XRライブストリーミング・Jupiter A VIRTUAL JOURNEY
Jupiter A VIRTUAL JOURNEY を行なって1週間、沢山反響を頂いている。
プレイヤーとして、アーティスト・YELLOCK として表現したかったものという側面が大いに強かったストリーミングにはなったが、このログではプロデューサーとしての側面から、自作自演さらに自評という形で、Jupiter A VIRTUAL JOURNEYを振り返ってみたい。
最近実は少しコンサルじみた仕事の依頼が来ることがある。ライブストリーミングについて研修してくれ、的なものだ。
音楽業界からではないオファーもいくつかあって、だいたいお茶を濁してお断りしてしまってるのだが、毎回無下にするのも少々後ろめたいのは事実なので、その穴埋めというわけではないが、Jupiter A VIRTUAL JOURNEYを解説する形で、ここに自分が真に信じている中核部分の触りを話してみたいと思う。
●"今"である必要性をデザインせよ
サザンの無観客ライブが大成功に終わったが、実は収録でした、という炎上話も記憶に新しい。
無観客ライブ、オンラインセミナーの大概がYouTubeにアップしておいてもらえれば後で見ます的な温度感のものばかりで、そのまま言えば、"今"見る必要がない。
Jupiter A VIRTUAL JOURNEYは、9/26、木星と月が数年に一度近付くその日に開催し、木星旅行と銘打ってストーリーを組み上げた。
これは言わずもがな"今"見ないとイベント体験にリアリティを失う。
さらに極力、映像出し、エフェクト、曲出し、コミュニケーションなどは即興的なライブパフォーマンスに努めた。(ショーなのである程度の進行は詰めているのだが)
これは技術側の側面を理解すると、苦労が10000倍に膨れ上がるということは秒で納得してもらえると思う。
なので大概のプロダクションはリスクを取れず収録、もしくはバラバラの演出になるわけだが、そこにライブのリアリティは当たり前だが無い。だから空間ビジュアルを担うH2KGRAPHICSと、Unreal Engineのプログラムを担うAyumu Nagamatsuとは数日缶詰になってリハを行った。毎日朝から夜中までスタジオ詰め。度重なるエラーにエラー。これにはホントに根気が必要だった。付き合ってくれた2人には本当に感謝したい。
世界一のフェス・Tomorrowlandが8月にバーチャル配信を行なったが、正直な話個人的に全く興奮しなかった。(もちろんプロダクションレベルは凄まじいが)
それを教訓に、今である必要性にはかなりこだわった。後述する体験共有にもそのエッセンスを入れまくっている。
●リアルの代替にならざるべし
Ultra Japanの運営に長年関わらせて頂いているのでより強調したいが、コロナ以降DJストリーミングでUltraの配信アーカイブを超える感動共有コンテンツを見たことがない。
当たり前だが、リアル表現はリアルイベントには絶対に勝てない。当たり前すぎる。
だけど、何故かみんなこれを履き違える。
ストリーミングでしか表現できないものを追求しないと意味がない、と確固たる価値観がある。
Jupiter A VIRTUAL JOURNEYには、リアル表現としてのフックをいくつも残しながら、基本の世界観は全て非現実を貫いた。
最後に渋谷のモデルを使っているので、いやそれリアル表現やんけ、て思われる向きもあろうが、いやいや完全にバーチャルなんです。
渋谷のスクランブル交差点で大花火を打ち上げる
Q-FRONTの影から巨人が踊り出す
横断歩道がスクリーン化する
完全にバーチャル表現なのです。
渋谷という街のモデルはリアル感覚を止めておくためのフックでしかなく、どちらかというと上のバーチャル表現を際立たせるための装置として使われた。そして最後には破壊した。リアル表現なわけがない。
余談だが、破壊した渋谷でショーを終えたので、続きは破壊された渋谷から始まるのか、、みたいな考察をいくつもされてしまったが、正直ノープランもいいところだ笑 続きなんて考えてそもそも作っていないので。
