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展示作品の著作権と撮影許可のはざまで
今回の記事は、一部過去記事を編集して掲載しています。
展示室内の撮影を許可するかどうかについて、少し美術館側の事情を説明させてください。「バンバン撮影して、ドシドシSNSにあげてくださーい!」と簡単に言うことができないのは、前回少し触れた通り、展示している作品を創作した作者の著作権を守ることが必要不可欠だからです。
そもそもの大前提として、すべての著作物には著作権があります。
著作権とは、作品がこの世に生み落とされた瞬間に、その作者が持つことになる権利です。権利を取得するために、どこか役所に申請する必要もありません。
プロとかアマとか関係ありません。あなたがノートに描いた落書きでも、ポエムでも、オリジナルの創作物であれば、あなたに著作権があります。
著作権は、日本の著作権法では著作者が没してから70年間有効とされています(少し前まで50年間でしたが、延びました)。作者が没した後は、ご遺族などが著作権を引き継ぎます(第三者に譲渡される場合もあります)。
著作権があるものは、勝手に印刷やコピーすることができません。撮影してウェブ上に載せたりもできません。すべて著作権者の許可が必要です。
というわけで、展示作品が著作権保有期間内である場合、当然ながら美術館が勝手に撮影を許可するわけにはいきません。
たとえ美術館が予算をつけて購入し、収蔵している作品であっても、著作権はあくまで作者にあり、例えば展覧会図録を作るにしても、図版を掲載するには著作権者から許可をもらわなくてはいけないのです。
これを説明すると結構驚かれます。自分の物のようで自分の物ではないという感覚ですね。
つまり、もし学芸員が担当する展覧会を誰でも撮影可としたいのであれば、前もって展示作品の著作権者全員に許可をもらわなくてはいけないのです。
その展覧会が一人の作家を扱う企画ならまだしも、何人もの作家の作品が出ている場合、こりゃ相当大変だぞ、というのは想像できますよね。さらに著作権使用許可に金銭が発生する場合もあります。また、特定の人だけが許可してくれない場合もあります。とまぁ、色々やっかいなのです。
そこで、誰でも思いつくアイデアとして最初に挙げたフォトスポットという無難な解決策に行き着くのですが、「はい、ここが撮影スポットですよ。ここで撮りましょうね」とお膳立てされてもわりと白けますよね。
ただし、著作権法もご時世に合わせてマイナーチェンジしています。
著作権法の中の「付随対象著作物の利用」という項目(第30条の2)では、写真撮影や動画撮影をしていた時に背景に著作物(著作権のある創作物)が写り込んだ時の考え方が示されています。写真や動画を撮影していて、その中に別の著作物が含まれていても著作権侵害にはあたらないということになりました。
「え、じゃあ、展示室でもセルフィー(我ながら古い!)使ってバンバン自撮りしてもいいってことじゃん!」と思ったあなた、落ち着いてください。
条項の該当部分をよく読むと「当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る」とあります。つまり、「背景にちょっと写っちゃったぐらいなら許す」ということです。でも、「軽微」の度合いが結局判断できないですよね。うーん。
文化庁は以下のようなケースは、この法改正によって著作権侵害とはならないとしています。
「写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合」「街角の風景をビデオ収録したところ、本来意図した収録対象だけでなく、ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合」「絵画が背景に小さく写り込んだ写真を、ブログに掲載する場合」「ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を、放送やインターネット送信する場合」(文化庁HP「いわゆる『写り込み』等に係る規定の整備について」より引用)。
でも、これらのケースでも、最終的には「個別具体の事例に応じ、司法の場で判断されることになります」とあります。ものすごくグレーですよね。
この著作権法に新たに加わった「写り込み」という概念と照らし合わせても、美術館での写真撮影はまだまだ検討課題が多いことが分かります。
展示室で写真撮影をした時に、人物がメインでその後ろにちょっと絵が写っただけなら許容範囲かもしれませんが、作品を単体で撮影したとしたら、それは完全に著作権侵害にあたります。
でも、来館者がどんな撮影をするか一人一人に監視スタッフが張り付いて、「その撮り方ならOKです」「あ、作品だけ撮っていますね。はいアウト!」みたいにジャッジするなんて現実的にできませんよね。なかなか難しい問題なのです。