投手戦
「ストライク!バッター鎌田追い込まれました。9回裏ツーアウトランナーなし。今日3三振の鎌田、最後のバッターになってしまうんでしょうか」
はぁあ、おもしろくない試合。退屈だよ。
50インチの薄型画面の前で最近野球に興味を持ち始めたばかりのキミコはため息をついた。
1ヶ月前、それまで一度も興味を持ったことのなかった野球の試合を、キミコは、今年新卒で入社した会社の一個上の先輩であるタケオに誘われて生まれて初めて観に行った。
その時の試合は、外野の応援席で観戦していたのだが、両チームとも打ちに打ちまくりの乱打戦で、スタンドは大変大盛り上がりで、キミコも気づいたらホームチームの点数が入るたびに、前後の見ず知らずの人たちとハイタッチして喜びを分かち合って楽しんでいた。
その日以来、キミコは野球の試合をテレビでもみるようになったのであるが、
この度の試合は野球素人のキミコからすれば大変つまらなく退屈な試合となっていた。
後攻のチームは初回と6回に生まれたヒット2本を除き完全に押さえ込まれ得点なし。
先攻のチームも2-0で勝ってはいるものの、ヒットは初回のエラーがらみのツーランホームラン1本のみで、初回以降なんの展開もなくここまで試合が進んでいる。
野球素人にとってこんなにおもしろくない試合はない。
私にとって今日はそんな気持ちと重なるような1日であった。
木曜日に東京都知事からコロナウィルス感染拡大防止のために週末の外出自粛要請が出され、日曜日の今日、私は一日中ずっと家にこもっている。ちょっとぐらい散歩してもいいだろうかとも思ったが、外は雪も降っているしそんな気分にもならなかった。
退屈だ。
こんなに何もない一日が退屈でつまらないんだなと身をもって感じている。普段仕事をしていたり体を動かしている時間が、疲れるけど心地よい時間だったんだなと身をもってひしひしと感じる。
まさに試合に展開がほとんどない「投手戦」の試合のような気分だ。
もちろんその裏では、感染拡大防止のために今日も懸命に動いている人たちがいる。ワクチン開発に寝る間も惜しんで尽力している人たちがいる。ただ傍観して退屈しているだけの私たちの裏で命をかけて戦っている人たちがたくさんいる。
その中で私は、逆転サヨナラホームランのような刺激的でハッピーな出来事が何か起こってくれないかなぁと、この文を書きながら思っているのであった。