ただリアルでないものを考えろ、というのは実は逆説的で非常に難しい。これは取り組んでみてとてもよく分かった。数々の映画監督を本当に尊敬し直したし、全く歯が立たないアートの領域だった。
ここの領域は、9B K2HGさんが大きな指針を立ててくれた。素晴らしいアートディレクターだと思います。
●体験を共有せよ
このイベントを立案するにあたって、青山faiで行われていた過去59回のJupiterは当然意識した。奇しくも、イベントの中心人物DJ AKi, 9B, 私は九星気学でいうところの、木星人。木星というテーマは外せなかった。
そこでUnreal Engineに木星のアセットを組んで、実写DJを3D合成をしてイベントにしよう、とそれはすぐに考え付いた、技術検証もできていた。
だがそこには大きな落とし穴があって、オーディエンスにはただ遠くの星の遠くの出来事で終わってしまう。
木星旅行いうテーマは実は"旅行"という方が重要なファクターなのだ。つまり、木星ライブだとただの観賞会になってしまうが、木星"旅行"にすると、ユーザーとの体験共有に変わる。この違いはとてつもなくデカい。
木星への旅路を共有しながら、さらにブレイクダウンして体験共有できる小イベントもたくさん設計した。例えば、木星着陸時のカンパイ。このカンパイを共有するためにグラスまで作った。ハッキリ言って赤字だ。
だけど、Jupiter A VIRTUAL JOURNEYを本当に没頭体験してもらうための、リアルとバーチャルのブリッジとなるキーアイテムだった。
イベント全体を通じて共通目的意識を共有し、その中で起こる様々なハプニングを体験共有する。それが全てだと思う。技術やクリエイティブはそれを支えるツールでしかない。
●コミュニティの仲間の姿を毛先まで想像せよ
デジタルコミュニケーションも長く研鑽してきたので、同じことが言えるが、拡散されやすいメッセージというのは大概、ある特定個人に向けて200%共感されるようなものだ。
リアルタイムストリーミングではよりその特徴が強くなる。
この分野はDJ AKiが達人で、もちろん本人は狙ってやっていないと思うが、技術で紐解くと凄まじいことをさらっとやっている。
リアルタイムストリーミングには、コメントやハート、ビッツなどのコミュニケーションが横軸にあり、そこの満足度がそのストリーミングの良し悪しを決めると言っても過言ではない。
だが、これを、
みんな元気ー?アリーナ〜!
とかやってしまうと、オンラインでは全員が他人事になってしまう。
DJ AKiクラスになると、一人一人の名前を呼び掛けるのはもちろん、住まいの都道府県をレペゼンしたり、Twitterでその人たちが発信した情報などを拾ってコミュニケーションする。
本人も言ってるが、これは10年選手の配信者くらいでないと自然には出来ない芸統で、だがこれが画面越しのストリーミングをぐっと1to1の電話のような距離感に縮める。
かく言うYELLOCK、中の人の私は頭で理屈は理解しているのだが、そんな鍛錬されたコミュニケーションスキルはない。
ただ、当日のMCは一切事前に決めず、なるべくタイムラインの人たちの様子をイメージして、コメントに呼応するようにコミュニケーションすることを心がけた。
もちろんニワカなので全然出来てはいなかったと思う。
しかし不思議なことにこれらを意識するだけで、プレイのムード、モードが全く変わった。
常にコメントに一喜一憂して、それが曲に乗る感覚があった。話す内容にももちろん影響した。
実際のイベントをやっていた時よりも、その場にいないのに、コミュニティの仲間のことをすぐそばに感じることができる。この感覚を双方で共有できる配信が良い配信なのだと思う。
●クリエイティブファースト、ビジネスネクスト
マネタイズ。よく議論になるところだが、はっきり言ってストリーミングで儲けようという魂胆が私にはあまり理解できない。そもそもデジタルコンテンツの金額的な価値は限りなく0に近い。何故ならただのデータだから。
だが個の信用価値を高めて、後に換金するというのなら100%アグリー。
