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結末じゃない、荊棘でも道は続く「荊棘の道は何処へ」イベスト感想【プロセカ】

 プロセカ史上最も前もって読者に覚悟を求めたイベスト。深く重いものをぼかさず描いて突き刺してくれて(もう読んでる時は絶句して頭ぐるぐるで改めてこうして感想を書く時も腹が痛んで、瑞希と絵名が置かれた状況は全く"よく"ないんだけど、メタ的な話としてこの物語をド直球に出してくれたことが)よかったです。モブもフルボイス、2Dモーション、8話前警告、アフターライブ…あらゆる表現でエグられました。

 先延ばしに先延ばしを重ねた絵名に「話せずにいたこと」を伝える機会、"気づかれるかもしれない"文化祭を機会に伝えようと考えますが、他人に自分の存在を拒絶されてきた過去の言葉がよぎり決断しきれません。

 自分が生きるために行動すべきであり、動かないなら動かすという姿勢のカイトと、無理に動かせば崩れかねないから、本人の決断を見守るしかないという姿勢のメイコ。少なくとも普遍的な正解は存在しない、難しい対立です。

 中学時代屋上で、その辛さを最も共有した人物と言える類。伝える決心をしたけど、関係が変わってしまうこと、「そうなったってボクが思っちゃう」のが怖い、耐えられない、「ワガママだよね、こんなの」という瑞希の想いを最大限誠実に受け止める類がよかったです。「その関係が大事であるほど変わってしまうのは怖いものだ」と恐怖を理解し、もどかしいけど仮初の励ましはせず正直に「僕に、その恐怖を消すことはできない」、ただ「瑞希の心が守られることを」願っているという自分の想いを伝えます。最後の一押しになり、文化祭の後に話すことを絵名に伝えます。

 文化祭がまたすごく楽しいのが、後の辛さと対比的に効いてくるんだこれが。それにしても、絵名の本気のイカ焼Tシャツ似合い過ぎです。この赤色が似合うのか、文字デカのダサT全般が似合ってしまうのか…。サイストのイカ焼きまふゆもよかった。
 3-Dはワンツー揃い踏みで本格ショー…ではあるのだけど、2年司のロミオとノリがあんまり変わらないぶっ飛びぶり。類もクラスメイトと大盛り上がりで演出を考えたんだろうなと思います(ここも瑞希と対比的で…)。

本人は不服だろうが、正直とてもかわいい。

 瑞希のクラスの謎ときに挑むニーゴ。平然と解いていくまふゆに対して、基本的には少し察しのよくないところ("リラックスティータイム"での奏の不自然な質問に対する反応など今までも描かれてきました)、でも瑞希の性格からメタ的に答えを当て(冬弥の機転で正解にはならなかったけど)相手のことをよく考え理解しているところ、東雲絵名という人物がよく表れています。

 楽しかった文化祭も終わり、ついにその時が来ます。「自分のことが話せないなら、本当の友達になんてなれないのに」(シークレット・ディスタンスより)と思い続けてきた瑞希にとって望まぬ形で。

 困っていたクラスメイトを助けることになった瑞希、先に屋上で待つことになった絵名。屋上にやってきた男子達が瑞希の噂話を始め、絵名を見て軽口で絡んできます(生徒Aの言葉・人を小馬鹿にする姿勢は瑞希にも絵名にも失礼であり言語道断です。相手が知ってる知らないの問題ではない)。

 ”偶然気づかれてもそれでいい"なんて本当は思えていなかったこと、絵名が驚く"素の"表情が(絵名はそんな人たちと違うと思っていても)自分のことを知って変わってしまった人たちと重なってしまうこと、恐らく瑞希自身も気づいていなかったと思われます。声にならない声を出し、"崩れてしまう"思い出がフラッシュバックし、逃げ出してしまった瑞希の反応は明確に衝動的(医学的なことは軽く言えませんがトラウマ的)なものです。

 「捕まえてもなんて言ったら」わからなくても、逃げる瑞希を捕まえる絵名。泣きながら絞り出す瑞希の吐露がとにかく辛い。絵名は優しいから何もなかったみたいに話してくれる、みんなは変わらないと"思わせてくれる"、その優しさがみんなの中に生まれることがどうしようもなく嫌。そう"思ってしまう自分"が悪いんだから「ごめん」といって去るしかないという、聡い瑞希だからこそ優しい反論も事前に封じてしまう頑なに心を閉ざしたロジック。「向き合えなくて」は絵名にも、自分にもでしょうか。

 とても辛い出来事でした。しかし、この出来事は2つの点で"最悪の結末"ではありません。まず「最悪」だったか、これは未来も踏まえないと何とも言えません。瑞希が屋上で絵名に話せたとして、「気づかって変わらないようふるまってくれる優しさが嫌」とまで言えたかは、今回見えた瑞希が抱える心の傷の深さを考えると難しいと思われます。あまりにも大きな傷を伴いましたが、衝動的に伝えられたことは大きいです。
 そして、絵名は瑞希の性別だけでなく、学校での扱い、瑞希がなぜ伝えられなかったかを、一端ですが瑞希に対する心無い"生の声”で知ることになりました(読者もまだまだ一端しか見えてないんですよね…)。瑞希の根本には「自分のことを知ったら誰でも変わってしまう」という自己そして他者への根深い不信感があります(それを全く他責思考しない優しさ…"生まれた罰"なんてあるはずないんだ…)。これは今までの経験で築かれた認識であり、この不信感と向き合わなければ瑞希の心はどこか閉じたままです。過程として最悪でも、瑞希が語れなかったであろうことを知れたこと、これはまた心から笑い合うために大事なことを得たと思います。

 そして「結末」ではありません。いくら「終わった」と思っても、荊棘だらけでも道は続きます。瑞希本人は全くそう思えなくても、思い描いた形とはまるで違う衝動的な言葉でも、絵名に自分の辛さを伝えた、頑張って前に進んだのです。
 絵名も「ちゃんと受け止め」られなかったと思っているでしょうか(客観的に見て精一杯だったと思います)。屋上の自分の受け止めが違ったら、追いかけた先で何か言えたら、「でも」「そんなこと」の先が言えたら変わっていたか、あるいはもっと長いこれまでも含めてか。いずれにしても、まず「私は、なんで…!!」と自分を後悔した優しい絵名なら、諦め悪い絵名ならこのまま終わらせないはずです。「知ったくらいで、ずっと優しく気づかって心の底から笑い合えなくなるなんて思ってんの?なめんな!」なんてガツンと言うのも絵名らしいと思いますし、まふゆに対する奏のような「救う」覚悟を示すもあるでしょうか(どうすればいいのか本当にわからない)。どんな道にしても荊棘だらけで難しい難しい道ですが、また笑い合える日々を掴むための意地を、絵名の行動を見届けたいと思います。

 僕らが離れるなら 僕らが迷うなら その度に何回も繋がれる様に

「ごめん」じゃなくて、またいつものやり取りをしよう。

画像出典:『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』イベントストーリー「荊棘の道は何処へ」2024年、
SEGA・Colorful Palette・Crypton Future Media
◆公式youtubeはこちら

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がくまるい@教育学部助教Vtuber
専門である教育学を中心に、学びを深く・分かりやすく広めることを目指しています。ゲーム・アニメなど媒体を限らず、広く学びを大切にしています。 サポートは文献購入等、活動の充実に使わせて頂きます。 Youtube: https://www.youtube.com/@gakunoba