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§10.5 “男を女にすることはできない”/ 尾崎行雄『民主政治読本』

“男を女にすることはできない”

“イギリスの議会には万能力がある.よその国では革命でなければできないような仕事を,イギリスでは議会の決議によって,血を流さずに解決することができる”というのがイギリス人の自まんである.
 しかし,その万能力のあるイギリスの議会でも,たった一つできないことがある.それは“男を女にすることだ”といわれる.男を女にすることができないという意味は,道理にそむく多数決,事実に反する多数決はなりたたないということだ.いかに多数党からの提案でも,男を女だといいはるような理不尽なことは,多数議員の良心が承知しないから否決せられる.たとえ少数派がいい出しても雪は白い,墨は黒いというような,争うことのできない主張なら,良心のある議員多数の賛成をえて可決せられる.いついかなる場合でも,事実と道理にそむいた多数決は,なりたたないという,このたった一つのできないことがあるから,イギリスの議会は万能力を有することができるのである.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月7日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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