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GAKUルーツ《田故知新》vol.12

2023年11月27日からスタートした
【GAKUルーツ《田故知新》】
1972年から47年間発刊し続けてきた田楽座新聞。
その新聞から抜粋して、今の私たちにつながる先輩たちの言葉や想いをお届けしたい!応援してくださっている皆さまと共有したい!という思いで始まった連載。
今月でいよいよ最終回です!

2018.8月号より

●50周年作品「信濃」が終わりましたが、今後は? しばらくは「信濃」や前作「ふるさとこよなく」のような、ストーリー性のある作品はつくりません。 田楽座本来の歌舞集、過去の例でいうと「万歳楽」や「にぎわい」「山神里神祭神」のようなシンプルな作品が主体になります。

●「田楽座本来の」とは、どういう意味?
 田楽座は元々は、秋田のわらび座から根分けされて生まれた「民族歌舞団」なので、日本に伝わる歌や踊り、太鼓などを順に見せていく歌舞集が一番原点にあります。演劇的なものも影絵芝居など部分的にはやってたようですが。
 でも長野県で活動を始めてみると、「歌や踊りもいいが、芝居はやらねえのかい?」とリクエストが来る。長野県民は演劇好きなんですよ。そういった環境の要請に合わせて、演劇もするようになっていった。

●民族歌舞団?田楽座は「歌舞劇団」じゃないんですか?
 最初は「信濃民俗芸能研究所 田楽座」だったんです。民族芸能の宝庫、伊那谷で精力的に芸能調査はするけれども、本業としては舞台集団だったので、名前と実態にはギャップはあった。
 公演では「第1部 歌舞集、第2部 演劇」みたいな形でやってたんですが、「自分たちはお芝居の劇団ではなく、民族歌舞団なんだから、これまでにない、全く新しい日本の歌舞劇を作っていくべきだ!」ということで、「歌舞劇団 田楽座」と名前を変えたようです。

●「歌舞劇」ってなんですか?
 例えば「信濃」の盆踊り狂言※①のようなものです。盆踊りは単調なフリの繰り返しなので舞台化しにくい。それに「お盆に現世に帰ってきた亡者と踊るのが盆踊りです」とリクツの解説はアタマの中を素通りしてしまいがちですが、ホントに亡者が出てくればインパクトもあるし、情感をもって伝えられる。それが歌舞劇の強みですね。
※①盆踊り狂言「盆亡者現世参」
 50周年記念作品「まつり芸能楽 信濃」で上演した、信州の盆踊りをモチーフにした歌舞劇。お盆にあの世からやってきたカツヒコとヤスオの亡者コンビが、現世の変化にとまどいながら繰り広げられる物語。

●「DENGAKUZA LIVE」※②には歌舞劇は全く出てきませんが・・・。
 実は「ふるさとこよなく」や「信濃」の感想で「もっと太鼓が見たかった」という声がけっこうあったんです。
 田楽座の顧客層には太鼓ファンも多くて、そういう人は田楽座といえば「海のお囃子」だと思ってるので、「信濃」だと物足りない。そういう観客向けに作った「LIVE」と、歌舞劇や土着の民俗芸能メインの「信濃」は、お互いにないものを補い合う、両輪の関係だったんです。
 演劇好きな長野県に適応していったように、太鼓を観たい観客層もいる、という実情に適応して「LIVE」ができた、とも言えますね。
※②DENGAKUZA LIVE
 太鼓を通じて田楽座に興味を持ってくれる顧客層をターゲットにした作品。「海のお囃子」など普及している田楽座の創作太鼓曲のメドレーや、太鼓芸能が中心。

●田楽座も、いろんな実情に適応して形を変えていく?
 そうですね。昭和39年の旗揚げ公演の演目に「お笑い歌謡コント」というのがあるんですよ。「観客に楽しんでほしい」という姿勢は創立期から一貫しています。
 クリエイターとしてのこだわりは、どの時代ももちろんあったと思いますが、観客を突き放した悪い意味での「芸術」ではなく、老若男女あらゆる世代が純粋に楽しめる舞台を目指してきた。
「健康で明るく底抜けに楽しい」という創立当初からのキャッチコピーが、田楽座の姿勢をはっきり表してるな~と思いますね。

