金曜ロードショーの話。
この季節になると、ジブリだ。
金曜ロードショーは毎年、何週連続ジブリと大々的に打ち出して数々の名作をテレビで放映する。何度も観ているはずなのに「そうか、今日か」と思うとついチャンネルを合わせてしまう。
大のジブリ好き、とは恐れ多くて名乗れないが、ジブリ作品は好きだ。1番を選べと言われれば「もののけ姫」と「ラピュタ」で2,3日悩める。「千と千尋」も捨てがたい。
昨年、世間がコロナという未曾有の事態になり、ほんの少しの落ち着きを見せた頃、映画館でジブリ作品を上映するというイベントが行われた。
一も二も無く飛び込んだ僕は「風の谷のナウシカ」を生まれて初めてスクリーンで、劇場で観ることが出来た。
名作は何度観ても面白い。新しい発見もある。画面が大きいのはやはりいい。あの大きな四角形の中に、一ミリたりとも退屈な場所はない。
ただ1番驚いたのは客席であった。
先述した金曜ロードショーでもナウシカは何度も放映されている。遠足のバスでVHSのナウシカが上映され、車酔いと戦いながら必死に画面に食らいついた結果、王蟲の大群が登場するあたりで到着してしまった苦い思い出は誰しもあるはずだ。おいおい。風の谷はどうなってしまうんだ。帰るまでが遠足なのに、帰っても風の谷はまだ混沌のままだ。先生、ナウシカくんが居ません。
なので恐らくではあるが、客席の99%は「一度はナウシカを見たことある人」で埋め尽くされてるはずなのだ。
なのにだ。上映が終わり、客席がじわっと明るくなって驚いた。皆、泣いていたのだ。
そこにはナウシカ由来だけではない涙もあるのかもしれない。コロナという大混乱の中(結果としてそれはまだ続いているのだが)で、映画館に行くと言う些細な日常を取り戻せた安堵なのかもしれない。
だとしても、言わば客席のほとんどに「ネタバレ」している状態でこれ程までの感動を産み出せた事は凄いとしか言い様が無い。恐るべし、ナウシカよ。先生、ナウシカ君凄いです。
ジブリの金曜ロードショーと聞くと思い出す話がもう一つある。高校の国語の先生、タカハシ先生だ。
タカハシ先生は変わり者だった。ぶすっとした無愛想な顔で、別段生徒と仲良くなるタイプの先生でもない。かといって寡黙でも無く、冗談や軽口を授業中に挟むタイプの先生でもあった。一言で言えば掴みどころの無い人だ。
一度、クラスのほとんどが寝ている国語の時間があった。その時、タカハシ先生は突然、黒板にミッキー描き出した。
「ミッキーは、たった2手間でミニーちゃんになります。リボンとまつ毛をね、描くんですよ。これ、内緒ね」
意味が解ったのはその期の期末テストを受けた時だ。
「問.左記のミッキーマウスを、ミニーマウスにせよ」
あの時授業で眠らなかったものだけが、ミニーちゃんを生み出し点数を貰えたという仕組みだ。もはや暗号のそれに近い。
前置きが長くなったが、そんな変わり者のタカハシ先生には、金曜ロードショーに対するとある楽しみ方があった。
例えば「もののけ姫」が金曜ロードショーでオンエアされるとする。
タカハシ先生はその夜、自宅にある「もののけ姫」のDVDを引っ張り出し、オンエア開始と同じ21:00ぴったりから視聴を始める。
金曜ロードショーにはCMや冒頭の「前フリ」がある。そのせいで「ヨーイドン」で見始めても、DVDに遅れをとる。結果、タカハシ先生が「もののけ姫」を見終わった後にチャンネルを回すと「まだもののけ姫がやっている」という現象が発生するのだ。
これをタカハシ先生は「ロードショーロードレース」と呼んでいた。
ハッキリ言って意味はわからない。
レースでもなんでも無い。
純然たる事実なだけで駆け引きもない。
むしろショートカットのズルをしているような気すらする。
なのに「どうだこの発明は!」と目をキラキラさせながら語っていたタカハシ先生の笑顔は忘れられない。
楽しみ方は人それぞれ。
折角だから今夜は僕もロードショーロードレースをしてみるか。或いは、ロードショーを見てからDVDにいく豪華二本立てパックもあるぞ。考えるだけでワクワクしてきた。
嗚呼、いい日になりそうだ。