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§4.5 心配無用/ 尾崎行雄『民主政治読本』
心配無用
幸に世界中に戦争がなくなれば,日本に軍隊がないからとてすこしも心配するに及ばぬ.かりに戦争が起る場合を考えて,もし軍備を必要とするなら,その軍備は必ず,世界の大国数箇国の連合軍に対抗し得るくらいの,世界第1流の軍備(単に陸海空の直接軍備だけではだめだ.産業・経済・文化・科学等を綜合した間接軍備を含めた軍備でなければならぬ)でなければ役に立たぬ.そうして,そんな軍備を維持することは,たとえ連合国が許しても日本の国力が許さない.わが国力の許す程度の中途半ぱな軍備なら,むしろない方が国家のためには安全だ.
かくて,これまで国費の半分以上をくっていた軍事費が産業の発展・教育の振こう・文化の発展というような方面にふりむけることになれば,日本の前途には,今までにかつてなかったほどの洋々たる希望がもてるではないか.
その上,年々何十万という青年が不生産的な軍隊に入営せず,封建的な奴れい教育もうけず,全国民が戦争の脅威からまぬがれて,一意専心,文化国家の建設に奉仕することができることを思えば,軍備てっぱいのもたらす幸福は想像以上のものであろう.
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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年2月12日公開
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