今回は単純なプロジェクトマネジメントとしてのプロデューサーではなく、ファウンドして原資を作るところからプロデュースした。(というか海外や映画の世界ではこの意味でプロデューサーという肩書が使われるのが当たり前)
美談を語るつもりはないが、クリエイティブを絞って、懐に残しても良かったわけだが、リソースはクリエイティブに全投入した。お金だけでなく、自分個人のリソースもフルコミットだ。
チームの共通認識として、良いものを作る、アート表現を追求する、というスタンスがあった。経験上、ここに変なビジネスマインドを持ち込むと大抵チームがギクシャクし出す。
その全体感もあって、よりチャレンジングなスピリットが見てる人にも伝わったのではないかと思う。
細かいところで言えば、Unreal Engineの空間演出とVJの融合の完成度は他には真似できないところまで追い込めた。実写カメラの設定、合成の追い込み、さらにポストプロセスのカラーグレーディングにも生半可じゃない調整時間をかけた。完全にクリエイティブファーストだから成り立ったと自負できる。
このクリエイティブに評価や信用が追い付けば、ビジネスとして回すのは次の次の次くらいで考えてれば良いと妙な確信がある。
●最後に技術的な裏付け
親の影響でスターウォーズが好きで、本編はもちろんメイキングまでかじるように見ていた幼少期に、あるシーンに衝撃を覚えた記憶がある。
名女優ナタリーポートマンが何もないグリーン世界の中、決死の表情で、迫り来るドロイドを避ける演技をしているビハインドシーンだ。
伝えたいことや表現したいことがまず先にある。
当たり前だが、これもホントに見失いがち。
大概の人が感動するのは合成技術やCGではない、アナキンと共に懸命に戦うパドメの姿だ。
面白い技術に触れるとそれを押し出したくなる。
スゴテクを身につけるとずっとそればっかり披露したくなる。
だがハリウッド映画ともなると、その水準が当たり前すぎて、空気を吸うように凄まじい技術を駆使する。この感覚に頑張って近付かないといけない。
今回360°CG、マルチカメラ合成、モーションキャプチャ、破壊エフェクト、などなど様々な技術を盛り込んだ。そして弱小プロダクションゆえ、それら一つ一つに膨大なリサーチ、開発、実験が必要だった。
だがスターウォーズから見たら、So What?!だ。
彼らの感動に勝つには、コミュニティでの体験共有共感、これしかない。
技術の裏付け、技術の研鑽からの自信を血肉に染み込ませればこそ、こう言い切る余裕も少しは出てくる気がしている。
長くなりましたがここまで読んで頂いてありがとうございました。
もしかしたらいずれビジネスの競合になる方々にこの魂の出汁をパクられるかも、ともちろん思うんですが、大きな視点で見ると日本の音楽シーンが世界と肩を並べることが僕のミッションなので、そんな小さなことを気にせず、少しでも同業の方、関係者の方に参考になれば幸いです。
正直いくらカッコ付けても、僕らは所詮は数人のクリエイターコレクティブでして、これしきのイベントを行うにしても収支苦しくヒーヒー言ってる程度です。
楽曲制作、映像制作、合成技術、カメラオペレーション、ライティング、空間演出、配信運営、MD制作販売、フードコーディネート、宣伝、原資・収支管理、等々挙げればキリがない業務量を、数人で手弁当で行っていて、多方面に不足点を残しまくっていて全然恥ずかしい部分もたくさんあります。
全メンバーが同じマインドかと言われると時に意識が違って足並み揃わないこともあります。ビジネスなのかアートなのか、大人ですから付き纏う話です。
ただ個人的には、このXRライブの領域には、数年前より心から興奮を抑え切れないほどのワクワクするものを感じてまして、色々な鬱陶しい出来事をなぎ直してでもチャレンジしたいと思わせるものが詰まっています、まだまだ精魂注いでいく所存です。
引き続き温かくサポートして頂ければ幸いです。
Gak Nagamatsu
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?