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学校とシャーペンの歴史 ~登場から1980年代の普及~【シャーペンの教育学③】

 小学校でのシャーペンの扱いについて2回ほど記事にしてきました(第1回はこちら)。今回はシャーペンの歴史を、登場から普及、そして多くの小学校で禁止に至るまで見ていきます。

1.高級品から普及へ

 シャーペンは1870年代に輸入され、日本国内でも製造されるようになります。1915年、後に家電メーカーシャープ創業者となる早川徳次が「早川式繰出鉛筆」として実用新案を取得、改良を続けながら「シャープ・ペンシル」として発売されます(文献①)。
 しかし、戦前までのシャーペンは鉛筆のような太い芯を入れるもので、芯を一本ごとに付け替えねばならず、芯のつくりも鉛筆と同じだったので強度も低いものでした。
 戦後、1960年に刃物を凶器とする犯罪の多発が問題視され「刃物追放運動」が起こります。それまで鉛筆は切出しナイフで削っていましたが危険とされ、鉛筆削り器(シャープナー)が一気に普及することとなります(文献②)。特に17歳少年による議員刺殺事件は大々的に報じられたことから、子どもからナイフは遠ざけられることになりました(文献③)。それと同時に、削りがいらない筆記具としてシャーペンも注目されます(文献④)。同年、ぺんてる(1971年以前は大日本文具)が現在のシャーペンのように後ろを押すだけで芯を出せるノック式シャープペンを発売し、一般に普及していきます(文献⑤ p.25)。

 とはいえ、まだシャーペンは比較的高価で洒落たアイテムでした。「昔は高級品で盗まれたから」ということが禁止の理由としてたまに挙げられますが、盗難が禁止のきっかけになった学校もあるでしょう。
 決まりが新たに作られるきっかけに多いのが、①何か問題が起こったので今後その問題発生を防ぐために作る、②新しく目的が定められたのでその目的を達成するために作る、の2パターンです。何かを禁ずる決まりは①が多く、きっかけとなった「問題」はその時期の社会全体である程度共有されていることが多いです。ただ、決まりは残っても、きっかけは記録として残らないことが多く、次第にそれを知る人がいなくなるということもよく起こります。シャーペン禁止もそうした決まりの1つである学校もあると思われます。
 なお、実際のシャーペンの価格ですが、ぺんてるの「シャープ・セブン」(1966年グッドデザイン賞)は300円でした(文献⑥)。なお、69年の三菱鉛筆の価格は1本15円でした(文献⑦)。
 70年代、各社はシャーペン・替え芯をCM等で積極的にPRしていきます。コーリン鉛筆の「ゴールド芯」(1972年発売:30本入り200円)は教室において、ゴールド芯1本=他の替え芯2本というレートで交換されていたという逸話も残っています(文献⑧p.64)。 

2.1980年代の価格破壊による普及、対応できない教育

 1977年にぺんてるが保有していた折れにくい芯の製造するための特許が切れます。1980年にはプラスチック製の「100円シャープ」がゼブラから発売され、各社が安価な商品を展開していきます。シャーペンの販売本数は急激に増加し、一般的な筆記具となりました。なお、鉛筆の価格は79年には1本30円でした。
 1990年頃には、予備校の模擬試験の筆記具を調査すると、100人中98人がシャーペンを使っていた(文献⑨)ほど、中高生には一般的なものとなりました。
 文房具メーカー側も、シャーペンの小学校での普及を見越した商品展開をしたこともありました。パイロットの「スクール・グリップ」は、理想の筆記角度である60度を保ち、手指の三角形がうまくできるようグリップの太さや形を子どもの手に合わせた、低・中・高学年用の3種類がある商品です。1995年にグッドデザイン賞を受賞しましたが、教育現場の反応は今ひとつに終わり、普及せずに廃盤となりました。

 シャーペン製品の改良も進みました。看護学生への調査では、1987年にはいなかった持ち手にラバーが付いたシャーペンの所有者が、93年には35%に達していました(文献⑩)。
 しかし、シャーペンの性能が向上してもなお、小学校におけるマイナスイメージは払拭されていません。2000年代の教員に対するアンケート(文献⑪)では、禁止の理由は「折れやすい」が最も多く、「薄い」「字が小さい」といった実際の文字に関する点、「指導法がわからない」「教科書に記載されていない」といった使い方を指導できないという点、「手遊びになる」などが挙げられています。
 なお、「教科書に記載されていない」という点について、「書写」の教科書を発行する会社にシャープペンシル指導を記述しない理由を訪ね、7社が回答しています(文献⑪)。「鉛筆の代替えなので、改めて記述する必要がないと判断したから」「文字を書くことの基礎基本の徹底という点からは不適切な用具であるから」「鉛筆と執筆法が異なるので、使用させて混乱することを懸念したから」「シャープペンシルの指導法が明確になっていないから」などが挙がっていました。
 
 シャーペンが子どもに普及し始めて40年余り(2021年現在)、シャーペンは学校教育に位置づけられないまま、今なおそれぞれの解釈で禁止とされ続けています。
 鉛筆も古から学校で使われていたわけではありません。次回は、学校における筆記具の決まりを考える手がかりとして、学校と鉛筆の歴史を見ていきます。

【参考文献】

①シャープ株式会社『シャープ100年史 「誠意と創意」の系譜』2012年
②岩本努・渡辺賢二・保坂和雄『ビジュアル版学校の歴史2 文房具・持ち物編』汐文社、2012年
③富岡卓博・平野享子「幼児期のはさみについての研究 ―現状分析と課題による教育はさみ試作―」『岐阜大学教育学部研究報告 教育実践研究』8、pp.55-74、2006年
④日本シャープペンシル工業会『シャープペンシルのあゆみ』1995年(note記事:https://note.com/pentel_sharppen/n/nc2bcdeee7b60:ぺんてるシャープペン研究部、2020年、参照 2022年3月6日)
⑤ぺんてる株式会社『社会環境報告書2007』2007年
⑥土橋正「グッドデザイン賞から見るぺんてるのデザイン哲学(後編)」2015年:http://pentel.blog.jp/archives/18737362.html(参照 2022年3月6日)
⑦三菱鉛筆「えんぴつなんでもQ&A」:https://www.mpuni.co.jp/special/qa/history.html(参照 2022年3月6日)
⑧初見健一『まだある。今でも買える”懐かしの昭和”カタログ ~文具・学校編~』大空出版、2013年
⑨添田晴雄「筆記具の変遷と学習」『近代日本の学校文化誌』p.148-195、思文閣出版、1992年
⑩宇土博「改良型シャープペンの頸肩腕部の負担軽減効果に関する研究(第1報):シャープペン書字による頸肩腕障害の罹患状況と頸肩腕部への負担要因に関する検討」『労働科学』70(4)、pp.145-159、1994年
⑪鳥宮暁秀・杉崎哲子「シャープペンシル指導の体系化への提言」『静岡大学教育学部研究報告 教科教育学篇』36、p.41-52、2005年

・越智康詞「校則の社会学的研究」『信州大学教育学部紀要』83、p.47-58、1994年
・廣田義人「日本におけるシャープペンシルの製造と発明・考案 (1960 年代前半まで)」『大阪大学経済学』64(2)、 p.12-31、2014年
・石井隆憲「『エンピツまわし』の研究 ―伝播の条件―」『日本体育学会大会号』41、p.826、1990年
・学生編集委員会(WG0)「未来を描くシャープペンシル」『精密工学会誌』81(1)、pp.34-37、2015年


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