●舞台の内容は変わっても、底辺に流れている精神は変わらない、と。
 伝統芸能って、古いから意義があるんですけど、古いだけじゃ片手落ちなんです。古いものの良さを、新しい時代の人に伝えて、はじめて意義があると思うんですよ。
 「信濃路の民俗芸能に、新しい時代の息吹を!」というキャッチコピーも創立期のものなんですが、「新しい時代」を常に意識していた。作品タイトルも「祭りバラエティー大吉」「まつりファンタジー 花・鬼・雪」とかカタカナも多いんですよ。ギター持って歌ってる若者の絵が描いてあるポスターもある。田楽座Tシャツの初期バージョンは「DENGAKUZA」「JAPANESE COUNTORY SUPIRITS‼」ですから。
 先日、チラシをお願いしたデザイナーさんに創立期からのチラシやポスターを見てもらったんですけど「けっこう・・・融合してますね」と(笑)。

伝統芸能なんだけど、マニアや通な人向けではなくて、現代社会で普通に暮らしている人がターゲット。伝統芸能だからこそ、若者や子どもが楽しめるものに嚙み砕いていかないと、伝統の魅力が未来に継承されていかない。それで伝統が廃れてしまったら、元も子もないわけです。
 幸い田楽座は「海のお囃子」とか、創作の太鼓曲をたくさん持っていて、若い世代が伝統芸能の世界に入ってくる入口になっている。太鼓ファンは子どもや若い人も多いので。
 太鼓サークルは、30年近く前から、田楽座の新人供給源にもなってます。
 最初は太鼓にしか興味のなかった新人も、だんだん郷土芸能に興味関心が深まっていく。適応できずに辞めていくひともいますが、入らないことには未来に希望がないですから。

●近年はWEBやSNSなどでも積極的に発信していますね。
 遅まきながらですが(笑)。新しいツールの導入に及び腰だったのは、古い支援者からの理解を得られないのでは、という心配があったからです。田楽座ファンも私たち自身も、どちらかと言えばレトロ、アナログ、オーガニックなものなので。
 でも「1人でも多くの人に古い文化の良さに気付いてもらう」というのが田楽座の使命ですから、世の中の大多数の人が利用しているツールを使わない、というのは本末転倒なんですよね。芸術を通じた文化運動でもあるので、社会的な影響が大きいならこだわらずに活用すべきだ。だからガンバって世の中に着いていこうよ、と。

●田楽座の今後の課題は?
 当たり前のことですが、この厳しい時代に、いかに「お金」につなげていくか、ですね。
「お金」はとても難しい問題。「田楽座には商業主義になってほしくない」と心配する声もあります。商業主義の何がマズイかというと「売れる内容」「受ける内容」しか上演できなくなる、ということ。それじゃテレビと一緒じゃないか、と。
 でも「プロでやっていきます」というのは、「お金で自分達の価値を測ってください」と宣言した、という意味だと思うんです。
 プロでなくてもいいものをつくる方法はありますが、一方で「お金」が絡んでいるからこそ、できることもある。
 日常的に上演を繰り返し、ムダを切り詰めて効率化・洗練し、シビアな観客の批判にさらされ、専業として常に試行錯誤し続けることで、コンテンツに魅力を高めていける。お金が絡んでなければ、できないことです。

●田楽座の活動には文化運動としての側面もあると思いますが・・・。
 まさしく舞台芸術を通じた文化運動そのもの。だからこそ、です。世の中大多数の人が、「お金を払ってでっも見に行く価値がある」と思っていないなら、文化運動として失敗してるよ、と自分たちを戒めています。
 コンテンツそのものの充実はもちろんですが、いかに潜在的に欲している人たちとの接点を作るか、つまり宣伝が一番の課題です。

 あとは人手!おかげさまで仕事は山のようにありますが、田楽座史上空前の人手不足なので、やる気ある若い人はどんどん入ってきてほしいです。
 座員になるという形でなくても、田楽座の活動に力を貸せるよ、という方には、どんどん頼っていきたいと思っています。そういう人材の活用方法も、新しい時代に合わせて考えていきたいと思っています。

最後に、2016年より始まった連載
【博物館でんがくざ 「松田満夫のしごと」】より
《資料No.1 電磁弁用スイッチボックス》

2024年の楽まつりでも、松っちゃんのスイッチボックスが
舞台に花を降らせてくれています。

《資料No.3 盆行灯》

松っちゃんがのこしてくれたもの
今でも大切に使っています。


《特別編 ふるさと大町での軌跡》

「私たちにできることは熱い支援に舞台を通じてお返しすることです。
遠く離れていても心は1つ。
民俗芸能のすばらしさを多くの人に知ってもらうこと。そして人と人とをつなぐ強力な接着剤としての田楽座の役割をもっともっと広めること。
また必ずあったかく見応えある舞台をつくってお目にかかりたいと思います。
よろしくお願いいたします。」
松田 満夫
(まっちゃんが想いを綴ったメモより)


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