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再整備に欠かせない「世代を超えた生活設計」という視点|【イベントレポート】

密集市街地の防災性と住環境の向上に取り組んできたUR都市機構(以下、UR)の15の事業手法を総覧した書籍『密集市街地の防災と住環境整備』。
その出版を記念して2017年11月21日に行われた東京・密集市街地再生フォーラムに続き、「密集市街地の防災と住環境整備:関西編」と題した出版記念セミナーを2018年2月9日、大阪にて開催しました。

今回はこのイベントレポートを3回に分けてお送りします。
大野さんからの概要紹介(→レポート第1回)のあとは、中迫悟志さん(門真市副市長)、林和馬さん(URリンケージ)、塩野孝行さん(UR西日本副支社長)によるプレゼンです。


門真市の密集市街地整備:中迫悟志さん(門真市副市長)

まず中迫門真市副市長から門真市における密集市街地整備事業の取り組みについてご紹介がありました。

門真市は産業も多く根付き、住工共生のまちです。
市としては、地域再生の手がかりとして防災整備に取り組んでおり、高度経済成長期に人口急増(昭和34〜45年に11万人増)の受け皿として形成された密集市街地は空き家も増えつつあるため、大阪のインナーエリアとして新たな住民の定着を目指しています。
住工共生のまちとしての特性を生かして、より多くの雇用と生活を連動して支えることで、人口減少による税収減や生活保護世帯割合の改善などもなども図れるそうです。

門真市における密集市街地の現状

とくに市の北部を中心に老朽化住宅に後期高齢者が集中しており、近い将来空き家が大量発生する恐れがあるそうで(現状も1400件ほど)、空き家の対策も重要な課題だといいます。

これまでも面整備を中心に、波及効果にも期待しつつ取り組んできたそうですが、それだけでは限界があり、2017年の防災街区整備地区計画の導入、2018年からは除却補助、防災空地制度の導入(公共の借り上げによる固定資産税免除を検討中)に取組むとともに、待ちから攻めの姿勢で主要生活道路整備を進めたいと思っているそうです。

また、ワークショップや空き家を活用した防災啓発を行うなどにより、一層、住民の理解を深めていきたいと思っているということでした。

 「サーカス型」から「運動会型」へ:林和馬さん(URリンケージ)

続いて、URリンケージの林和馬さんです。林さんはもともとURに所属し、本書で紹介している関西3地区を除いて、東京9地区に関わってこられたベテランOBです。

戸越1・2丁目では、生活再建が難しい「借地関係」の解消、及び、道路整備の補償費を原資として、地区内での生活再建を実現しました。また、地区計画導入の支援にあたっては、まず最初にまちづくり協議会の改革を行ったということです。

これまで、行政の綱渡り(まちづくり)を住民が眺めている「サーカス型」から、住民にも一緒に参画してもらう「運動会型」に変えることからスタートしたと言います。
道路を拡幅すると残地で生活再建ができない住民の賛同が得られず、長年停滞が続いていたようですが、丁寧に説得を続け、誇りを持って住み続けられるまちを、住民の皆さん自らが維持していくきっかけの事業であることを粘り強く訴えます。
「老い先短いですし」と事業参画に消極的な高齢者には、「防災のため」だけではなく「孫世代に良いまちを残すために一肌脱いでくれませんか?」と伝えたと言います。

現在進行中の事業でも、「残地でちゃんと家建つの?」「権利はどうなるの?」といった住民一人ひとりの疑問・不安を、民間事業者と連携して親身にケアすることに力を入れており、都・区・民間のハウスメーカーなど、いろんな事業主体と連携しながら総合的に地域に目配せをすることもURの大事な役割だと林さんは言います。

任意事業としての可能性:塩野孝行さん(UR西日本副支社長)

最後にお話しいただいたUR西日本副支社長の塩野孝行さんからは、URの先輩方が、大阪の二葉町・大島町や東大利、門真市本町などで整備事業に取り組んできたという紹介がありました。

また、ご自身の関東勤務時代にも、東京・墨田区京島をはじめ数々の現場に関わられていました。
最初に担当した東池袋の小さな事業で、パズルのように権利者の意向を汲み取っていく「任意型再開発事業」の進め方は、「法定再開発事業」から入った身として目からうろこだったそうで、権利者さんとの共同事業や民間賃貸など様々な事業と制度を重ね合わせました。
塩野さんいわくそのプロセス自体が“近隣対策”になっていたと言います。

“等価交換ならいいよ、土地を貸すならいいよ、という具合に権利者の意向を聞きながら事業を進めていくと、「共同化はしません」と断った住民も近隣との関係から事業自体には反対しづらくなり、結果として事業はスムーズに進みました。”

また大阪・門真市と東京・墨田区京島を例に関西と関東の密集市街地特性を見ると、関西は単独所有、不在地主、賃貸より分譲が勝るなどの特徴があると言います。
地権者は単独所有を希望し、建物の更新も戸建が多く、不在地主の割合が高いことから交渉が難航しがちです。
また、集合住宅より戸建需要が高いため、大阪であっても6m程度の道路を整備しても東京のようには地価が思うように上がらないというジレンマを抱えています。
民間事業者にとっても、事業規模が小さいことから戸建住宅による事業費回収のほうが確実で、戸建住宅が経済的な出口となってしまうことが特徴課題だと言います。 

また住民との意思疎通の現場経験から学んだこととして、相手の立場を尊重する(負の側面の列挙は住民の人生を否定されているようで当人は辛い)こと、慎重に言葉を選ぶ(生活“再建”は過去の否定と受け取られかねないので「生活設計」にするなど)ことなどを挙げられました。

第3回に続く

密集市街地の防災と住環境整備
実践にみる15の処方箋

UR密集市街地整備検討会 編著

ひとたび火災や地震が起これば脆弱さが露呈する密集市街地。日常を快適に暮らしつつも、災害で生存を危ぶまれることのない都市の再編に向けて、UR都市機構が取り組んだ15の事業手法を総覧。道路拡幅や共同化、防災公園整備、住民の生活再建策や合意形成手法、自律更新の誘発まで。35年に及ぶ多様な課題解決へのアプローチ。

A5判・288頁・定価 本体2700円+税


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