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シェアを前提とした美術館での写真撮影の普及

マーケティングの世界では、消費者の購買行動がネットの普及する前と後では大きく変化したと言われています。

まずネット普及前、人は商品の情報を主にテレビや雑誌で取得していましたが、今はSNSで目にした商品に興味を抱く人が多数派となりました。
また以前は商品を購入したらそれで終わりだったものが、今は購入後に商品の感想や写真をSNSで発信するという行動が加わりました。
こうしてシェアされた情報がさらに別の人の購買行動を引き起こすことが分かっています。
つまり人は、公式アカウントから押しつけられる情報よりも、友人・知人やフォローしている誰か、またはプラットフォーム側がリコメンドでランダムに出してくる情報などでふいに目にした情報の方に心が動き、購買行動に移るのです。

これは美術館としても決して無視できない流れです。
美術館単独でマスメディアに匹敵するほど大規模な告知をするのは至難の業ですが、お客さんの力を借りれば非常に多くの人に情報を届けることが可能になるのですから。

展覧会を見た人にその感想をSNSで発信してもらい、その投稿を目にした人の中の何人かが興味を持って美術館に足を運んでくれる。そしてその人がまたSNSで発信をして……という連鎖反応が起きることが理想です。
そのために美術館は、お客さんが誰かに教えたい、見せたい、シェアしたいと思うような仕掛けをいかに用意するかが重要になってきます。

誰でも思いつく、そして比較的低予算でできるのがフォトスポットの用意、それからハッシュタグ企画などでしょう。
フォトスポットは会場入口などに展覧会のテーマに合わせた壁紙や簡易オブジェを用意して、そこで自由に写真撮影をしてもらうというものです。ハッシュタグ企画というのは、展覧会の感想を美術館側が指定したハッシュタグ(「#展覧会名」など)をつけて投稿してくれた人にちょっとした特典をつける企画のことです。このあたりはどこでもやっているので、正直なところ効果はあまりありません。
またクスッと笑わって思わず人に見せたくなるようなミュージアムグッズが増えているのも同様の狙いが根底にあります。

そして何よりも効果が高いのが、展示室内の写真撮影を許可することです。

前述のフォトスポットは基本的に会場の外の話であり、みなさんご存じの通り美術館の中は原則として撮影禁止です。展示室に並ぶ作品は必ずしもその美術館の所蔵品とは限らず、他館やコレクターさんからお預かりしているものも多いですし、そもそも作家の著作権も守らなくてはいけないからです。

しかしここ十数年の間でだいぶ様相が変わってきました。
展示室内の一部、または全作品の撮影を許可する美術館が増えてきたのです。「SNSを有効活用した展覧会の広報」のところで紹介した森美術館の「レアンドロ・エルリッヒ展」と「塩田千春展:魂がふるえる」は会場内の撮影を許可したことで、来場者が思い思いの写真を撮り、それをSNSで発信したことが起爆剤となりました。

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