン・ブライドの起源となった)を祀る祭りにあるとされます。男女の出会いの場になっていた祭りが、496年教皇により聖バレンタインを祀る日に置き換えられます(文献①p.38)。聖バレンタインは3世紀頃、婚姻の禁止により悲しむ兵士たちのために内緒で結婚式を行い、それを咎めた皇帝に従わず処刑されたという、命を賭して愛を守った伝説が残る人物です。
バレンタインデーは愛を捧げる日として、13世紀頃からヨーロッパ各地の宮廷に広まり、贈り物やパーティ等も行われていたようです。『ハムレット』(1601頃)などシェイクスピアの作品にもバレンタインデーは愛の日として描写されています(文献②)。こうした作品を通して一般の人々にもバレンタインデーの認識は広まっていきました(文献①p.144)。
資本主義の時代となった18世紀、商業資本は新聞や雑誌などメディアを用いてバレンタインデーを印象付け、お菓子・花・香水など贈り物の習慣を普及させました。ただし、現代日本のチョコレートのような特定商品への偏りはありませんでした。1840年にイギリスで切手を用いた郵便制度が始まると、バレンタインカードを贈る習慣が広まりました。贈り物や郵便で愛を伝える習慣は、アメリカに伝わって1840-50年代に若者の間で急速に普及しました(文献③)。1920年代頃には子どもたちが教室でバレンタインカードを交換するようになりました(文献④、⑤)。バレンタイン文化は20世紀にアメリカを通して世界各地に伝わることとなりました(文献①p.201)。
以上、歴史をざっと述べてきましたが、述べてきたことも継続的に発展したわけではなく流行り廃りの波や地域差もありました。経緯は複雑ですが、歴史上唯一正しいバレンタインのあり方など存在しない、ということは言えます。
2.バレンタインの日本史 ~チョコレートと贈答文化~
日本のバレンタイン文化は製菓メーカーが主導しました。1930年代のモロゾフ、50年代の不二家、60年代の森永製菓などいくつかのメーカーが展開しましたが当初は盛り上がらず(文献⑥)、ロッテなども参入した70年代に急速に盛り上がりました。早くから小中学生にも浸透したことが特徴で、学校で女の子が好きな男の子にチョコを贈ることが流行しているという新聞記事も残っています(文献⑦)。女性から男性に贈ると限定されたことは日本の特徴で、それに伴い1か月後にお返しをするホワイトデーが80年代後半に広まりました(文献①p.227)。また、80年代に職場の同僚男性に感謝を示す義理チョコが広がり(文献⑧)、一部職場での強制が問題となりました。行事の質が、愛の日から人間関係の維持という意味へ変化してきたのです(文献①p.229)。
2000年代後半には、同性の友達にチョコを贈る友チョコが広まりました(※1)。2022年の調査では、バレンタインデーに何かを贈る中学生の81.1%が同性に、60.5%が家族に、34.1%が異性に贈るという結果も出ており、女性から男性に限った行事ではなくなりました(文献⑨)。また、贈る物に関して、2021年全年齢対象の調査で何かを贈った人の70.0%が市販のチョコ、11.1%が手作りチョコ、12.7%がチョコ以外の菓子、7.6%がその他のプレゼントを贈ったと回答しており、チョコが依然として一般的なものの必ずしもこだわらない傾向も見られます(文献⑩※2)。ただし、同調査ではバレンタインへの関心は薄れつつあることも示され、贈り物をしたりもらったりした人の割合は2013年の55.0%から2021年には43.6%と徐々に低下しています。
おわりに. 義務ではなく想いや感謝を伝える機会へ
2022年バレンタインの贈り物をする理由を尋ねた調査では、「日頃の感謝を伝えるため」が71.5%で、「好意を伝えるため」の35.1%を大きく上回っています(文献⑪)。義務から想いや感謝を伝える機会へ変容したことは良いことだと思います。(こちらの記事もご参照ください)
バレンタインデーは流動的で商業的な行事です。強制することなく、楽しみたい方は楽しむ、過度に参加を煽ることも咎めることもないのだと思います。
※1 国会図書館サーチでの検索では、2003年から関連の記事が見られ、2007年から本格的に関連書籍が登場する(2023年2月筆者調べ)。
※2 同社の2007年調査では、何かを贈った人の73.6%が市販のチョコ、15.9%が手作りチョコ、10.2%がチョコ以外の菓子を手作り、8.3%がチョコ以外の菓子を購入、10.0%がその他のプレゼントとなっている(文献⑫)。
【参考文献】
①浜本隆志『バレンタインデーの秘密:愛の宗教文化史』平凡社、2015年
②小田島雄志訳『ハムレット』 白水社、1983年
③B. K. Geiger『“In praise of Bishop Valentine”: The creation of modern Valentine's Day in antebellum America』The College of William and Mary、2007年
④Alexandra Deselms"Valentine’s Day"Meeteetse Museums HP、2022年2月15日.https://meeteetsemuseums.org/valentines-day/ (参照 2023年2月13日).
⑤Katherine Roth”Earnest or playful, that Valentine’s card has a history”AP NEWS、2023年2月8日. https://apnews.com/article/valentines-day-cards-history-1ed39b67dfb913b53e3700e415b87779 (参照 2023年2月13日).
⑥山田晴通「『バレンタイン・チョコレート』 はどこからきたのか (1)」『東京経済大学人文自然科学論集』124、pp. 41–56、2007年
⑦関沢英彦「記号としての心臓:なぜ, 血液のポンプが, 愛の象徴になったのか?」『コミュニケーション科学』37、pp. 49–79、2013年
⑧山口睦『贈答の近代:人類学からみた贈与交換と日本社会』東北大学出版会、2012年
⑨TesTee Lab「学生のバレンタインに関する調査【2022年】」2022年. https://lab.testee.co/valentine_2022 (参照 2023年2月13日).
⑩マイボイスコム「バレンタインデーに関する調査(第17回)/アンケートデータベース(MyEL)」2021年. https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=27212 (参照 2023年2月13日).
⑪Gunosy「2022年のバレンタインギフトの理由は『日頃の感謝を伝えたい』が7割超、『自分』に贈る人は26.3%|ECのミカタ」2022年2月4日. https://ecnomikata.com/ecnews/33596/ (参照 2023年2月13日).
⑫マイボイスコム「バレンタインデーに関する調査(第4回)/アンケートデータベース(MyEL)」2008年. https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=11605 (参照 2023年2月13日).
★本内容の動画版はこちら
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