互いの"逃げられない"覚悟を知る父娘「Knowing the Unseen」イベスト感想【プロセカ】
ニーゴの仲間の描写も極力サイドストーリー(みんなが絵名をどう見ているかも凄い良かった)に回し、徹底的に東雲絵名と父東雲慎英を描いた物語。決めた道でしか生きられない者の苦悩と覚悟、刺さりまくりました。
画家の娘に生まれ自然に絵が好きになって、自然に自分も画家になりたいと思っていたのに、高校受験になって突然「画家になれる才能はない」と言われた。絵名の立場なら、突然突き放されたと思う方が自然です。しかし、父の想いは娘に苦しい道を歩んで欲しくないんだろうな、でもめちゃくちゃ不器用なんだろうな、とは以前からの描写でも想像していました。今回、娘への想いは想像通りというか、それ以上だったんだと感じました。(そして父子そろって一つの道しか生きられない不器用な者たちを支える東雲母の偉大さを感じました)
美大受験を迷う絵名に対して、絵画教室の雪平先生は「課外授業」として父の個展の手伝いを提案します。とはいえ、行くのは絵名と先生だけ。父の絵と、そして父と向き合ってほしいと思いつつ、「授業」や「スタッフ」の体裁は絵名を少しでも行きやすくする計らいでしょうか(実際、当日仕事は早々に自分が引き取って、じっくり絵と向き合う時間を取らせています)。
絵と再び向き合い始めてからも避けてきた父の作品を見て、改めて自分が「持ってない」側だと思い知らされる絵名。それは分かっていたことだから気乗りしなかったけど、今は向き合うしかない。
父の絵と向き合う中で、絵につらさ・苦しさを感じます。今まで見てきた父からは考えられなかった「絵を描くことが辛かった」、この感じた想いは雪平先生から語られた過去で確かなものになりました。父が誰からも評価されていない時期があった、ただ聞いただけでは信じられない話でも、絵としっかり向き合ったからこそ本当なんだと感じられました。
個展の帰り、父に尋ねると、絵を辞めようと思ったことは本当でした。そして絵名が最も惹かれた牡丹の絵、苦しみの中に感じ取れた"救い"の存在は、生まれた自分だったことを知ります。娘の為に売れない画家は辞める、だから最後にと全てを込めて1枚を描き上げた時、自分は一生筆を折ることはできない、絵のない人生を歩むことなど出来ないのだと気付いた。父の話で絵名は気づかされます、ああ、自分も同じなんだと。
ただ、この話をもって父が「持ってない」側だったとは言えないと思います。実力が無ければ評価はされませんが、実力があっても評価されるとは限りません。全く売れなかった絵描きが10年少しで「現代の巨匠」と持て囃されるくらい人々の評価というのは分からないものです。才能があっても評価されるかはわからない。そして絵名には、少なくとも覚悟なしで進めるほどの才能はなかった。自分と同じかそれ以上の苦悩を味わせたくない、自分の道が開けたのは奇跡のようなもので再現性がなく、一生その苦しみの中で彷徨うかもしれない。大切な娘だからこそ、同じ道には進んでほしくなかったのでしょう(だがそれを伝える言葉は不器用過ぎだったのですが…)。
しかし、娘が父の覚悟を知らなかったように、父が知らない所で娘は成長していました。画家の娘だから画家になれそうと軽く考えていた頃から、心を粉砕されまくり、やっと必要とされる場所を見付けて、また心を粉砕され…。それでも絵からは離れられませんでした。かつては悔しくて絶対言いたくなかった「父の影響」も、もう否定しない、どうでもいい。絵以外の生き方は考えられない、絵から"逃げられない"、分かってしまったから覚悟するしかない。辛い現実を知った上で、絵を描き続ける道を進む。娘の覚悟を知った父の「好きにしろ」がいいですね。
見えなかった(Unseen)互いの想いを、覚悟を知って、もちろんこれをもって過去がチャラには絶対ならないのだけれども、一つ分かり合えたのは確かだと思います。
プロセカで描かれるであろう物語からおそらくずっと先の未来、一番苦悩しそうなのは絵名だと思います。ニーゴのイラストレーターとして活躍し続けても一人の画家として評価されなければ「ニーゴに食べさせてもらっている状態」を絵名は良しとしないでしょうし、画家として名が広まっても東雲慎英の娘としてでは納得しないはずです。「美人すぎる天才二世画家」とか安いフレーズをつけられて「何にも分かってない、私の絵なんか見てない」と苦しみつつ「私の"絵"から目が離せないようにしてやる」ともがき続ける…なんて姿が想像できます。確かなのは、どんな逆境でも絵名は絵を捨て去ることはない、ということです。
絵名は奏に「こんなにみんなのために頑張っているんだから、奏自身が幸せにならなきゃ、絶対おかしい」と言いましたが、絵名も、もがいた先、というかもがく中でも幸せであってほしいです。吹けば飛んでしまう脆さを持つニーゴの面々に真っ直ぐ向き合う優しさもですが、絵という点で言えば、絵について知らない・出来ない人に対して、優しく接しながらできるだけ魅力を感じてもらおうとする姿勢(そしてそれを実現する能力)があるも絵名の大きな魅力です。絵名に救われた人、そして救われる人が沢山いる…そんな絵名自身が幸せにならなきゃ、絶対おかしい、と思います。
画像出典:『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』イベントストーリー「Knowing the Unseen」2024年、
SEGA・Colorful Palette・Crypton Future Media
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