美術館は誰かのサードプレイスになり得るか
前回からの続きです。
結論から言うと私は、美術館が誰かのサードプレイスになるのはちと難しいかな、と考えています。
なぜならサードプレイスが成立するために必要不可欠な要素とは「人との交流」だからです。
家族とも職場の仲間とも違う第3の人間関係を作り、その輪の中で会話を交わすことで硬直した社会人というスーツを脱ぐことができる、というのがサードプレイスの本質です。
前回の記事でスタバがサードプレイスを標榜していると述べましたが、その意味では日本の多くのカフェ(スタバを含む)もサードプレイスと言えるか疑問符がつきます。
個々人がコーヒーを飲みに来てそこで時間をつぶすだけならば、それは単にリラックスできる場所に過ぎません。定期的に通って、店員さんなり他の常連さんなりと顔なじみになり、「やっほー」「あ、久しぶりですね!」と一言二言会話を交わすような関係性ができた時に初めてカフェはサードプレイスとなるのです(私には無理だな)。
とかくこのように、本来サードプレイスは人とのつながりが生まれるところでなくてはいけません。
では美術館はどうかと考えてみると、日常から離れてのんびりできる場所であったとしても、基本的に他者と交流が生まれる場所ではないので、やはりサードプレイスとは言いがたいですよね。
美術館はサードプレイスにはならない、以上。うーん、これでは面白くないので、もう少し話を続けてみます。
私としては、美術館はサードプレイスならぬ「フォースプレイス(第4の場所)」になり得る、という主張をしたいのですが、その前に美術館がサードプレイスとして機能する可能性をもう少しだけ探ってみたいと思います。
美術館という場で、サードプレイスに必要なコミュニティを作る方法を3つ考えてみました。
(1)美術館主催のイベントに定期的に参加する。
美術館では展覧会の開催に合わせて様々なイベントが行われます。講演会やギャラリートークなどの他に、体験型、参加型のイベントも数多くあります。
一方的に話を聞くだけのイベントでは特に横のつながりは生まれませんが、最近どこの美術館でも積極的に行っている対話型鑑賞のような、少人数のグループで相互に話し合いながら行うイベントに定期的に参加すれば、その中で顔見知りが少しずつできるはずです。
(2)ボランティアとして美術館で活動する。
ボランティアを募っている美術館は多いです。(1)のようなイベントを開催するにしてもスタッフが必要ですが、学芸員を含めて美術館の職員数には限りがあります。そこで美術が好き、美術館という場所が好き、そんな人たちにボランティアという形で補助してもらうのです。
美術館によってボランティアが何を任されるかはまちまちです。総じてギャラリートークや館内見学ツアー、対話型鑑賞、子ども向け鑑賞教室など、教育普及関係のイベントに携わるパターンが多いです。まさに人との交流がメインとなります。
もちろんいきなりこうしたイベントを担当することはできませんから、研修を重ねる必要があります。そうした中で学芸員や同じボランティア達とのつながりが生まれて、美術館が自分の居場所の1つになるのです。
ボランティアなので当然無報酬となりますが、美術館の内側に入ってたくさんの人とコミュニケーションを取ることにやりがいと喜びを感じる人は多く、どの館もボランティアを募ると定員を超える応募があります。思い切ってこうしたボランティアに参加してみるのも手でしょう。
(3)ネット上で顔見知りを作る。
3つ目はリアルのコミュニティではなくオンライン上のコミュニティです。オンラインサロンに入りましょうという話ではありません。
前に記事で言及したアウトプットとしての発信とつながってくるのですが、SNSでもブログでも良いので、お気に入りの美術館のことや行ってみて良かった展覧会のことをコツコツと発信してみましょう。
次第にそんなあなたの発信に共感を覚えてフォローをしてくれる人が出てきます。逆にあなたの方からいいなと思ったアカウントをフォローしてみましょう。またコメントをもらったり、こちらからコメントしたりすることもあるでしょう。
これは言わばネット上の顔見知りですよね。多くの場合は匿名のやり取りになり、名前も年齢も職業も分からぬ者同士ではありますが、これだって立派なコミュニティであり、広い意味では美術館を介したサードプレイスとなるのです。
以上のような手段で工夫すれば、他者との交流が生まれづらい美術館であっても十分サードプレイスとして活用できるのではないでしょうか。もちろん無理に美術館をサードプレイスにする必要はないのですが、居場所を探し求めている人の何かのヒントになれば。
さて、先ほど触れた「フォースプレイスとしての美術館」についてはまたあらためて書きたいと思います。